ボツリヌス中毒予防のポイント
ボツリヌス食中毒の予防の基本は、ボツリヌス菌の特性を正しく理解し、これに対応
した適切な措置をとることであるが、これには次の4点が重要な予防上の着眼点になる。
(1)芽胞の耐熱性が強大であること:
前回も記載したように、A型菌芽胞を完全殺菌するには100℃で360分もかかる(pH7.0のリン酸緩衝液中)。内容物が中性に近い(pH5.5以上)食品で(魚介類、食肉、野菜等)常温で保存・流通するものでは、ボツリヌスA型菌芽胞を完全殺減するような加熱殺菌を行うこと。厚生省では昭和49年に、それまで常温流通の魚肉ハム・ソーセージ等に使用されていたフリルフラマイド(商品名AF2)の指定を取り消したが、これに伴い魚肉ハム等は原則的
に10℃以下の低温流通とし、常温流通する場合にはpH5.5以下、または水分活性(AW)を0.94以下とするか、あるいは、中心部の温度を120℃で4分間、またはこれと同等以上の殺菌効果のある加熱殺菌を限定した。この措置はA型ボツリヌス菌の増殖阻止または完全殺減を目標にしたものである。同様の主旨に基づいて、昭和52年には、内容物のpHが5.5以上の缶びん詰およびレトルト・パウチ食品(容器包装詰加圧加熱殺菌食品)についての製造基準が設けられた。
(2)ボツリヌス菌の増殖条件:
ボツリヌス菌は偏性嫌気性菌といわれ、缶びん詰やハム・ソーセージのように内部に空気のない環境を好んで増殖し、毒素を作る。この点、前回も記載した昭和59年に発生した熊本産の真空包装「辛子れんこん」のような食品は、ボツリヌス菌にとって好適な増殖場所といえる。
ボツリヌス菌は、pH4.5以上の中性に近く、かつAWが0.94以上の食品で、保存・流通温度が10℃以上であれば増殖・毒素産生が可能である(ただし、前号で述べたように、E型菌では3.3℃という低温で増殖し、毒素を産生する)。
(3)現在許可されている保存料ではボツリヌス菌の増殖抑制は困難である
かつて、日本で指定されていたフリルフラマイドはボツリヌス菌の増殖抑制に有効であったが、指定が取り消されたため使用できない。
魚肉ねり製品等に許可されているソルビン酸などの保存料は、使用許可濃度ではボツリヌス菌の増殖抑制効果は期待できない。欧米で古くから食肉製品の保存料として使用されてきた亜硝酸塩・硝酸塩は、ボツリヌス中毒予防に有効であることが確認されている。わが国でも発色剤として亜硝酸塩等の使用が認められているが、その残存基準(食肉製品に対し70ppm以下、魚肉ハム・ソーセージでは50ppm以下)ではボツリヌス菌の増殖は抑制されない。
(4)喫食前の食品の加熱:ボツリヌス菌の毒素は熱に不安定なので、食べる直前に食品
を80℃20分以上、または100℃まで加熱すれば無毒化することができる。しかし、北海道、東北の「いずし」のような漬物では加熱しないで食べるので、菌の増殖抑制や殺菌に重点を置いた予防対策が必要である。
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