セレウス菌は少量摂取しても決して食中毒にはかかることはなく、必ず、食品中でおびただしく増殖することが前提となっている。
本中毒の予防対策は他の食中毒細菌と変わらないが、参考のためGilbert4)ら(1979)の米飯および焼き飯による食中毒予防の4つのポイントを紹介しておこう。
(1) 一度に大量の炊飯をしないこと。焼き飯等の調理加工までの時間を短くすること。
(2) 炊飯後、米飯はすばやく高温(50℃以上)、または冷却して保存すること。調理後は2時間以内に冷蔵庫に入れること。米飯を放冷する時は、小分けをするか、清潔な容器に移し、できるだけ早く温度を下げること。
(3) 米飯、焼き飯は、10〜50℃の温度帯で保存しないこと。さらに常温では2時間以上放置しないこと。
(4) 焼き飯に使用する鶏卵は新鮮なものを使用すること。
上記の予防のポイントは、米飯だけでなくすべての調理食品にも適用し得るセレウス菌食中毒予防対策である。
ワンポイント・レッスン
感染型と毒素型食中毒の区別
わが国では、一般に細菌性食中毒は感染型、毒素型、その他の3つに大別してきた。感染型は生菌型ともいわれ、食中毒細菌(生菌)の濃厚汚染を受けた飲食物を摂取し、さらに原因菌が消化管等で増殖して起こる中毒である(例:サルモネラ、腸炎ビブリオ等)。これに対し、毒素型は、ある食中毒菌が食物中で増殖した際に産生する毒素を摂取する
ことによって発生する(例:ブドウ球菌、ボツリヌス菌)。ところでセレウス菌食中毒は感染型と毒素型の2面性があって、嘔吐型は食品中で産生する嘔吐毒によって発症する(食物内毒素型)。しかし、下痢型はヒトの腸管内で菌が増殖した際に作られる下痢原性毒素(エンテロトキシン)によって発症するもので、生体内毒素型ともいわれている。し
かし、下痢型セレウス菌は、ブドウ球菌のように食物中では毒素を作らず、食物中でおびただしく増殖した生菌を摂取することが前提となっている。従って、下痢型セレウス菌食中毒は従来の分類では、「感染型」のカテゴリーに入れられることになる。数種の菌の毒素の名称がエンテロトキシンと同一で、しかも中毒の発生の仕組みが、生体内毒素
産生型と食物内毒素産生型という表現も加わって、感染型と毒素型食中毒という定義もややこしくなり、その区別もあまり明確でなくなってきたようである。
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