ウェルシュ菌食中毒の事例
<事例1>冷やしうどんの「つけ汁」による食中毒
昭和55年7月9日、埼玉県久喜市内の小、中学校で「冷やしうどん」によって摂食者4,333名中3,610名(発病率83.3%)という極めて大規模食中毒が発生した。主症状は下痢(発生頻度94.7%)、腹痛(87.0%)で、発生日時は7月9日午後6〜11時に集中していた。久喜市では、(株)乙食品が11校の給食の委託を受けていて、7月9日の給食献立
はA、Bの2コースに分かれていて、中毒の発生したのはBコースの献立であった。その内容は「カレーたいやき」、「野菜のピーナッツ和え」、「冷凍みかん」、「冷やしうどん」および「牛乳」の5品目。このうち冷やしうどんの「つけ汁」が前日に調理されたものである。
細菌検査の結果、調理施設から収去したうどんの「つけ汁」、および小、中学校で保存検食のうどんの「つけ汁」から、それぞれウェルシュ菌が検出された。また、糞便検査で調理従事者68名中49名、小、中学校の児童、生徒および教師275名のうち262名からそれぞれウェルシュ菌が検出され、この中毒はウェルシュ菌によるものと決定された。
問題の「つけ汁」は、7月8日午前11時30分から製造が開始され、50℃のお湯の中に、鶏肉、野菜(にんじん)、だしの素、醤油、なるとを入れ、1時間沸騰させ、1時間室温で放置後、2台のステンレス容器に移した。その後40分間扇風機で冷やしてから冷蔵庫(0℃)に入れ翌朝まで保管した。しかし、その後行った調査で、「つけ汁」が大量
であったため、0℃の冷蔵庫に入れても、最初の3時間で約10℃、次の4時間で約10℃程度温度が下がっただけで、冷蔵庫に入れたときの液温(50℃)から20℃になるまで7時間もかかったことが判明した。「つけ汁」は煮沸工程があるので、ウェルシュ菌以外の細菌はほとんど死滅したと考えられ、問題の菌だけが生き残り、「つけ汁」の保存中におびただしく増殖したものである。
上記食中毒事件は、冷やしうどんの「つけ汁」の製造方法の欠陥によるものであって、乙食品に対しては1週間の営業停止処分がとられた。
<事例2>仕出し弁当(スパゲティナポリタン)による食中毒
昭和58年5月20日、富山県下のT市民病院看護専門学校宿舎ほか、高岡市、新湊市、射水郡大門町・大島町の2市2町の75事業所で、摂食者851名中、609名(発病率71.6%)が食中毒にかかった。この事件は大門町にあるH給食センターで調製した仕出し弁当(副食・スパゲティナポリタン)によって発生したもので、病因物質はウェルシュ菌、Hobbs 1型であることが判明した。
この仕出し弁当の献立内容は、和え物(スパゲティナポリタン)、揚げ物(野菜天ぷら)、焼き物(焼き魚)、魚肉ねり製品(かまぼこ)、漬物(山海漬)、酢の物(うの花酢漬)で、これらの保存検食の細菌検査の結果、スパゲティナポリタンからウェルシュ菌Hobbs1型がヒトの感染発症菌量106/g以上検出され、本中毒の原因食品であると決定された。
問題のスパゲティは、当日朝3〜5時にかけ調理され、5〜7時まで放冷され、その後11時頃までに盛り付けられたという。調理後、盛り付けるまでの間に、原因菌の増殖至適温度(43〜47℃)にかなりの時間放置されていたものと考えられた。なお、この施設の従業員の大部分が農村婦人のパートタイマーで、県衛生当局の見解では、衛生知識や清潔
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