(3)事件発生の原因と問題点
現地保健所の調査によると、H校の給食施設における調理過程では原材料の加熱、調理器具などの洗浄・消毒などは一応よく実行されていたというが、H校においては、ゆでめん、焼き豚、ハムについては加熱処理を行わずに提供しているのに対し、市内の他の小学校では、いずれも、めんは熱湯処理を施し、焼き豚やハムは蒸したり、炒めたり、熱湯処理をするなど一応加熱処理をしてから提供していた。
本給食ではナグビブリオ汚染の可能性のある魚介類は使用されておらず、またこれらに接触した器具も認められなかった。一方、冷めん業者の施設の拭き取り検査ではナグビブリオは検出されなかった。この事件で一番気にかかるのは調理従事者の検便結果で、
有症者1名から菌が検出されたことである。事件から9日後の検査で、最初非検出の健康者から菌が検出されたが、16日後の検査では同菌は検出されなかったという。この事件の汚染経路は不明ということであったが、調理従事者が保菌者であった可能性は否定しきれないように思われてならない。
この事件に対し、県の衛生当局は、9月4日から8日までの5日間、給食施設の使用停止処分を行ったほか、施設の清掃、消毒の立ち会い指導および同市内学校給食従事者の食品衛生講習会の開催、納入業者に対する衛生指導を実施した。
ワンポイント・レッスン
食中毒の原因食品の究明とマスターテーブル
食中毒の発生時には、その原因食品、病因物質、汚染経路や汚染源等の調査が行われる。病因物質の検索には細菌学的あるいは化学的・毒物学的手法が駆使されるが、その前提として疫学的方法による原因食品の推定が行われるのが普通である。原因食品を調べるには、マスターテーブルと言って、発病に関連性があると思われる個々の食品に
ついて、食べたか食べなかったかを発病者・非発病者に分けて表を作り、各食品について、患者の喫食率と非発病者の喫食率の間で差のあるものに注目し、両群の発病率について統計的に有意差があるかどうかを調べ、原因食品推定の補助とする。有意差の検定には一般にX2(カイ二乗)検定法を用いる。しかし、このような推計学的な推定結果だけ
で原因食品を断定するわけにはいかない。患者からの材料(下痢便、吐物、血液など)や疑わしい食品や調理器具、材料、水、その他の検体についての検査成績と合わせて、原因食品の解明が行われるのである。
表4には、南国市の学校給食で発生したナグビブリオ食中毒における原因食品の究明のため作成したマスターテーブルを示した。
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