(2)原因食品
わが国で発生した集団中毒例では、沖縄で発生した加工乳による事例以外の原因食品
は明らかにされていない。しかし、これまでの症例の検索、本菌の分布調査から見ると、
ヒトへの感染源としては、食肉、ミルクおよびペット動物が注目され、そのうち食肉を
介する感染が最も重要であるように思われる。またイヌ、ネコ、ネズミなど保菌動物の
排泄物による二次汚染食品、飲料水などが原因食となる可能性がある。別に記載するよ
うに、本菌は他の食中毒菌と違って低温増殖性があり、食品の低温保存条件には注意し
なければならない。本菌は芽胞を作らないで65℃以上の加熱で容易に死滅する。従って、
十分な加熱調理は本菌の中毒予防に有効である。
(3)沖縄で発生した加工乳による中毒例
昭和55年4月沖縄で発生したエルシニア中毒例は、表1に示した9例中最大規模のもので、しかも原因食品の判明した唯一の事例なので、ここに概要を紹介する。この事件は同年4月10日から12日にかけて、那覇およびコサの2保健所管内の小・中学校計9校の児童生徒84名が腹痛、嘔吐、下痢などの中毒症状を呈したことから始まる。その後の調査で、14校、1,051名の患者数に達した。疫学調査により、4月9日の学校給食は、8校が3か所の給
食センターで調理され、1校は学校内の施設で調理された。給食内容は3か所の給食センターによりそれぞれ異なっていた。しかし、患者発生の共通食品としては学校給食用加工乳があり、これが本事例の感染源であることが確認された。すなわち、初発患者の見られた2日前の4月8日製造の加工乳5検体中4検体から患者から分離された菌と同じ血清型(O3)のエルシニア・エンテロコリチカが検出され、この加
工乳が感染源となったことが確認された。
しかし、加工乳そのものの汚染源、汚染経路は不明であったが、加工乳を製造したM乳業の工場におけるビン詰め充てん機および、サージタンクから充てん機までのパイプ洗浄・消毒が不十分であることが確認され、またビン詰めの消毒過程で、ノズルの目づまりにより消毒用の次亜塩素酸ナトリウムがかからず、ビンの消毒不十分が問題点として指摘された。当然のことながら感染源となったM乳業に対しては、営業停止命令が出され、早急な施設の改善命令が出された。
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