食品添加物基礎講座 (その12)
味に関わる食品添加物 (2)
食品の味に関わる食品添加物のうち、前回の甘味料に続き、酸味料と苦味料をみていくことにしよう。
 
食品に酸味によるアクセントをつける酸味料
食品に酸味を着ける目的、酸の強さ(酸度)を調整する目的で使われる食品添加物が酸味料である。
レモンのように酸味を持つ食品もあるが、このような食品を酸味料と呼ぶことはまれである。
また、ここで取り上げる酸味料以外にも、ビタミンCのように酸味を伴う食品添加物もある。しかし、食品添加物としての使われ方からは、酸味を付与する目的で使われることはなく、酸味料としては扱われていない。
食品に食品添加物名を表示する場合の一括名として認められている「酸味料」としては、クエン酸、乳酸、酢酸(氷酢酸)のような有機酸とそのナトリウム塩が主体となっている。無機系の酸味料にはリン酸と二酸化炭素がある。
酸味料の主体となる有機酸類とリン酸の味の特徴と、クエン酸の酸味の強さを100としたときのそれぞれの酸味の強さを次の表に示す。
 
<表1> 主な酸味料とその酸味の強さ
主な酸味料 味の特徴 酸味の強さ
アジピン酸 穏やかで爽快な酸味 90
クエン酸 穏やかで爽快な酸味 100(基準)
グルコン酸
 
丸みのある爽快な酸味
 
60〜70
(100%換算)
コハク酸 うま味を伴う酸味 110〜120
酢酸(氷酢酸) 強い刺激臭のある酸味 100〜110
酒石酸 やや渋みと収斂味のある酸味 120〜130
乳酸 穏やかな酸味 110〜120
フマル酸 鋭く強い酸味 150〜180
リンゴ酸 やや刺激のある収斂味の酸味 100〜120
リン酸 渋みを伴う酸味 200〜250
 
表に示した有機酸のナトリウム塩も酸度の調整のために使われることから、酸味料と表示することも認められている。有機酸のナトリウム塩は、遊離の形の酸に比べるとまろやかな味になる。そのうち、酸性を示すフマル酸一ナトリウムでは、丸みと濃厚な味を持つ酸味を呈し、その酸味の強さは50〜70程度になる。
 
有機酸には、上記したようにそれぞれ特有の味、においがあり、食品のコンセプトに合わせた酸味料が選択されて使われている。
特に、清涼飲料水などで幅広く使われているクエン酸は、酸味を付ける目的で使われる有機酸の使用量の半分程度と、極端に大きなウェイトを占めている。これに乳酸とDL−リンゴ酸が続くが、量的には差がある。
合成化学工業としては、酢酸(氷酢酸)が最大の有機酸工業である。この酢酸は食品での直接使用向けには、その特有のにおいが避けられることもあり、使用量は比較的少ない。ただし、酸味の付与などの食品添加物としての用途の他、食品の構成成分そのものになる食酢(合成酢)の原料という量の多い用途がある。
既存添加物で酸味料などに使われる有機酸としては、イタコン酸、フィチン酸の2品目がある。実際に酸味料・pH調整剤の目的では、フィチン酸以外はあまり使われていない。かつては、α−ケトグルタル酸も既存添加物名簿に収載されていたが、使用の実績がないことから、名簿から消除されている。
無機系の酸としては、二酸化炭素とリン酸が食品に酸味を付ける目的で使用される。二酸化炭素は、炭酸飲料に欠かすことができないものであり、リン酸はコーラ系飲料の特徴ある味として親しまれている。
 
酸度の調整に使われる有機酸塩類
 
酸度の調整には、遊離の酸だけでなく、いろいろな塩類も使用される。フマル酸一ナトリウムやリン酸二水素ナトリウムのような酸性塩があり、乳酸と乳酸ナトリウムの製剤のような酸と塩の組合せによって適度な酸性度に調整された製剤もある。pH調整剤とは異なり、本質的には酸の効果により酸度を調整することで、「酸味料」の使い方の一つといえる。クエン酸三ナトリウムやリン酸水素二カリウムのような中性よりアルカリ側に寄った塩類も、酸との併用で、または酸類との製剤にして使われることがある。
このような酸度の調整に使われる酸類および塩類は、次に説明するpH調整の目的にも使用できることはいうまでもない。
 
食品のpHの調整に使われるpH調整剤
 
食品はその物性を特徴づけ、機能を発揮させるために、適切なpH領域に保つことが要求されることがある。この連載の第8回に少し詳しく説明したように、食品を適切なpHに保つ目的で「pH調整剤」が使用される。
ここで説明している酸味料類のpH調整剤としての使用は、単独、あるいは、遊離の酸類とナトリウム塩などの塩類を併用して緩衝性を持たせた製剤として食品製造の過程で使われることがある。
「酸味料」範疇の食品添加物は、全て、「pH調整剤」としての一括名が認められている。さらに、リン酸塩緩衝液で知られているようなリン酸のカリウムまたはナトリウム塩類や炭酸塩類なども、一括名の範疇物質とされている。
 
酸味料の特殊な使用目的
 
食品は一般的に、pHを低くすることにより保存性が高くなる傾向がある。また、ある種の保存料や酸化防止剤は、酸性側の領域でその効果を発揮する。このために食品のpHを酸性に保つ目的では「pH調整剤」が使われ、食品の保存性の向上にも寄与している。
ところで、このような補助的な効果以外に、酸味料には、菌の増殖を阻止するという直接的な効果を有するものもある。
この静菌性を持つ酸の代表としては、酢酸がある。昔から「酢」の効用として知られているとおりであり、各種の菌に対する静菌性も詳しく研究されている。酢酸は、常温では液体であり、水によく混和するなど使いやすく、また安価であるという利点はあるが、特有のにおいのため使用量を制限せざるをえない点が欠点となっている。この酢酸の塩類である酢酸ナトリウムも弱酸性領域で静菌効果を持つことが確認されている。
また、アジピン酸の静菌性に関する各種の研究報告が発表されている。このアジピン酸は、pH4.2〜5.2で生育阻止効果を示すといわれ、特定のpH領域では、酢酸より強い静菌性を示す場合もある。ただし、水に溶けにくいため使用方法を工夫する必要がある。
なお、これらの有機酸類の静菌性は、保存料といわれる食品添加物類の効果に比べると弱いものであり、日持ち向上の効果と称し、この目的の製品を「日持向上剤」と称している。
この他、特定の菌に対する乳酸やコハク酸などの静菌性も研究されており、食品の特性に合わせて併用される。また、使用者の使いやすい製品を供給する目的で、予め製剤化されたものが使用されることもある。
明治時代から清酒製造の際に乳酸を添加する方法が一般に行われている。これは、乳酸が、アルコール発酵に寄与する酵母以外の微生物の生育を阻止する性質を利用しているものである。
 
いろいろな目的で使われる酸味料
広い意味での酸味料・pH調整剤が期待される効果は、さまざまである。
なお、ここまで説明してきた以外にも、いくつかの使われ方がある。
アルカリの中和には、無機の強酸である塩酸、硫酸などと共に、酸味料の範疇物質である酢酸、リン酸なども使われている。
また、膨脹剤製剤の酸成分としては、グルコノデルタラクトン(GDL)やクエン酸などの固形の有機酸類および酒石酸水素カリウムやリン酸二水素ナトリウムのような酸性塩類などが使われている。なお、GDLは豆乳の凝固させる酸剤(豆腐用凝固剤)としても使われる。
その他にも、乳酸を清酒の醸造する際などでアルコール発酵での異常発酵防止の目的で使用したり、殺菌・洗浄に使用した次亜塩素酸の残留分を分解する目的に使うような例がある。
 
既存添加物だけの苦味料
食品にアクセントをつける味には、苦味(にがみ)もある。この苦味を着ける目的で使用される食品添加物が苦味料(くみりょう)である。
苦味料の特徴の一つに、一括名で「苦味料」と表示できる食品添加物は全てが既存添加物であることである。これは、加工食品にわざわざ苦味を着けることをしてこなかったために、化学的な合成による苦味料が指定されてこなかったこともある。
ところで、食材の中には、ニガウリのように苦味のある食品もあり、食生活の中では苦味を受け入れている。
キハダ、ナリンジンのような苦味のある食材から抽出された苦味成分や茶やコーヒーに含まれるカフェインを取り出したものが苦味を持つ食品添加物として使われる。このことから、既存添加物に収載されているものである。
なお、カフェインには、化学的に合成されたものもあるが、これは既存添加物の定義に当てはまらないことから、食品添加物としては使用できない。
 
     (2010年6月25日 加筆・改訂)
 


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