食品添加物基礎講座 (その14)
香りに関わる食品添加物
味に関わる食品添加物に続いて香りに関わる香料についてみていこうむ。
 
食品の香りと食品用香料
食品の香りは、その食品の状態を示す指標の一つであり、食欲をもよおす大切な因子でもある。
この食品に香りを着ける目的で使用される食品添加物が食品用の香料である。
加工食品等における食品添加物の表示に関する通知では、香料は次のように定義されている。
香料とは、食品の製造又は加工の工程で、香気を付与又は増強する目的で使用される食品添加物及びその製剤をいう。
 
この通知では、香料は食品に「香気」を付与するものとされている。
また、指定添加物で、もっぱら香料として使用される品目に関しては、使用基準で
着香の目的以外に使用してはならない。
と、定められている。
ところで、欧米ではフレーバー(flavors)と呼ばれる食品添加物が着香等の目的で使用されている。
この「フレーバー」は、食品に「香気」を付与するだけではなく、味質の調整の効果も含めた機能が認められている。前回説明した調味料も、このフレーバーに含まれることが多い。このようなことから、現在は、フレーバーを「香味料」あるいは「風味料」と訳している。このようにフレーバーは香料を含む幅広い機能を持つ食品添加物となっている。
香料の工業会では、日本の香料の解釈をこの香味料と同じ解釈ができるように改めてもらいたいとの意向を示しているが、今のところ従前どおり香り(香気)に限るとの解釈が維持されている。
 
食品用の香料の種類
香料にも他の食品添加物と同様に、天然系のものと、合成系のものがある。
このうち、天然物を原料とする天然香料に関しては、食品衛生法(だ4条第3項)で次のように定義されている。
天然香料とは、動植物から得られたもの又はその混合物で、食品の着香の目的で使用される添加物をいう。  
 
この天然香料は、食品添加物の指定制度から除外されているが、物質を確認する必要もあるため、その基原となる動植物は、厚生省生活衛生局長通知の形で公表されている。
一方、指定添加物では、個々の品名で指定されているものと、化学的な類別に指定されているものがある。この指定された香料は、2004年12月に3品目が追加指定され、さらに2005年2月25日にプロパノールが指定された後、毎年のように追加の指定があり、2010年5月28日には、プロピオンアルデヒド、2-エチルピラジンなど8品目が新たに指定されている。
これらの結果、2010年6月25日の時点では、個別指定が106品目、類別指定が18品目となっている。
これら香料物質のほとんどには、先に示したように、着香の目的に限るという使用基準が定められている。ただし、個別指定の中には、他の使用目的での使用も認められているプロピオン酸(保存目的)と酢酸エチル(溶剤目的)なども含まれている。
 
指定添加物の30%を超える香料物質
指定添加物の数は、2010年6月25日の時点で403品目であるが、そのうち香料は、グループ指定の品目を含めて124品目に達している。指定添加物において香料が占める割合は、かつては25%程度であったが、このように香料物質の指定が進められていることから30%を超えており、その比率は今後さらに高くなるものと考えられる。
これは、次のような理由がある。食品の固有の香りには、さまざまな脂肪酸類、エステル類、アルコール類などが含まれており、食品の香りを再現するには、これらの構成成分を組み合わせる必要があり、さらに、これらの脂肪酸類、エステル類、アルコール類などは、炭素数の違い、結合の違いで、それぞれ特有のにおいを持っており、それらの組合せによって新たに嗜好性に富んだ香りを作り出すためにも使われることによる。
このようにさまざまな指定添加物を、いくつかのグループに分けて次表に示す。
 
香料の主要グループ別区分と例
主要グループ 指定数 主な指定添加物の例
アルコール系





 
12

21



 
プロパノール、イソプロパノール、
ブタノール、2-メチルブタノール、
ゲラニオール,シトロネロール,
デカノール,テルピネオール,
ベンジルアルコール,リナロオール
高級級脂肪族アルコール類,
芳香族アルコール類
アルデヒド系





 
13

20



 
アセトアルデヒド、
ブチルアルデヒド、
イソバレルアルデヒド、
アニスアルデヒド,オクタナール,
ピペロナール,ベンズアルデヒド,
高級脂肪族アルデヒド類,
芳香族アルデヒド類
有機酸系

 


 
プロピオン酸,ヘキサン酸,酪酸,
ケイ皮酸
脂肪酸類
エステル系




 
45




 
アセト酢酸エチル,ギ酸イソアミル,
ケイ皮酸メチル,酢酸シトロネリル,
酢酸メンチル、フェニル酢酸エチル,
酪酸ブチル,γ−ノナラクトン,
エステル類,イソチオシアネート類
ラクトン類
ケトン系

 


 
アセトフェノン,イオノン,
メチル−β−ナフチルケトン,
ケトン類
エーテル系

 


 
1,8-シネオール,エチルパニリン,バニリン,
エーテル類,フェノールエーテル類
フェノール系
 

 
イソオイゲノール,オイゲノール
フェノール類
(メチル)ピラジン系


 




 
2-エチルピラジン、
2-メチルピラジン
2,6-ジメチルピラジン、
2-エチル-3-メチルピラジン、
2,3,5,6-テトラメチルピラジン,
その他







 


12





 
6-メチルキノリン
5-メチルキノキサリン
5,6,7,8-テトラヒドロキノキサリン
マルトール,
チオール類,チオエーテル類,
インドール及びその誘導体,
フルフラール及びその誘導体,
脂肪族高級炭化水素類,
テルペン系炭化水素類
 
なお、この表の区分では、アルデヒドでもあるエチルバニリンをフェノールエーテル系として数えている。このように、いくつかの官能基を持つ物質については、区分に見解の相違があることをお断りする。
ところで、表にも示したように、エステル類のように類名で指定されているものが18ある。日本香料工業会の調査では、これらの各類に属するものとして実際に使用されているものが、3000を超えるおびただしい数に達している。この類別での指定により、数多くの香料物質が指定添加物として使用されてきた実態がある。しかし、プロパノールのような低級(短鎖)アルコール、アセトアルデヒドなど低級(短鎖)アルデヒド類は、類別の指定がないために個々の品目毎に指定されない限り使用することはできない。
このため、世界的には着香の目的で使用されている品目でも、類別指定も行なわれていないことから、日本では使えないものがある。近年、この指定の有無による食品衛生法違反の問題が大きく報じられた。このように問題が生じたこともあり、国際的に汎用されている香料物質に関しては、新たな基準で安全性を検討することになり、安全性が確認されたものに関しては、新たに食品添加物として指定を行うことになり、2004年末以降毎年のように新たな指定が続いている。今後も、さらに増加することが考えられる。
表中に太字で示している品目は、この新たな基準により指定された香料物質である。表には新たな指定に伴う指定数の変化も示している。この中では、(メチル)ピラジン系の物質が新たに指定されたことが、低級アルコール系およびアセトアルデヒドを含む低級アルデヒド系の指定とともに、特徴的なことである。
 
基原物質だけが例示されている天然香料
天然香料の定義は、先に示したとおりであり、香料成分を取り出す原料は動物あるいは植物を基原とするものである。このような天然香料は、同一原料からでもいろいろな成分が取り出し得ることから、莫大な数になることが予想される。このため、原料になる基原物質だけを通知の形で通知する方法が採られている。この天然香料基原物質リストには、600を超える物質が例示されており、その大半は植物であるが、イカ、タコ、エビ、カニ、貝およびタマゴのような動物、ミルクやバター、発酵乳のように動物を基原とするものが含まれている。また、発酵酒、蒸留酒およびリキュールのような酒類、酒粕、ぶどう酒粕のような酒類関連物質、味噌や醤油などもあるが、これらの原料は植物である。
ところで、この通知は例示であり、さらに増えることも想定されている。
 
食品における香料の表示
香料を使用した食品では、指定添加物、天然香料の区別なく一括して「香料」と表示することができる。指定添加物では、「メントール」のように物質名で表示することもできる。また天然香料にあっては、基原動植物名を冠して「オレンジ香料」のような表示も可能であるが、天然香料と表示することは認められていない。
さらに、一部の香料を、一括名の「香料」で表示し、消費者に受け入れられ易いものだけを物質名や基原を冠した名称で抜き書きすることは認められていない。この点にも注意して表示する必要がある。
 
香辛料と香辛料からの抽出物
フレーバーと共に食品の風味にメリハリを着けるものに香辛料がある。前回まで見てきた味に関与する食品添加物でもある。調味の目的でも使用されるものであるが、
香辛料には、薬味に使われるようなショウガやシソ、スパイスとして広く使われてきたコショウ、セイジ、シナモンなどがあり、芳香や辛味を持つ植物の葉、花、つぼみ、種子、果実、樹皮、根などから得られる。
これらの香辛料を基原として、香辛味を有する成分を水、エタノール、二酸化炭素(炭酸ガス)あるいは有機溶剤で抽出したもの、または、水蒸気蒸留で分取したものが、既存添加物の香辛料抽出物である。
この基原となる香辛料は、既存添加物名簿の告示の際に、アサノミからワサビまでの75に限定されている。この中には、上記のショウガやコショウなどの他、ウコン、カンゾウ、クローブ、ゴマ、サフラン、パプリカ、ローズマリーなどが含まれている。
ところで、香辛料の中には、古くから食品の日持ちを良くする目的でも使われてきたものもある。これらの香辛料には、食品の酸化を防止する作用や抗菌性あるいは静菌性の作用を有する物質が含まれていることによって、日持ちの向上に寄与している。したがって、このような日持ちに有効な成分を主体に抽出することも、当然行われている。しかし、このような抽出物は「香辛料抽出物」と称することはできず、例えば「カンゾウ油性抽出物」、などの酸化防止剤や、製造用剤として日持ちの向上に使われる「カラシ抽出物」などのように、基原物質名に抽出物あるいは油性抽出物などを付した形の品名になっている。
このように、香辛料抽出物と、基原物質を明記する抽出物とは、原料となる基原物質は同じでも、異なる使用の目的のものであり、異なった品名が使われる。一般的に使われている香辛料抽出物という用語とは概念が異なる点もあり、販売や表示に際しては注意が必要である。
また、香辛料抽出物は、既存添加物収載品目リストの用途欄には、「苦味料等」として分類されているが、苦味料という一括名で表示することはできないので、この点にも注意する必要がある。
 
香料と香辛料からの抽出物製造に使われる溶剤
ある種の香料と香辛料からの抽出物では、使用できる溶剤が、食品添加物の「製造基準」で限定されている。使用できる溶剤が限定されている植物から香料、香辛料抽出物および香辛料を原料とするその他の抽出物を取り出すとき、新しい溶剤を検討する場合は注意する必要がある。なお、同一の植物から香料あるいは香辛料抽出物が取り出されるような色素(ウコン色素、オレンジ色素、クチナシ黄色素、タマネギ色素、タマリンド色素、トウガラシ色素)も同じ製造基準が適用されている。
 
(2010年6月25日 加筆・改訂)


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