食品添加物基礎講座 (その17)
品質の維持に関わる食品添加物(2)
食品の品質の維持に使用される食品添加物の代表はなんと言っても保存料である。今回は、この保存料を中心に見直すことにしよう。
 
保存料とは
加工食品で長い期間使用されてきたため、保存料という用語は、酸化防止剤と共に、多くの消費者に馴染みのある用途名であろう。
通常、食品が消費者に喫食されるまでには、次のような段階を経ることになる。当該食品の製造業者から流通業者の手を経て、小売店で販売される。小売店ではある程度の期間陳列された後、消費者に購入され、家庭内で保存される。この家庭での保存のあとで、喫食されることになる。この流通、小売りの段階で、食品が変質することなく保管されることを目的として、使用される食品添加物が保存料である。
保存料は、一般的に次のような目的で使われる食品添加物と解釈されている。
保存料とは、食品の微生物による腐敗、変敗を防止することにより、食品の保存性を向上する目的で使用される食品添加物である。
ただし、食品の日持ちをわずかに改善する程度の、いわゆる「日持向上剤」は除く。
 
この定義で明らかなように、保存料は、微生物による食品の腐敗や変敗を、ある程度の期間防止するものであり、微生物の繁殖を防止する作用に特徴がある。
主に、保存料として使われる食品添加物としては、指定添加物では、さまざまな使用目的で使われる亜硫酸塩類を除くと、13品目あり、既存添加物では10品目ある。
保存料は、それぞれに殺菌若しくは生育抑制の効果を発揮しうる微生物が異なっており、必要に応じて選ばれたものが使用される。
保存料は、保存性の向上を目的に、さまざまな食品に使用されている。指定添加物では、全品目に、対象食品および使用量に基準が設けられている。一方、天然系の食品添加物では、このような使用基準が設定された品目はない。
次に、指定添加物及び既存添加物の保存料の中で、主なものについて簡単に説明する。
 
安息香酸類
安息香酸類は、世界各国で使われている代表的な保存料であり、日本では、安息香酸とそのナトリウム塩が指定されている。
安息香酸類の保存性は、酸性で効果が発揮される。このため、安息香酸ナトリウムを使用する場合は、食品を酸性領域にする目的でpH調整剤などを併用することが一般的であり、あらかじめ必要な成分を配合した製剤も開発されている。
日本では、本品は、醤油などの水溶性の食品を中心に、保存料として使われている。
 
ソルビン酸類
ソルビン酸類は、安息香酸類と共に、世界各国で使われている代表的な保存料の一つである。
ソルビン酸は、水に溶けにくい有機酸であり、カリウム塩にして水溶性にしたソルビン酸カリウムも食品添加物として指定されている。さらに、2010年5月28日にはカルシウム塩であるソルビン酸カルシウムも追加指定されている。
ソルビン酸類は、カビ、酵母類、好気性菌に一様に静菌効果を持つため、幅広い食品群の保存性向上の目的で使用されている。
ただし、その殺菌性は、有機酸類の中では強いものの、強いものではなく、菌類の生育を抑制する静菌効果を持つものと考えて使用する必要がある。なお、本品も静菌性は酸性サイドで、より効果的に発揮される。このため、ソルビン酸カリウムでは、pH調整剤などの酸性物質と併用したり、製剤化して使われることが多い。
なお、タンパク質系の食品の中には、酸性にすると凝固反応を起こすことがある。したがって、酸性のソルビン酸がタンパク質を凝固し、望ましい食品の形態を維持できないことによって使用することが困難な場合がある。この難点を克服するために、加工食品の成形の際には、まずソルビン酸カリウムを使用し、次いでその食品を酸性にしてソルビン酸を遊離させることにより、ソルビン酸としての効果を発揮できるような使い方が開発されている。
新しく指定されたソルビン酸カルシウムは、ソルビン酸に比べると水溶性もあることから、酸型とナトリウム塩の中間的な位置で、使用方法が検討されていくものと考えられる。
 
パラオキシ安息香酸類
パラオキシ安息香酸類は、パラベン類とも称されるp-ヒドロキシ安息香酸とエタノールなどの短鎖アルコールとのエステルである。日本では、パラヒドロキシ安息香酸エチルの他、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチルの各エステルが指定されており、欧米では使用が認められているメチルエステルなどは認められていない。
パラオキシ安息香酸類は、それぞれが効果をあらわす微生物に差があるため、実際に食品に使う場合は、いくつかを組み合わせて使用することも行われている。
なお、本品類は醤油など水溶性の食品の保存料として使用が認められているが、本品自体は水に溶けにくいため、エタノールなどの溶媒に溶かして使用されるのが、一般的である。
 
プロピオン酸類
プロピオン酸類には、短鎖の脂肪酸であるプロピオン酸と、そのカルシウム塩及びナトリウム塩がある。
プロピオン酸は、希薄溶液であれば、香料にも使われているが、特異な強いにおいを持っている。一方、塩類は、粉末で流通しており、特異なにおいは弱いが、保存性の効果を発揮するには酸性にする必要があり、使用量が多すぎると使用した食品にプロピオン酸の特異なにおいが発生することがある。このため、使用量が自ずと制限される傾向がある。
プロピオン酸は、ある種のチーズでは発酵中に生成する有機酸でもあり、チーズのカビの発生を抑える保存料として使用されることもある。また、パンや洋生菓子類では、夏場のカビの発生を防いで保存性を高める目的で、塩類が使われることが多い。洋菓子ではナトリウム塩、パンではカルシウム塩が使われるのが一般的といえる。
 
ポリリジン
天然系の既存添加物の代表的な保存料が、一般的にポリリジンと呼ばれているε−ポリリシンである。ポリリジンは、必須アミノ酸の一つL-リシンが鎖状に結合したポリペプチドで、発酵法で製造されており、抗生物質の類縁物ともいえるものである。
本品は、カビを除くさまざまな細菌類の生育を抑制する効果があり、熱に強く、食品の加工に耐え得ることと、使用基準が設定されていないため使用に制限はなく、各種の食品に幅広く使用されている。
ポリリジンは、通常は、メーカーから乳糖などで希釈した製剤の形で供給されている。一般的には、これに、さらに他の食品添加物を配合して、特定の食品に適した機能を持つ製剤として流通している場合が多い。このため、使用に際しては、それぞれの食品に適した製剤を選択することも可能である。
 
その他の天然系の保存料
ポリリジン以外に保存の目的で使用される主な既存添加物には、しらこたん白抽出物、ツヤブリシン(抽出物)などがある。
しらこたん白抽出物は、サケ、マス、ニシンなどの成魚の精巣(しらこ)のタンパク質を取り出して、酵素などで分解して精製した、塩基性タンパク質であるプロタミンヒストンを主要成分とするもので、グラム陽性菌に効果を発揮する。
本品は、水溶性であり使用しやすいこと、熱に強く、中性からアルカリ性で効果を発揮するため、デンプン系の食品などに使われる。
ツヤブリシン(抽出物)は、ヒノキ科のヒバから抽出されるツヤブリシンを主要成分とするもので、ヒノキチオール(抽出物)とも呼ばれている。
本品は、水に難溶であり、さらにヒノキ類特有のにおいがあるため、食品への直接使用より、包装用の紙などに処理剤として使用し、カビの発生を抑えるような使い方がなされている。
 
新たに指定された抗生物質系の保存料
近年の海外との食品添加物の整合化の動きもあり、保存料も3品目が新規指定の候補となり、すでに何れも食品添加物として指定に到っている。
その一つは先に触れたソルビン酸カルシウム塩であり、残りの2品目は。抗生物質のナイシンとナタマイシンである。
このうちナタマイシンは、ピマリシンとも呼ばれる抗真菌性物質であり、現在医薬品としても使われているものであるが、食品安全委員会における検討の結果、使用対象の食品が限られており、耐性菌などの恐れも少ないと判断されている。2005年11月に厳しい使用基準の下でチーズの表面処理剤として指定されており、使用対象となる食品の範囲が、一般の加工食品に拡大されることは少ないものと考えられる。
ナイシンは、医薬品としては使われていない物質であるが、指定要請を行った企業が、対象となる食品を幅広く要望していたため、食品安全委員会における安全性に関する審議に時間が掛かり、2009年3月まで指定が遅れたものである。っている。ところで、指定されたナイシンは、欧米で長年使用されてきたナイシンAであり、近年、九州を中心に話題を提供してきたナイシンZとは異なるものである。中国では当初ナイシンZが開発されていたが、現在はナイシンAも開発されている。用途研究をする際には、注意する必要がある。
 
保存料を使用した食品での表示方法
保存料は、加工食品における食品添加物の表示では、物質名だけではなく、用途名を併記する必要のある使用目的の一つである。
通常は、保存料(安息香酸)、保存料(プロピオン酸Ca)、保存料(ポリリジン)のように用途名の保存料に続けて物質名を表示する方法が採られている。また、2種類以上の保存料を使用したときは、全ての物質名を連記することになっている。ただし、ソルビン酸とソルビン酸カリウムのように同種の保存料を併用した場合は、保存料(ソルビン酸(K))のように表示することができる。
なお、パラオキシ安息香酸類に関しては、簡略名としてパラオキシ安息香酸が認められているため、複数のパラオキシ安息香酸類を併用した場合でも、保存料(パラオキシ安息香酸)と表示することができる。ただし、しばしば医薬品などで使われているパラベンという類別名は認められていないため、保存料(パラベン)と表示することはできない。ただし、パラオキシ安息香酸ブチルを使用した場合、簡略名として認められているブチルパラベンを使用して保存料(ブチルパラベン)と表示することはできる。
なお、保存料は用途名であり、通常、保存料の範疇に入れられていない物質であっても、加工食品の保存の目的で使用した場合には、併記する必要がある。
 
保存料の安全性
かつて保存料の中には、ニトロフリルアクリル酸アミド(AF)などのように安全性に問題があるとして食品添加物としての指定を削除された物質がある。また、現在指定されていて保存の目的に使われる品目も静菌性や防カビ性等を有することから、人体への安全性に疑問を持つ人々もいる。
ところで、現在指定されている品目に関しては、さまざまな方法で安全性の確認が行われており、使用基準を守って使われる限り問題はないと考えられている。食品の流通・家庭での保管などの過程での品質の維持における保存料の必要性を考えるとき、もう少し正当な評価が与えられるべきものと考えられる。
既存添加物に関しては、安全性の確保に関する責任は、該当する品目の製造者およびその使用者にある。保存料に限らず既存添加物を扱う業者は、今後も安全性に関するデータの蓄積に務める必要がある。
 
(2010年6月25日 加筆・訂正)


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