食品添加物基礎講座(24)
食品添加物と表示 (その6)
食品原材料としての食品添加物表示(2)
前回は、原材料としての食品添加物の表示方法を、事例を参考に振り返った。今回は、その続きとして、誤りのある表示を参考にして、正しく表示するにはどこに注意すべきかを確認しよう。
 
食品添加物の基原に関する誤記
原材料の表示には、遺伝子組換え技術を使用しているか否か、アレルギーに関する注意表示などを付記することが求められる場合もある。この付記に誤りが認められる次のような例がある。
 
@ かりんとう
名  称 油菓子(かりんとう)
原材料名




 
糖類(黒糖、砂糖、水飴)、小麦粉、
植物油脂、澱粉、胡麻、イースト、
モルトシロップ、小麦胚芽
卵殻カルシウム、
酸化防止剤(トコフェロール:大豆由来、
ローズマリー抽出物:大豆由来)
 
この例では、素材として使われた食品類と食品添加物は分けて表示されており、アレルギーへの対応も行われていて正しく表示されているように見える。
ところが、このアレルギー対応の由来表示に問題がある。由来物質の記載は、酸化防止剤として使われている2種類の既存添加物である。このうち、トコフェロールはさまざまな基原植物(食品)から取り出されるが、大豆を基原とする場合も多く、正しく表示されているものと考えられる。しかし、ローズマリー抽出物の基原物質は、マンネンロウというシソ科の植物であり、その葉や花から抽出した成分である。したがって、ローズマリー抽出物に大豆由来と付記することは間違いとなる。
アレルギーに関与する原材料とされている特定原材料等に関しては、原材料表示の中で1か所でも表示されていれば、関係のある人は購買の際に判断の手助けにすることができる。したがって、大豆に関しても1回表示すれば良いことになる。このことから、たとえローズマリー抽出物の製造過程で大豆を使用していた場合でも、由来を付記する必要はないことになる。
 
物質名の誤記
アレルギーに関与する特定原材料等の表記での間違いは、見受けることはまれであるが、物質名に関する間違いは、ときどき見受けられる。
次に、物質名を間違えて表示した例をいくつか見ていく。
 
A バナナケーキ
名  称 焼き菓子
品  名 バナナケーキ
原材料名



 
砂糖 小麦粉 卵 食用油脂 バナナ アーモンドプードル 脱脂粉乳 澱粉 ベーキングパウダー 乳化剤 食塩 
増粘剤(キサンタンガム) 香料 着色料(V.B3)  
 
この例では、食品である食塩が食品添加物の間に表示されていることに気が付く人はいるでしょう。しかし、ここで問題にしているのは、物質名の誤記である。
誤記は、「V.B3」の表示である。現在はビタミンB3というビタミン名称は使われておらず、着色の目的でも使われるビタミンとしてビタミンBがある。このことから、簡略名で「V.B」と表示すべきところを、表示した事例のように誤記したものと考えられる。打ち出しラベルのため、打ち込み時に2とすべきところを3と打ち誤ったものであろう。
なお、ビタミンBの2は、下付けで打つことが正式であるが、B2のように同じ大きさで表示されていても、保健所などから訂正するよう求められることはない模様である。
同じように、打ち誤りでは次のような例もある。
 
B レモンマドレーヌ
名称 菓子パン
小麦粉,卵,砂糖,植物性油脂,発酵バター,レモン果汁,脱脂粉乳,乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル,レシチン),香料(ミルクフレーバー),着色料(V.B2),膨脹剤,増粘多糖類(キサンタンガム,ヴァーガム) (原材料の一部に大豆を含む)
 
 
この例では、増粘多糖類のグァーガムをヴァーガムと誤記したものである。
ところで、この例では一括名(乳化剤)および類別名(増粘多糖類)で表示した上に、それぞれで使用した物質名を付記する形が採られている。これは消費者に、より多くの情報を与えるものとして、認められている表示方法であるが、そこに誤記があっては、正しい情報提供にはならない。なお、増粘多糖類は増粘剤として使用した場合に限って用途名との併記を省略できるものであり、安定剤など、他の目的で使用した場合は使用目的の用途名に併記する必要がある。
また、着色料のビタミンBに関しては、正しい表示では、V.Bとなる。このことは、Aの例と同様である。
 
C だいだい寒天
名 称 半生菓子
原材料名


 
水飴、砂糖、だいだい、寒天、オブラート
(馬鈴薯澱粉・甘藷澱粉・大豆レシチン)、だいだい果汁、クチナシ色素、酸味料
 
 
この菓子に使われて表示されている食品添加物は、着色料のクチナシ色素、酸味料とオブラートに使われているレシチンである。レシチンと簡略名で表示される物質には、植物レシチン、卵黄レシチン、分別レシチンがあり、さらにこれらを酵素で分解して得られる酵素分解レシチンおよび酵素反応を利用して修飾した酵素処理レシチンがある。この菓子に使われているレシチンは、表示にあるように大豆由来の植物レシチンである。大豆はアレルギー関与物質として表示が義務づけられている特定原材料であることから、大豆レシチンと表示したものと考えられる。しかし、品名は植物レシチンであり、別名はレシチンであることから、大豆レシチンという記載は、認められた表示の原則に反することになる。
正しくは「レシチン:大豆由来」などと記載することになる。あるいは、事例Bにあるように、レシチンを記載し、別に原材料に大豆を含む旨を表示することもできる。
このレシチンの表示に際して大豆レシチンと誤記されている例は比較的多く、注意が必要な物質である。
 
このような誤記は単純なミスとも言えるが、厚生労働省から通知されている表示の原則に反した表示の事例を見かけることもある。次に、そのような例のいくつかを示す。
 
D 鉱泉せんべい
名 称 焼菓子
品 名 鉱泉せんべい
原材料

 
小麦粉・砂糖・植物性油脂・鉱泉水(炭酸Na・K・硫酸Na)・天塩
 
 
この煎餅に使われた鉱泉水が、どういうものか不明であり、食品添加物の表示の適否は一概に判断できない。ただ、表示の仕方からは、鉱泉水に加えられた食品添加物が表示されているものとみられる。その表示に記載されている「炭酸Na・K」は、「炭酸塩(Na・K)」あるいは「炭酸Na・炭酸K」とすべきものである。
なお、天塩の表示は、使用した原材料を消費者に正確に伝えるためには、食塩という一般的な表示が好ましいと言える。
 
このように自己流で簡略化して結果的に表示の基準に反する事例もある。表示のための基準を確認し、これを遵守する必要がある。
 
E しば漬ちりめん
名称  しば漬ちりめん
原材料 いわし稚魚 ごま しば漬(きゅうり なす,しょうが,しそ,シソの実) ソルビット 調味料(アミノ酸等) 甘味料(甘草) 酸味料 増粘剤(キサンタンガム) 香料 リン酸塩Na アルコール 保存料(ソルビン酸K) 
着色料(赤102,赤106)
 
 
この例もしばしば見受けられる事例で、リン酸塩類をグループ化して表示する際の理解不足に起因するものである。
リン酸塩類の表示を、ナトリウム塩を代表に見ると、次のようになっている。
オルトリン酸塩と呼ばれるリン酸のナトリウム塩には、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムおよびリン酸三ナトリウムの3種類があり、いずれもリン酸ナトリウム、リン酸Naという簡略名が認められている。オルトリン酸塩の他に重合リン酸塩類と呼ばれる縮重合系のリン酸塩類の一群がある。これにはピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム(いずれも簡略名はピロリン酸Naなど)、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウムがある。食品の製造・加工に際しては、このような重合リン酸塩類を複数使用したことも多いため、その場合にはリン酸塩(Na)と簡略化して表示することが認められている。このとりまとめによる表示はオルトリン酸塩類と重合リン酸塩類を併用した場合にも認められる。
このような簡略化した表示の基準に則して記載すると、リン酸塩(Na)と表示することになる。
 
豆腐に見られるさまざまな表示ミス
ここまで示してきたように単純な誤記も多いが、豆腐には、このような誤記の他にもさまざまな表示ミスがある。このような例を次に示す。
 
F 寄せ豆腐
名称/寄せ豆腐
原材料名/丸大豆(遺伝子組み換えでない)
凝固剤 消泡剤
 
 
G ざる豆腐
      湯取りざる豆富
原材料名:丸大豆 内容量300g
 凝固剤:塩田にがり(塩化マグネシュウム)
 
 
H 凍り豆腐
名  称 凍り豆腐
原材料名

 
丸大豆(遺伝子組換えでない)
豆腐用凝固剤(ニガリ)
 
 
豆腐を形作る目的で使われる食品添加物は、「豆腐用凝固剤」あるいは「凝固剤」という一括名で表示することが認められている。一括名で表示すれば、物質名を合わせて表示することは不必要というのが原則である。しかし、地方条例等で豆腐の凝固剤の物質名を表示することを定めている場合があり、表示に混乱を来す一因になっている。
事例のF,G,Hは、いずれも表示に一括名がしかし表示には違いが目立つ。
Fは一括名の凝固剤だけを費用辞しており、併記することによるミスはない。ただ、消泡剤という記載が表示の原則に反している。表示の原則は、物質名で行うことになっており、一括名は特定されていて、消泡剤という一括名はない。このため、消泡剤にとして使用した物質名で表示することが求められる。
Gでは、凝固剤を原材料と見ていないようで、凝固剤を別に表示しているように見受けられる。この書き分け方に疑問があるが、凝固剤欄の表記には大きな問題がある。「塩田にがり」の表示があるが、塩田法食塩製造に付随して得られたニガリを意味しているようにも思われるが、後に塩化マグネシュウムが付記されている。ニガリを表示するには、物質名を表示した後に( )づけで付記することが特別に許されているに過ぎず、ニガリを主体として表示することは認められない。また塩化マグネシュウムという物質名は認められていない、食品添加物として指定されている名称は「塩化マグネシウム」で、簡略名は塩化Mgであり、物質名の表示としても誤りである。さらに、塩田にがりを謳っていることを見ると、この塩化マグネシウムは、粗製海水塩化マグネシウム(別名:塩化マグネシウム含有物、簡略名はない)を指していることも考えられる。この場合は、表示している物質名が間違っていることになる。このようにいくつものミスが重なった表示である。
ベテランの方々の中には、マグネシウムをマグネシュウム、カルシウムをカルシュウムと表記する人がいる。これらも表示の上では間違いになるので、注意を要する。
Hは、物質名を表示していないエラーである。
 
一括名の範疇物質の誤り
一括名は、その言葉の意味を定義すると共に一括名で表示できる食品添加物の範囲も厚生労働省から通知されている。対象外の食品添加物を一括名で表示するエラーも見受けられる。
 
I 姫竹の水煮
品  名 姫竹水煮
原材料名 姫竹、pH調整剤(ビタミンC)
 
一括名のpH調整剤の範疇物質には、ビタミンC(L-アスコルビン酸とその誘導体)は入っていない。しだがって、この表示は違反となる。ビタミンCの使用目的に対応した表示を行う必要がある。
ビタミンC類には酸味を感じるものがあり、しばしば酸味料の仲間と誤解される。この事例も同じような誤解に発したものと思われる。
なお、pH調整剤は一括名であり、物質名を併記する必要がないが、今回は、上乗せ表示したことにより間違いが表に出てきた例でもある。
 
用途名での物質名併記漏れ
用途名にあたる目的で使用した食品添加物は、用途名と物質名を併記することが定められている。しかし、用途名だけを記載して物質名の併記を忘れている事例を見かけることがある。そのような例のいくつかを次に示す。
 
J 駅弁(栗めし)
原材料名




 
ご飯、栗甘露煮、わらびぜんまい煮、付合せ(その他小麦、大豆、豚肉由来原材料を含む)、着色料(クチナシ色素、銅葉緑素)、漂白剤(次亜硫酸Na)、凝固材、酸化防止剤、酸味料、保存料(ポリリジン)
 
 
比較的丁寧に表示されている駅弁の事例であるが、一括名の「凝固剤」を「凝固材」と誤記(パソコン打ち出しのチェックミス)している他に、用途名である酸化防止剤の物質名を表示していないミスが重なっている。着色料と保存料には物質名の併記があることから、何らかのチェック漏れと思われる。
 
K パン
名称    デニッシュトースト
原材料名
小麦粉,油脂,バターオイル,卵,砂糖,イースト,食塩,イーストフード,V.C,乳化剤,香料,酸化防止剤,PH調整剤,増粘剤,着色料,(原材料の一部に小麦,乳,卵,大豆を含む)
 
 
このパンは、用途名に物質名を全く併記していないという、めったに見かけることのない事例である。用途名と物質名の併記は、法的に義務づけられているもので食品の表示ラベルを作る際には充分注意する必要がある。
なお、pH調整剤をPH調整剤と誤記している点も合わせて改めることが望まれる。
 
L 水ようかん
名 称 菓子
品 名 栃の実水羊羹
原材料
 
砂糖・栃の実・りんご果汁・
ゲル化剤・香料・酸味料
 
 
この事例は羊羹を形作るときに使用したゲル化剤の物質名を併記していないものである。
 
M 巻きずし
名  称 笹巻ずし
原材料名 米、椎茸、海老、大根、大葉、ゴマ、みりん、砂糖、食塩、調味料(アミノ酸等)、ソルビン酸K、酸味料、香辛料、甘味料、(原材料の一部に小麦含む)
 
 
この巻きずしでは、用途名の表示漏れと、用途名に対する物質名の表示漏れという2種類のミスが重なって見受けられる。
まず、ソルビン酸Kは、保存の目的で使用される食品添加物であり、用途名の保存料と併記する必要がある。なお、ソルビン酸Kが、すしの具材の1つに使われていて、すしの保存性には寄与していないという理由で、用途名を記載していないのであれば、その旨を表示することが望ましい。この事例では、表示の順序から、比較的多い量が使われていると推定され、すしの保存性に寄与していることが考えられる。
甘味料に関しては、使用した食品添加物の物質名の記載が漏れたものである。
 
ここまでの事例のように、表示の際にもう少し注意すれば防ぐことが可能なミスが多い。表示の原則に関する再度の復習をすると共に、自社製品の表示を検討するときに、見直しを充分に行うことが、表示違反を生じない重要な対策となる。


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