食品添加物基礎講座(29)
食品添加物に関わる規格・基準(その5)
食品添加物の規格と食品添加物公定書
これまで、食品添加物の成分規格のよりどころである「食品,添加物等の規格基準」の「第2 添加物」における規定を見てきたところであるが、この「食品,添加物等の規格基準」の「第2 添加物」に規定されている事項を一冊にまとめたものが食品添加物公定書である。今回は、この両者の関係を中心に見直すことにする。
 
食品添加物公定書とは
食品添加物公定書とは、食品衛生法の次のような規定で、発行することが義務づけられている刊行物である。
厚生労働大臣は、食品添加物公定書を作成し、第11条第1項の規定により基準又は規格が定められた添加物及び第19条第1項の規定により基準が定められた添加物につき当該基準及び規格を収載するものとする。
(食品衛生法第21条)
 
この規定に基づいて刊行される食品添加物公定書は、「食品,添加物等の規格基準」の「第2 添加物」の項に収載された事項と、食品衛生法第19条第1項に基づいて、食品衛生法施行規則第21条に規定されている表示に関する基準のうち、食品添加物に関わる部分を収めることになる。
食品添加物公定書は書籍の形で刊行されることから、食品衛生法に基づいて定められた所定の規格および基準類の他にも収載される項目がある。その構成は、次のようになっている。
 
・目次
・食品添加物公定書沿革略記
食品衛生に関する明治時代からの法的な規制の経緯、食品添加物公定書が作成されるようになった経緯、これまで行われた食品添加物の成分規格の制定・廃止の経緯などが簡潔に既述されている。
・まえがき
その版の公定書作成の経緯と、主要な改正点の説明が行われる。
・通則
・一般試験法
・試薬・試液等
・成分規格・保存基準各条
・製造基準
・使用基準
・表示基準
・付録(原子量表)
通則で使用することが決められている原子量表が収載される。
 
このうち、主要部分の通則から使用基準までは、食品添加物公定書を刊行する時点における「食品,添加物等の規格基準」の規定を再録する形になる。表示基準は、食品衛生法施行規則の表示に関する規定のうち食品添加物に関連する事項を抜き出して収載される。
このように、食品添加物公定書は、単なる成分規格集ではなく、食品添加物にかかわる様々な規定が集大成される大切な書籍である。
 
食品添加物公定書の歴史
食品添加物公定書は、1955年(昭和30年)の調製粉乳によるヒ素中毒事件が契機となり、食品衛生法が改正され、その際に先の規定のように、作成が義務づけられるようになったものである。
1957年(昭和32年)6月に食品衛生法の大改正が行われ、その規定にに基づいて1959年(昭和34年)12月28日に食品衛生法施行規則の改正と「食品,添加物等の規格基準」の新設(旧基準「食品,添加物,器具及び容器包装の規格及び基準」と「食品衛生試験法」を廃止)があり、現在と同じ形の「食品,添加物等の規格基準」の「第2 添加物」の部に食品添加物の成分規格等に関する規定が定められた。この告示に基づいて1960年(昭和35年)3月に、初めての食品添加物公定書が刊行された。
 
(第一版)食品添加物公定書が作成された後、引き続き成分規格の作成の検討が進められ、追補版が第5追補まで出された後、約6年後の1966年(昭和41年)2月に第二版食品添加物公定書が作成された。
この第二版に関しては1回追補が出された。
第二版の刊行後、7年半を経過した1973年(昭和48年)10月に、それまでの収載項目の60%を越す226項目にわたる大規模な改正および新規成分規格の制定が告示された。その際、この改正を基に、第三版食品添加物公定書を作成する旨の通知が出された。実際に、第三版食品添加物公定書が公表されたのは、5か月後の、翌1974年の3月であった。このように長期間かかったのは、当時は現在のようなコンピューター処理による印刷原版の作成とは異なり、1字1字の活字を拾う植字作業であり、印刷用の原版を作ることに時間を費やしていたことが大きな理由となっている。したがって、10月の告示の後、12月に行われた使用基準等の改正は、この第三版食品添加物公定書には反映されなかった。
次の第四版食品添加物公定書は、小幅な改正にとどまっている。
1986年の第五版食品添加物公定書からは、それまで行われてきた改正部分を告示する方法を見直し、食品添加物に関係する規格基準の全文を廃止(削除)して新たに改正する規格基準の全文を告示する方式が採用された。この告示方法により、告示用の印刷原版をそのまま公定書の印刷版とすることも可能になり、公定書が刊行されるまでの期間を大幅に短縮された。
第六版食品添加物公定書は、小幅な改正にとどまったが、第五版の形式は維持された。
次の1999年(平成11年)の第7版食品添加物公定書では、新規の告示は、日本薬局方の告示と同様に、縦覧に供するという形で、規格基準全文を官報に収載することも省略される形になった。版の数を示す数字も漢数字からローマ数字に改められた。
2007年(平成19年)には、第8版食品添加物公定書に向けて、3月30日に全文差し替えの形式による全面改正の告示が行われた。今回も告示内容は、縦覧に供するという形が採られている。この3月30日告示の内容で刊行されたのが、第8版食品添加物公定書である。しかし、原版を転用する体制が採れなかったことから、刊行は、告示から5か月を経過した8月30日であり、第五版以降の公定書では、異常に長期間を要したものになっている。
なお、一般向けの市販版も間をあけることなく、日本食品添加物協会からの販売が開始されている。
これまでの食品添加物公定書の刊行の経緯は下表に示すとおりである。
直前の改正等
 
公定書(版)
 
成分規格数
 
発行年月  (市販版)
1959.12.28 
1960. 9.10 
1961. 6. 1
1962. 5.26
1963. 7.26
1964. 7.15
1966. 2.17 
1969. 2. 1
1973.10. 1 
1973.12.21 

1978. 8.22 
1986.11.20 ★
1992. 8. 6 ★
1999. 4. 6 ★
2007. 3.30 ★
2007. 4.26
2007. 8. 3






 
第一版
第1追補
第2追補
第3追補
第4追補
第5追補
第二版
第1追補


第三版
第四版
第五版
第六版
第7版
第8版








 
198
新規 23
新規 19
新規 32
新規 23
新規 39
357 (新28)
新規 9
<大幅改正>

337
340
344
372
416
507
新規 2
新規 2






 
1960. 3.15 普及版 3.20
1960.12.20
1961. 7.20
1962. 6.30
1963. 7.26
1964. 7.15
1966. 2.17 ( 5. 1)
1969. 5.22


1974. 3. 1 ( 6.20)
1978.12.15 (12.15)
1986.11.20 (12. 1)
1992. 8.13 ( 8.31)
1999. 4. 6 ( 4.20)
2007. 8.30 ( 8.31)
 
表中★印を付けた告示は、全文を差し替える形での改正
 
この表に示したように、3月30日に「食品,添加物等の規格基準」が全面改正された後、4月と8月に、それぞれ2品目ずつの新規の食品添加物が指定されている。この4品目に関しては、成分規格および使用基準も設定されている。
第8版食品添加物公定書では、3月30日時点での告示内容を収載しているため、これらの4品目に関しては収載されていない。8月の告示分は時期的に難しかったことも理解できるが、4月に指定された2品目は、収載してもらいたかったものである。
このように、食品添加物に関する規格と基準類を集大成して使いやすくまとめられている食品添加物公定書であるが、近年のように毎年数多くの新たに食品添加物が指定されている状態では、刊行の間隔が開くと、成分規格や使用基準などが収載されていない品目が増えることになる。そうなると、食品添加物公定書だけでは、実際に販売・使用されている食品添加物の規格や基準類を把握することができない状態が増していくことになる。所管する厚生労働省には、今回の第8版食品添加物公定書の追補、あるいは、第9版食品添加物公定書を早い時期で刊行するよう検討されることを期待したい。
それまでの期間は、官報に告示された「食品,添加物等の規格基準」の関連条項のコピー、あるいは、それを転載した文献類のコピーなどを参考にすることになる。また、毎年発行されている食品衛生小六法には「食品,添加物等の規格基準」も収載されており、この中の成分規格や使用基準を参考にすることもできる。
 
食品添加物公定書解説書
食品添加物公定書の代わりに、食品添加物公定書解説書を保有する企業も見受けられる。この解説書は、公定書の内容を再録した上、様々な解説を加えたものである。特に成分規格では、確認試験、純度試験の内容に関する説明や、試験法に関する注意などが細かく記載されている。このため、品質管理部門など、製品の分析に携わる担当者にとって必須の書籍になっている場合もある。また、製法や安全性に関する既述も充実しているが、第三版食品添加物公定書解説書を作成したときから、見直しが行われていないように見受けられる品目もあり、新しい資料による見直しが求められる場合もある。
この解説書は、出版する廣川書店が、社内に編集委員会を設けて各項目について専門家に分担執筆を依頼したもので、厚生労働省が内容を担保したものではない点には留意する必要がある。第八版食品添加物公定書に関しても、近いうちに刊行されるものと考えられる。
 
第8版食品添加物公定書の特徴
今回の食品添加物公定書の見直しに関しては、次のような点に力が注がれている。
 
・既存添加物等の成分規格の設定
既存添加物の63規格と、一般飲食物添加物1規格の合計64規格(62品目)が設定された。
新たに設定された規格は次のものである。
既存添加物        63規格
N-アセチルグルコサミン、5’-アデニル酸、
L-アラビノース、
myo-イノシトール[イノシトールのうち]、
エンジュ抽出物[ルチンのうち]、
貝殻焼成カルシウム[焼成カルシウムのうち]、
活性白土、カードラン、カンゾウ抽出物、
クチナシ青色素、クチナシ赤色素、クチナシ黄色素、
α-グルコシルトランスフェラーゼ処理ステビア、
酵素処理イソクエルシトリン、酵素処理ヘスペリジン、酵素分解レシチン、酵母細胞壁、骨炭、
サイリウムシードガム、酸性白土、シアノコバラミン、
α-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン
[共に、シクロデキストリンのうち]、
5’-シチジル酸、しらこたんぱく質抽出物、
ステビア抽出物、スピルリナ色素、
粗製海水塩化マグネシウム、タウリン(抽出物)、
タマリンドシードガム、タラガム、
ツヤプリシン(抽出物)、デキストラン、
トコトリエノール、d-γ-トコフェロール、
d-δ-トコフェロール、トマト色素、納豆菌ガム、
ナリンジン、パラフィンワックス、
微小繊維状セルロース、フクロノリ抽出物、プルラン、ベタイン、ヘマトコッカス藻色素、ヘム鉄、
ベントナイト、ε-ポリリシン、
マイクロクリスタリンワックス、
マクロホモプシスガム、ムラサキイモ色素、
ムラサキトウモロコシ色素、メナキノン(抽出物)、
ヤマモモ抽出物、ユッカフォーム抽出物、
ラカンカ抽出物、ラック色素、ラノリン、
ラムザンガム、
卵殻焼成カルシウム[焼成カルシウムのうち]、
リゾチーム、D-リボース、ルチン酵素分解物
一般飲食物添加物      1規格
アカキャベツ色素
 
・有害試薬の使用を極力避けるための試験法の改正
四塩化炭素、クロロホルム、ベンゼン等の使用を極力避ける。
対照試験用におけるシアン化合物の使用を避ける。
・成分規格の文体の整合化
各条における文体の整合性を図るための成分規格の見直しが行われている。
特に、液体クロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィーの操作条件での記載方法の統一を図る。
シクロデキストリンのうち、β-シクロデキストリンに関しては、第7版から収載されているが、α-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリンの規格設定に伴い整合性を図り、β-シクロデキストリンの成分規格を改正する。
・成分規格の純度試験における重金属試験から鉛試験への移行
国際的な整合性を図る目的でいくつかの品目に関して見直しを行う。
・通則の見直し
単位表記の部分修正(mol/L,mmol/L)
冷所の規定の見直し
(15℃以下の場所 → 10℃以下の場所)
・一般試験法の見直し
日本薬局方などを参考に、より新しい知見を加え、内容を見直す。
必要に応じて試験の名称を変更する。
吸光度測定法   →紫外可視吸光度測定法
原子吸光度測定法 →原子吸光光度法
沸点及び留分測定法→沸点測定法及び蒸留試験法
メトキシル基測定法→メトキシ基測定法
・試薬・試液等の見直し
新たな成分規格の設定に伴う、試薬・試液等の追加を行う。
試薬のJIS規格番号の確認と追加を行う。
新たに、検知管式ガス測定器を収載する。
・成分規格のうち、確認試験等における赤外分光スペクトル測定法の採用拡大
確認試験に赤外分光分析によるスペクトルでの確認を積極的に採用する動きは、第7版食品添加物公定書から進められてきたもので、第8版食品添加物公定書でも、その動きが続けられた。
第7版ではじめて採用された参照スペクトル法が大幅に増加した。 (14項目→61項目に)
・新規指定添加物の成分規格等の収載
新規に指定された食品添加物の成分規格および使用基準は、既に、食品,添加物等の規格基準に収載されているが、食品添加物公定書の改訂に合わせて改めて収載されたものである。1999年の第7版公表以降2007年3月30日までに新たに指定された30品目32項目の規格が収載された。
なお、4月26日と8月3日に新たに指定された次の4品目の成分規格等は収載されていないので、第8版食品添加物公定書を使用する際には注意する必要がある。
トコフェロール酢酸エステル
d-α-トコフェロール酢酸エステル
イソブチルアルデヒド
2-メチルブタノール
・指定削除品目の規格・基準の削除
第7版刊行後3品目が削除されたことに伴い、成分規格3項目(うち、1項目は製剤規格)と使用基準が削除された。
 
(この項 了)