食品添加物基礎講座(38)
食品の品質の保持(2)
食品原材料の前処理
 食品の品質を保持するには、清浄な原材料を使用することが望まれる。今回は、このような原材料を清浄にするために使われる食品添加物などを見直すとともに、不適切な前処理について考えることにしよう。
 
食品の洗浄
 食品を加工、あるいは加工食品を製造するときに、最初に行うことは、食材の選別と洗浄である。
 素材となる食材の選択に際しては、形状(形と大きさなど)の他に、産地、保管および輸送運搬の方法なども条件となる。適切な選択された食材は、使用あるいは加工の前に洗浄することが一般的である。
 この食材の洗浄に使用するものが、洗浄剤である。この洗浄剤は、「食品,添加物等の規格基準」の「第5」に規定があり、ここで規定する洗浄剤とは、「もっぱら飲食器の洗浄の用に供されることが目的とされているものを除く」という限定が付けられている。このことで判るように、「食品,添加物等の規格基準」で規定される洗浄剤は、食材の洗浄を目的としているものが対象となっている。
 この洗浄剤に配合できる成分に関しては、成分規格の中に、次のような主旨の規定がある。
 
・ 酵素および漂白作用を有する成分を含まない。
・ 化学的合成品の香料は、指定添加物に限る。
・ 化学的合成品の着色料は、指定添加物の他4種類に限る。
・ アニオン系界面活性剤を含む洗浄剤は、生分解度が85%以上  であること
また、野菜と果実に関しては、次のような使い方が使用基準で規定  されている。
・ 洗浄剤の溶液に5分間以上浸積する。
・ 洗浄剤を使用した後は、飲用適の水で、30秒以上すすぐか、  ため水をかえて2回以上すすぐ。
 
 ところで、洗浄剤と言えば、その主体は界面活性力のある成分である。成分規定では、アニオン系界面活性剤に関して生分解度が規定されているだけであるが、非イオン系(ノニオン系)の界面活性剤は、さまざまな洗浄剤に幅広く配合されている。
 そのノニオン系界面活性剤の主体は食品添加物の乳化剤である。これは、食品用の洗浄剤に関しては、できうる限り食品添加物で構成するようにという指導がなされているからである。
 現在食品添加物として指定されている乳化剤には、次のようなものがある。
 
ノニオン系
グリセリン脂肪酸エステル
ショ糖脂肪酸エステル
ソルビタン脂肪酸エステル
プロピレングリコール脂肪酸エステル
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル
(ポリソルベート類4品目)
アニオン系
オレイン酸ナトリウム
ステアロイル乳酸カルシウム
 
 これらは使用基準で、食品添加物としては、使用目的が限定されている場合もあるが、洗浄剤に配合する場合は、とくに制限されることはない。
 なお、アニオン系では、ステアロイル乳酸ナトリウムを新たに指定する方向で準備が進められている。
 
 乳化剤として使用される食品添加物には、さらに、既存添加物の中でレシチン類やサボニン類のように乳化の目的に使われるものもある。しかし、比較的高価格であるなど、食材の洗浄剤に配合されることは極めてまれである。
 
 ところで、食材用および食器・製造機器用の洗浄剤に関連する業界は、日本食品洗浄剤衛生協会を組織し、そこでは、次のような区分の下に自主基準を定めている。
@ 中性洗剤
A アルカリ性洗浄剤
  非苛性系、非劇物系、劇物系
  上記の塩素配合系
B 食器洗浄機用洗浄剤
  非苛性系、劇物系、塩素・劇物系
C 酸性タイプ洗浄剤
  非劇物系、劇物系
D 塩素系漂白剤
E 酸素系漂白剤
 この区分で判るとおり、食器および製造機器用の洗浄剤、殺菌剤にわたり広い使用目的に対応する形になっており、その範囲は、「食品,添加物等の規格基準」の規定を超えた形になっている。
 食材用の洗浄剤の開発等を含め、必要な場合は、この協会から情報を入手することも助けとなろう。
 
食品の殺菌
 食材の洗浄と共に、食品を加工する際の前処理として殺菌する場合も多い。
 この食材の殺菌に関しては、洗浄剤と異なる規制が掛けられている。これは、食材の洗浄は、食材の性質に影響を及ぼすことはないが、殺菌に使用される薬剤は、その性質上、漂白効果を合わせ持つものが一般的であることによる。食材に影響を及ぼす場合には、食品添加物として規制されるからである。
 食材あるいは食品殺菌に用いる食品添加物を「殺菌料」と呼ばれている。殺菌剤と呼ぶこともあるが、殺菌の目的で使用するものを医薬品と「殺菌剤」と呼ぶため、医薬品との混同を防ぐ目的で、食品添加物では「殺菌料」と呼ぶことが奨励されている。
 この殺菌の目的で使用される食品添加物には、次のようなものがある。
 
塩素系の殺菌料
亜塩素酸ナトリウム・亜塩素酸ナトリウム液
高度サラシ粉
次亜塩素酸ナトリウム
次亜塩素酸水
酸素系の殺菌料
オゾン (既存添加物)
過酸化水素
 
 この他に、塩素系の殺菌料である亜塩素酸水の新規指定に向けての手続きが進められている。
 塩素系の殺菌料は、発生する亜塩素酸イオンなど塩素系酸化物の作用によるものであり、酸素系の殺菌料は、発生する活性を持つ酸素の効果によるものである。
 なお、亜塩素酸ナトリウムは、「毒物・劇物取締法」の劇物に指定されており、25%以下の水溶液にすることにより、劇物としての規定を免れ得ることから、亜塩素酸ナトリウム液の成分規格が設定され、市場では亜塩素酸ナトリウム液が主体に流通している。
 この亜塩素酸ナトリウムを含め、塩素系殺菌料が殺菌料の主体になっており、様々な品目が指定されている。
 また、塩素系の殺菌料に関しては、使用基準で次のような規定がある。
 
最終製品の完成前の分解あるいは除去
亜塩素酸ナトリウム(亜塩素酸ナトリウム液)
次亜塩素酸水 (除去を規定)
対象食品の限定
亜塩素酸ナトリウム(亜塩素酸ナトリウム液)
製菓用のかんきつ類の果皮、さくらんぼ、ふき、ぶどう、
もも、
かずのこ調味加工品、生食用野菜類、卵殻
次亜塩素酸ナトリウム
「ごま」を除く
 
 なお、高度サラシ粉に関しては、使用基準は設定されていない。また次亜塩素酸ナトリウムは、食品の完成前の分解あるいは除去が規定されていない。この2者に関しても、いずれも残留すると、塩素系特有のにおいが残る(あるいは発生する)ため、自ずから一定の規制を掛けた使い方をすることになる。
 また、現在検討中の亜塩素酸水では、野菜類、果実類、肉類、魚介類などの殺菌に使用し、最終食品の完成前の除去を規定することが予定されている。
 ところで、次亜塩素酸ナトリウムがゴマへの使用が禁じられているのは、殺菌の効果の有無とは関係ないことで、黒あるいは褐色のごまを脱色して、より高価な金ゴマとして販売されることを防ぐという理由である。
 また、亜塩素酸ナトリウムの対象食品のうち、主に殺菌の目的で使用される食材は、生食用の野菜と卵のから(卵殻)であり、菓子原料用のかんきつ類の果皮と、かずのこの調味加工品は、漂白の作用も兼ねていることが多く、さくらんぼ等は漂白の目的が主となっている。
 一方、酸素系では、過酸化水素に残存に関する基準があるため、現在は、「カズノコ」の漂白剤として限定的に使用されているに過ぎず、実質的には、既存添加物のオゾンのみとなっている。
 なお、過酸化水素は、食品製造用の機器と包装容器の殺菌洗浄の目的では、幅広く使用されている。
 
禁じられている不適切な前処理
 食品の加工を前に、食品の洗浄をおこない、必要に応じて殺菌することは、品質を保持する前処理の手段として大切な因子であるが、生鮮食品で同様の処理を施すことが、食品の鮮度を誤認させるなどの観点から、そのような前処理を禁じている場合もある。また、前処理で漂白あるいは着色することも、消費者に誤認させるおそれがあり、禁じられている。これは、通知(下記)により指導されているので、生鮮食材を取り扱う者は、充分に留意しておく必要がある。
 
○生鮮野菜等に対する食品添加物の使用について
(昭和61年6月5日 衛食第101号・衛化第32号)
生鮮野菜等に対する着色料、漂白剤等の使用については、タール系合成着色料及び亜硫酸塩の使用の禁止、天然着色料及びタール系以外の合成着色料の使用の禁止等、認めない方針で臨んでいるところである。しかし、最近、これらの食品添加物を使用基準に違反して生鮮野菜等に使用している事例があるほか、これら以外の食品添加物を野菜の発色、漂白の目的で使用する事例が見受けられる。食品の品質、鮮度等について消費者の判断を誤らせるおそれのある食品添加物の使用は、食品添加物本来の目的に反するものである。
ついては、今般、下記について貴管下関係者に対する指導方お願いする。
1 使用基準の設定されている食品添加物に関しては、当該使用基準の遵守を更に徹底すること。
2 生鮮野菜等として販売するものに対し次のような目的で食品添加物を使用することは、現行使用基準に反しないものであってもその使用を行わないこと。また、そのような使用を目的とした食品添加物の製造、販売を行わないこと。
(1) 発色、漂白を目的としてリン酸及びその塩類を使用すること。
(2) 漂白を目的として次亜塩素酸ナトリウム等を使用すること。
ただし、食品製造、調理等の過程で衛生確保のため殺菌を目的として適切に使用される場合については、この限りでない。
(3) その他、生鮮野菜等として販売されるものに対し、発色、漂白を目的として食品添加物(化学的合成品以外のものを含む)を使用すること。
 
○食肉販売業及び食肉処理業の監視指導の強化について(昭和61年7月17日 衛乳第32号)
 この度、別紙(省略)のとおり食肉の変色防止のため、ニコチン酸をひき肉等に不正に使用し、食品衛生法第7条第2項違反として摘発されるという極めて遺憾な事例が東京都で発生し新聞等でも報道されたところであります。
 つきましては、係る事例の未然防止と食肉に対する消費者の不信を一層するため、貴管下食肉販売業者及び食肉処理業者に対し、食品添加物の不正使用排除のための監視を強化するとともに食肉の適正な温度管理、衛生的な取扱い等についてさらに指導を行うよう特段のご配慮をお願いします。
 なお、関係業界に対しても別添(省略)のとおり通知しましたので申し添えます。
 
○鮮魚に関する食品添加物の使用について
(平成3年6月21日 衛乳第42号、衛化第36号)
 生鮮野菜等に対する食品添加物の使用については、昭和61年6月5日付け当職通知等により、その品質、鮮度等に関し消費者の判断を誤らせるおそれのあるものについては、食品添加物本来の目的に反するものとして、従来よりそうしたことのないよう指導してきたところである。
 しかし、最近、一部に「鮮度保持剤」と称する食品添加物が変色防止等の目的で使用されているとの指摘がある。さしみ、切り身等を含む鮮魚にこれら食品添加物を使用することは、食品の品質、鮮度等について消費者の判断を誤らせるおそれのあるものと考えられるので、このような使用がなされることがないよう貴管下関係営業者に対する指導方よろしくお願いする。
 
 このように生鮮野菜等、食肉、鮮魚等での食品添加物の使用に対して再三通知されているにもかかわらず、その使用に対して、次のような問い合わせに対する回答も見受けられる。
 
○鮮度保持剤又は調味料の食品衛生法上の取扱いについて
 (平成7年12月26日 衛化第142号)
 標記について徳島県環境生活部長より別添1のとおり照会があり、別添2のとおり回答したので御了知ありたい。
(別添1)
このことについて、別添のとおり疑義が生じましたので、その取扱いについて御回答ください。
(別添)
 本件に所在する添加物製造業者であるA社は、うま味調味料(食品)と称する商品(成分分量:食塩80%、クエン酸ナトリウム10%、炭酸水素ナトリウム7%、アスコルビン酸3%)を食品の製造又は加工業者を対象として、次のルートで販売しております。
 A社(製造)→B社(卸販売)→C社等数社(小売販売)
 このたび、C社においてはこの商品を食品の製造又は加工業者のみならず生鮮食品の販売業者に対しても販売しようとしたことが判明し、本品の食品衛生法上の取り扱いについて疑義が生じましたので、次の事項について御教示お願いします。
 なお、本品は水に対して1〜1.5%相当量を溶解し、砂糖等を混和して用いる。また、練り込みには原料に対し3〜10%程度を使用する。
1 本品を次の目的で販売する場合、本品は食品又は添加物のどちらに該当するか。
(1) C社等がA社の定めた使用方法である調味を目的として販売する場合
(2) C社がA社の使用方法外の鮮度保持を目的として販売する場合
2 本品を次の生鮮食品(製造又は加工のための原材料は除く)に対し調味料又は鮮度保持剤として使用することは可能か
(1) 野菜
(2) カット野菜
(3) 生の食肉又は魚
(4) 冷凍の食肉又は魚
3 本品を次の目的で使用して製造又は加工され、容器に入れられた製品には添加物非洋次の省略は可能か
(1) 調味料として使用した場合
(2) 原材料の鮮度保持の目的で使用した場合
(別添2)
平成7年10月24日付け生衛第392号をもって照会のあった標記については下記のとおり回答する。
1について
本品に含まれるクエン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及びアスコルビン酸は、その量並びに本品の食品への添加量からみて、食塩の加工保存のために添加されているものとは考えられず、かつ、最終食品に対しての効果を期待したものであると解されるので、貴照会の(1),(2)のいずれの場合においても、本品は食品添加物製剤として取り扱われたい。
2について
生鮮野菜等に対する食品添加物の使用に関しては、昭和61年6月5日付け及び平成3年6月21日付け当職通知等により、その食品の特性、本質又は品質を変化させ、品質、鮮度等に関して消費者の判断を誤らせるおそれのあるものについては、食品添加物本来の目的に反するものとして、従来よりそのようなことのないよう指導方お願いしてきたところであるが、本品を鮮度保持剤等と称して、貴照会の(1)から(4)までの食品に対して使用することは、食品の品質、鮮度等について消費者の判断を誤らせるおそれがあるものと考えられるので、このような使用がなされないよう菅家異業者への指導をお願いする。
3について
本品は食品添加物製剤であるので貴照会の(1),(2)のいずれの場合においても、本品を使用して製造又は加工された食品には表示が必要である。
 
 さらに、近年になっても、これらの通知類の主旨を徹底させること目的とした通知が出されている。
 
○食肉に対する食品添加物の使用について
(平成16年7月30日 食安監発第0730001号)
 標記については、昭和61年6月5日付け衛食第101号衛化第32号「生鮮野菜等に対する食品添加物の使用について」により、食品の品質、鮮度等について消費者の判断を誤らせるおそれのある食品添加物の使用は、食品添加物本来の目的に反するものとして、従来よりそのような使用がなされないよう貴管下関係者に対して指導をお願いしてきたところです。
 しかしながら、今般、変色した食肉にアスコルビン酸等の食品添加物を使用し、発色させて販売している事例が複数あるとの報道がありました。
 食肉に対して発色や変色防止等の目的で食品添加物を使用することは、食肉の品質、鮮度等について消費者の判断を誤らせるおそれがあるものと考えられるので、このような使用がなされることがないよう、あらためて貴管下関係営業者に対して指導方よろしくお願いします。
 
 また、一酸化炭素の使用に関して、話題になったこともあるが、次のような通知がある。
 
○鮮魚に対する食品添加物の使用について
(平成6年9月22日 衛乳第141号、衛化第89号)
 標記について、最近、一部の輸入鮮魚類のなかに変色防止の目的で一酸化炭素を使用しているとの情報があります。一般的に一酸化炭素は化学的合成品であり、この化学的合成品たる一酸化炭素を食品に使用することは食品衛生法第6条に違反するものであります。
 また、仮に化学的合成品以外の一酸化炭素を使用したとしても、このような変色防止操作を施した食品は、消費者に対して判断を誤らせ、衛生上の危害が生じるおそれがあるので、かかる一酸化炭素を使用した鮮魚が輸入されることのないよう、貴管下関係営業者に対する指導方よろしくお願いします。
 
 一酸化炭素関連では、内容は省略するが、さらに次のような通知が出されている。
 
・マグロへの一酸化炭素の使用について
(平成9年5月21日)
・ブリへの一酸化炭素の使用について
(平成9年9月19日)
・マグロ、ブリ等への一酸化炭素の使用に関する取扱いについて  (平成11年2月10日)
 
 このように、生鮮食品に対する食品添加物の使用について、さまざまに通知が出されていること自体、これらの通知等の主旨が食品に関連する業者、従事者に徹底されていないことを示すものとも言える。
 表示に関しては加工食品とみなされる詰め合わせの野菜サラダやカット野菜を含め、生鮮食品で流通することが想定される場合には、消費者に品質、鮮度等を見誤らせるような食品添加物の使い方は厳に慎むべきものと考え、適切な保管方法などを選択することが肝要である。
 
(次回に続く)


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