食品添加物基礎講座(39)
食品の品質の保持(3)
食品の酸化防止
 食品の品質を保持する第一条件は、清浄な原材料を使用することである。そのための前処理として洗浄することがある。この洗浄の目的で使用される洗浄剤については前回見直した。
 しかし、食品そのものの性質として、製造・加工、保管の間に変質するものもある。今回は、変質の一つである食品の酸化と、その防止の目的に使われる食品添加物について考えることにしよう。
 
食品の酸化
食品の変質の一つに、食品成分の酸化がある。食品には脂肪分を含むもの、その製造の過程で油脂類を使用するものがある。このような脂肪・油脂類を含む食品では、空気中の酸素によって化学反応を起こして酸化されることがある。また、野菜や果実では、酸素と共に食品そのものが持つ酸化酵素の働きによって褐変という形で現れる酸化もある。
このような食品に生ずる酸化は、その生成物が味に悪い影響を与えることが多く、さらに、生成物によっては健康的な悪影響が考えられる場合もある。
このため、食品の酸化を押さえることが必要となる。
 
食品の酸化防止に使われる化学物質
食品の酸化を防ぐ目的では、食品添加物に限らずいくつかの化学物質が使用されている。そのうち、主要なものは食品添加物である酸化防止剤であることは言うまでもないが、その他に脱酸素剤がある。
この脱酸素剤は、食品に直接触れる形では使われないために、食品添加物としては扱われず、補助的に使用される化学物質とされている。その代表的なものが、密封された食品包材で使用される、鉄粉が酸化される際に包材中に残存する酸素が消費されることにより、食品包材中の酸素濃度が低下し、酸化反応が起きないようになるもので、様々な食品で使用されている。鉄粉が酸化される際には発熱を伴うため、その熱による食品の劣化を防ぐ必要がある。このため、市販されている脱酸素剤では、発熱量を抑える目的、あるいは熱を吸収するための工夫がなされている。しかし、食品の製造に使用する場合、大気中に脱酸素剤を大量に放置すると、発熱量が想定を超えることも考えられるため、製造工程で配慮する必要がある。
 
食品に使われる酸化防止剤
食品の酸化を防ぐ目的で使用される食品添加物が酸化防止剤である。化学的な用語としては抗酸化剤とも呼ばれることもあるが、英語では、antioxidantであり、訳し方の違いに過ぎない。業界によっていずれが一般的に使われているかが、異なる用であるが、食品添加物に関しては、用途名として採用されている酸化防止剤が一般的と言える。
この酸化防止剤は、大きく次のようなグループに分けることができる。
 
・亜硫酸系
・ビタミンC系
・トコフェロール(ビタミンE)系
・没食子酸・ポリフェノール系
t-ブチル化ベンゼン系
・EDTA系
・クエルセチン系
・その他(天然系)
 
これらのうち、亜硫酸塩類は、漂白、酸化防止、保存というさまざまな目的で使われるので、別の回に取り上げることにして、ここでは、その他の酸化防止剤に関して見ていく。
 
ビタミンC系の酸化防止剤
ビタミンCは、野菜、果実をはじめとしたさまざまな食品に含まれているアスコルビン酸という有機系の酸であり、水溶性のビタミンとして良く知られたものである。
食品添加物としてのアスコルビン酸類には、次の品目が指定されて、酸化防止剤として使われている。
L-アスコルビン酸
L-アスコルビン酸ナトリウム
L-アスコルビン酸カルシウム
L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル
L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル
また、次の品目は、大気中での安定性を高める目的でグルコースと結合させ、グルコシドを形成させているために、ビタミンCとしての栄養強化の目的での使用は可能であるが、酸化防止の働きはない。
L-アスコルビン酸2-グルコシド
酸化防止の目的で使用される5品目のうち、遊離の酸とナトリウムおよびカルシウムの塩は水に溶けやすく、2種類の脂肪酸とのエステルは、油脂に混和しやすくなっており、食品の性質に合わせて使い分けが行われる。
食品に使用した場合の表示では、用途名である「酸化防止剤」と物質名を併記することになる。いずれの品目にも、原則に沿う形で、さまざまな簡略名が認められているが、実際には「ビタミンC」、「V.C」などと、ビタミンととして表示されるのが一般的である。
ところで、ビタミンCには、酸化防止の作用の他にもいろいろな作用があり、それぞれの使用目的・効果に応じた表示がなされる。このために、用途名が表示されない場合もある。この点にも留意する必要がある。
ビタミンCの使用目的を、いくつかの表示例で確認しよう。
名  称 菓子パン
原 材 料




 
アップルフィリング、小麦粉、ファットスプレッド、砂糖、ショートニング、パン酵母、動物油脂、卵、小麦たん白、加糖れん乳、食塩、ホエーパウダー(乳製品)、脱脂大豆粉、脱脂粉乳、乳化剤、香料、酸味料、イーストフード、乳酸Ca、酸化防止剤(ビタミンC)、ビタミンC、着色料(カロチノイド)
 
この事例には、ビタミンCが2回出てくる。先ず酸化防止剤として使われ、用途名と併記されたものがある。これは、アップルフィリングなどの酸化を防ぐ目的で使用したものと考えられる。続いて表示されているビタミンCは、パン生地を作る際に小麦粉を酸化する目的で使用されたもので、酸化防止の目的ではないため、物質名での表示になっているものである。
(生おろしわさび)
原材料/本わさび、西洋わさび、環状オリゴ糖、酸味料、香辛料抽出物、V.C、着色料(クチナシ、紅麹)
 
このワサビの事例では、ワサビの辛みを発現する酵素ミロシナーゼを活性化する目的でビタミンC(V.C)が配合されたもので、物質名で表示されている。
 
これらの他に、補填・強化の目的で使われるものがある。栄養強化の目的で使用した食品添加物は、食品衛生法では、表示が免除されているが、JAS法に基づく加工食品の表示基準では表示が義務づけられているものも多い。
●名称 生茶 (清涼飲料水)
●原材料名 緑茶、生茶葉、ビタミンC
 
この事例のビタミンCは、一般的な緑茶に含まれるビタミンCの量を保つ目的(逸失分の補填目的)で添加されるもので、物質名で表示される。なお、ウーロン茶や紅茶系の飲料でも、緑茶に含まれるビタミンCの量に調整する目的(強化の目的)で添加されることがある。
 
ビタミンC(アスコルビン酸)類は、現在は化学的な合成法で工業的に製造されている。
 
このビタミンC系には、指定添加物のエリソルビン酸とエリソルビン酸ナトリウムもある。エリソルビン酸はイソアスコルビン酸とも称され、アスコルビン酸の構造異性体であり、ビタミンC類と同様に、化学的な合成法で製造されている。
エリソルビン酸には、ビタミンとしての効果は認められていないが、ビタミンCと同様の酸化防止効果がある。かつては、ビタミンCに比べ安価ということで汎用されていたが、価格差が縮まるとともに、ビタミンCに移行する傾向が認められている。
 
酸化防止剤としてのトコフェロール類
ビタミンEとしての働きで知られているトコフェロール類には、次のものがある。
dl-α-トコフェロール
d-α-トコフェロール
d-γ-トコフェロール
d-δ-トコフェロール
ミックストコフェロール
これらのトコフェロールのうち、dl-体は化学的な合成法で作られている指定添加物であるが、その他は天然物からの抽出によって得られる既存添加物である。既存添加物のトコフェロール類は、基原物質から抽出されたミックストコフェロールを分割・濃縮することにより、α-,γ-,δ-に分割される。
アスコルビン酸は水溶性であるが、トコフェロール類は油に溶けやすい性質を持ったビタミンである。このため、油脂を使用する食品に使われることが多いが、製剤化することにより水に分散するものも開発されている。
ところで、ビタミンEとしての効果は、α-体が強く、酸化防止の作用はδ-体が強いとされている。このため、使用の目的に合ったトコフェロールが選択されている。しかし、指定添加物のdl-α-トコフェロールは、α-体であるにも関わらず、酸化防止の目的に限るという使用基準が設定されていることもあり、近年は既存添加物のトコフェロール類に置き換えられる傾向にある。
 
没食子酸・ポリフェノール系の酸化防止剤
ボッショクシサンともモッショクシサンとも呼ばれる没食子酸は、化学的には3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸といい、ベンゼン核に3つの水酸基と1つのカルボキシル基がついたポリフェノールであり、さまざまな植物にタンニンの形で存在していることが知られている。
ポリフェノール類は酸化防止作用を持つことが知られており、この没食子酸も酸化防止剤として使われる。誘導体(エステル)である没食子酸プロピルも酸化防止剤として使われ、食品添加物として指定されている。ヨーロッパではオクチルエステル、ドデシルエステルも使用されている。
ポリフェノール類の既存添加物には、カテキン、酵素分解リンゴ抽出物、チャ抽出物のようなものがある。
 
t-ブチル化ベンゼン系の酸化防止剤
化学的に合成された酸化防止剤の代表が、次のようなt-ブチル化ベンゼン系の品目である。
ジブチルヒドロキシトルエン (BHT)
ヒドロキシブチルアニソール (BHA)
t-ブチルヒドロキノン (TBHQ)
いずれもベンゼン核に水酸基やt-ブチル基(t-とは、ターシヤリー、第三級の意味)などがついたものである。
BHTは、1-ヒドロキシ-2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルベンゼンあるいは2,6-ジ-t-ブチル-パラクレゾールなどとも呼ばれ、4-メチルフェノール(パラクレゾール)とイソブチレンを反応させることにより得られる。
BHAは、2-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール(1-ヒドロキシ-3-t-ブチル-4-メトキシベンゼン)と3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール(1-ヒドロキシ-2-t-ブチル-4-メトキシベンゼン)の混合物である。本品は、4-メチルフェノールとイソブテンの縮合反応によって得られたものであるが、現在は、パラヒドロキシアニソール(1-ヒドロキシ-4-メトキシベンゼン)とt-ブタノールを反応させて得られているが、t-ブチル基がベンゼン核と結合する位置が異なる2種の混合物となる。
この2種は食品用以外にも、医薬品、化粧品、プラスチックスなどの酸化防止にも使用されている。食品用に関しては、対象食品と使用量に関して使用基準が設定されている。使用に際しては、留意する必要がある。
TBHQは、ヒドロキノン(1,4-ジヒドロキシベンゼン)にt-ブチル基を付けたものである。日本では認められていないが、米国では使用が認められている食品添加物である(FDA 21CFR172.185)。
 
EDTA系の酸化防止剤
EDTA系の指定添加物は、次の2品目である。
エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)は、金属を捕捉するキレート作用を持つ化合物である。
このEDTA類は、食品の酸化を促進する金属イオンを取り込むため、間接的に酸化防止の効果を発揮する特殊な酸化防止剤である。
使用基準により、対象となる食品が缶詰、瓶詰に限られる。この場合、多くは、EDTA-Naまたは、単にEDTAと称されるエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムが使われるが、いずれを使用した場合でも残ったEDTA類はカルシウム塩(EDTA-Ca)にして不活性化することが条件とされている。海外では幅広く使用されている国もあり、使用や輸入に際しては使用基準に反しないよう留意する必要がある。
 
クエルセチン系の酸化防止剤
クエルセチンは、ケルセチンとも呼ばれ、5個の水酸基を持つ多環系物質であり、フラボノイドの一種である。このベンゼン核に結合した水酸基(ポリフェノール)の働きにより酸化防止の作用がある。
このクエルセチンの3位の水酸基が糖と結合した形で植物界に存在している。
ルチンは、クエルセチンにルチノース(ラムノースとグルコースからなる二糖類)が結合したものであり、ソバの全草、タバコの葉、イチジク、アオギリの葉などに含まれている。食品添加物の基原としては、ソバの全草、アズキの全草、エンジュの蕾および花が用いられる(ルチン(抽出物))。
クエルシトリンは、クエルセチンにラムノースが結合したものであり、アブラギリの葉、ドクダミの茎・葉などに含まれている。なお、既存添加物名簿収載品目リストでは、基原製法本質欄で、ドクダミ抽出物の主成分を、次に説明するイソクエルシトリンとしている。
イソクエルシトリンは、クエルセチンにグルコースが結合したものであり、ワタの花、桑の葉、ミズキの葉などに含まれている。また、ルチンを酵素分解することにより、ルチノースが切れてグルコースとの結合に変わることで得られる(ルチン酵素分解物)。
 
その他
これらの他にも、さまざまな物質が酸化防止の目的で使用されている旨が、既存添加物名簿収載品目リストに見られる。
その代表的なものに、ゴマ油不ケン化物とさらに精製したセサモリンのようなゴマ油抽出物類、コメヌカを主要基原とするコメヌカ油抽出物、コメヌカ酵素分解物、フェルラ酸などがある。
 
酸化防止剤のシネルギスト
酸化防止剤は、ある種の食品添加物と併用すると、その効果がより強くなる。このような併用する物質をシネルギストと呼ばれる。このようなシネルギストとしては、有機酸とその塩類、アミノ酸、リン酸塩類が使われている。その中でも代表的なものは、有機酸のクエン酸とその塩類である。
クエン酸類はリン酸塩類とともに、金属を捕捉するキレート作用を持つことでも知られている。これらの働きで、食品中の金属を除去することにより、酸化防止剤の効果を高める効果がある。
なお、シネルギストとして認められるには、予め製剤の形で配合されていること、配合量の限度などに規定がある。
 
使用した食品での表示
ここまで説明してきたような、酸化防止剤を使用した場合には、その食品に、用途名「酸化防止剤」と使用した食品添加物を物質名で併記することが定められている。ただし、ビタミンCで例示したように、使用目的によっては表示方法が異なる場合もある。
また、シネルギストと認められる場合は、その成分の表示は免除される。そのためには、予め製剤として配合されることが条件であり、酸化防止剤とシネルギストに当たる物質を食品の製造時に併用した場合には、それぞれが表示の対象となる。この点には充分留意する必要がある。
また、酸化防止剤を使用した食品を原料に使って、新たな食品を製造する場合には、最終食品で酸化防止の効果が持続するか否かで、表示すべきか否かがことなる。加工食品での表示に際しては、充分な検討が求められる。
 
(次回に続く)


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