食品添加物基礎講座(41)
食品の品質の保持(5)
食品でさまざまな機能を発揮する亜硫酸塩類
食品の品質を保持するために、使用される食品添加物に関して少し詳しく説明してきた。酸化防止剤と保存料に使われる食品添加物のうち、両者の機能を有する亜硫酸塩類に関しては、これまで説明を先延ばしにしてきたが、今回はこの亜硫酸塩類に関して見直しを行うことにしたい。
 
食品の品質維持と亜硫酸塩類
食品の変質の一つに、油脂類を中心に生ずる酸化、たんぱく質食品やでん粉など炭水化物食品で生ずる微生物、特に腐敗菌、による変敗(腐敗)がある。これらの変質を防止する目的で使用される食品添加物が、酸化防止剤および保存料である。この両者の機能を併せ持つとともに、漂白剤としての機能を持つ食品添加物が亜硫酸塩類である。現在食品添加物として指定されている亜硫酸塩類には次の5品目がある。
 
・亜硫酸ナトリウム
・次亜硫酸ナトリウム
・二酸化硫黄
・ピロ亜硫酸カリウム
・ピロ亜硫酸ナトリウム
 
イオウの酸化物が二酸化硫黄である。二酸化硫黄は、イオウを燃焼させる方法、含硫鉱石を原料としてそれを燃焼させる方法等で得られる特異な刺激性の臭いを有するガス性物質である。
二酸化硫黄は、水に溶けると亜硫酸水溶液を形成するため、無水亜硫酸とも呼ばれる。この亜硫酸水溶液からの、亜硫酸自体を単離することは行われていない。
この亜硫酸水溶液が等モルのナトリウム塩と反応することによって亜硫酸水素ナトリウムの水溶液が生成する。これに、さらにナトリウムを反応させることにより亜硫酸ナトリウムの水溶液が生ずる。
亜硫酸ナトリウムは、この亜硫酸ナトリウム水溶液を濃縮し、精製することによって白色系の結晶あるいは粉末として得られる。通常は7水和物を主体とする結晶物と、無水まで乾燥させた無水物として流通している。
亜硫酸水素ナトリウム水溶液を濃縮し、精製、乾燥させると、2分子の亜硫酸水素ナトリウムから1分子の水が外れ、ピロ亜硫酸ナトリウムが得られる白色の粉末である。
ピロ亜硫酸カリウムに関しても、同様に、亜硫酸水素カリウムの水溶液から濃縮、精製、乾燥することによって得られる白色の粉末である。
次亜硫酸ナトリウムは、亜硫酸水素ナトリウムを電解還元することにより得られる。工業的には、金属亜鉛を仲介した二酸化硫黄とナトリウム塩の反応と精製による方法がある。次亜硫酸ナトリウムは、強い還元力をもっているが、使用する際に水に溶かすと、亜硫酸水素ナトリウムを生じる。
このことから、次亜硫酸ナトリウムを含めていずれも亜硫酸として作用するものとみなせる。
このため、使用基準は同じ規定が定められており、二酸化硫黄の残存量で規定されている。
亜硫酸塩類は、還元性を有しており、漂白剤としての機能を有する。さらに、その還元性により、酸化防止の機能を発揮し、微生物等の発育・増殖を阻害する機能があり、酸化防止剤および保存料としても使用される。
亜硫酸塩類の使用に関しては、ゴマ、豆類および野菜に使用することは出来ませんが、その他の食品に広く使用することが認められている。その使用に当たっては二酸化硫黄SOとしての残存量が決められている。その残存量は、かんぴょうの6.0g未満/kgを最高として、規定がある食品を除いたその他の食品の0.030g未満/kgまで大きな幅がある。
 
食品に使用した亜硫酸塩類の表示
食品添加物として使用された亜硫酸塩類は、その使用目的に応じた表示が求められる。使用目的である酸化防止剤、保存料および漂白剤はいずれも用途名であり、目的に応じた用途名と物質名を併記することになる。
亜硫酸塩類は、それぞれの簡略名とともに、「亜硫酸塩」という共通の簡略名が認められている。このため、食品に表示する際には、この「亜硫酸塩」が使われることが多くなっている。
この後、加工食品における表示の事例を見ていくことにする。
果実酒
品 名 ワイン
酸化防止剤(亜硫酸塩、ビタミンC)
 
ワインを含め酒類は、アルコールに懸けられた税の確実な徴収という面から、酒税法の規定の下にある。このこともあり、表示に関しては、酒税法と食品衛生法に従うこととされ、JAS法に基づく加工食品品質表示基準などの対象から外されている。
食品の表示に関する所管は、新たに設置される消費者庁に移管されるが、当面は、表示方法に大きな変動はないとされている。
酒税法では、酒類に使用できる食品添加物は、限定されており、食品衛生法上は使用が可能な形になっていても、実際には使用できない場合も多い。ワインの品質維持の目的に使用できる食品添加物は、亜硫酸塩類では、二酸化硫黄とピロ亜硫酸カリウムに限られ、ビタミンCでもL-アスコルビン酸とそのナトリウム塩に限定されている。
品  名 ずわいがに水煮混合品
形  状 フレーク
原材料名 ずわいがに・紅ずわいがに・丸ずわいがに・
でん粉・食塩・ソルビトール・リン酸塩(Na)・調味料(アミノ酸等)・増粘剤(キサンタン)・酸化防止剤(亜硫酸塩)
 
このように缶詰食品でも、酸化防止が求められる場合に、亜硫酸塩類が使われている。
また、次の事例のように、いろいろな酸化防止剤が使われている食品もある。
江戸前寿司
酢飯・まぐろ・さけ・たこ・つぶ貝・えび・ほたて・あなご・鶏卵・いか・海苔・ねぎ・植物油脂・食塩・上白糖・醤油・魚醤・水・昆布エキス・発酵調味料・アルコール・醸造酢・清酒・コーンスターチ・蒲焼エキス・みりん・日本酒・昆布・かつお節・帆立エキス・着色料(カラメル・紅麹)・pH調整剤・調味料(アミノ酸等)・ソルビトール・酸化防止剤(V.E・V.C・エリソルビン酸Na・亜硫酸塩)・甘味料(甘草)・その他(大豆・小麦・卵由来を含む)
 
清酒と日本酒という全く同じであるはずの原材料が、それぞれ表示されていることから見て、この寿司は、納入されたいろいろな食材を組み合わして構成し、販売している模様である。このような場合、素材食品に使われている原材料を整理して表示することが望まれる。
 続いて、乾燥品の事例を示す。
名  称 乾燥果実
原材料名







 
[りんご]
りんご(中国)、砂糖、クエン酸、香料、酸化防止剤(亜硫酸塩)
[マンゴー]
マンゴー(タイ)、砂糖、酸化防止剤(亜硫酸塩)、クエン酸
[メロン]
メロン(タイ)、砂糖、酸化防止剤(亜硫酸塩) 、クエン酸、香料
(セブ島)マンゴー (乾果実)
原産地:フィリピン(セブ島)
原材料:マンゴー(カラパオ種)、砂糖
酸化防止剤(亜硫酸塩)
 
 乾燥果実は、亜硫酸塩類が使用される代表的な食品であり、その残存量も2.0g未満/kg(干しぶどうを除く)と高く設定されている。
ここまでは、酸化防止剤として使い亜硫酸塩の簡略名で表示された事例を見てきたが、漂白剤として使用されたものも同様に表示されている。
生姜糖スライス (野菜加工品)
原産国:中国
原材料:生姜、砂糖
添加物:漂白剤(亜硫酸塩)
品 名 丸あんずシロップ漬
原材料
及び
原産国

 
あんず(トルコ)、果糖ぶどう糖液糖、梅果汁、酸味料、香料、コチニール色素、漂白剤(亜硫酸塩)<原産国でのあんず乾燥時に添加したものです>

 
 
果実加工品であるあんずのシロップ漬けでは、漂白剤として使用した亜硫酸塩について、乾燥時に使用した旨を<>の中に付記している。これは、国内の自治体などによる検査試験で、亜硫酸が検出された場合の対応を想定して表示するものの、最終製品を製造する際に使用したものではないことを示そうとしたものと考えられる。
次のような事例もある。
名  称 ドライフルーツ詰合せ

原材料名 パイナップル、レーズン、金柑、パパイヤ、ココナツ、砂糖、マルトース、グルコース、水飴、漂白剤(亜硫酸塩、二酸化硫黄)、着色料(黄色4号)
 
この事例では、酸化防止剤に亜硫酸塩と二酸化硫黄が表示されている。二酸化硫黄も亜硫酸塩という簡略名が認められており、他の亜硫酸塩と合わせて亜硫酸塩と表示することが可能である。同じ物質名(この事例では亜硫酸塩)で表示することができる場合には、その中の一部(この事例では二酸化硫黄)だけを抜き出す形で重ねて表示することはしないという原則に反しており、表示方法を見直す必要がある。これは、いくつかのドライフルーツを別々に仕入れ、組み合わせて製品化したため、原料に使用したそれぞれのドライフルーツで、異なる表示があったものを、単純に組み合わせたことに起因したものと考えられる。
このように、組み合わせて新たに食品を構成する場合には、先の江戸前寿司の事例と同様に、組み合わせる際に、表示を充分見直すことが求められる。
なお、着色料に関する表示では、「着色料(黄4)」あるいは「黄色4号」と表示することが認められている。
ドライフルーツの事例では、個別の物質名での表示も含まれていたが、他にも次のように個別の物質名を使った表示の事例がある。
名称/もち入り巾着 原材料名/水稲餅米(新潟県産)、大豆、植物油、かんぴょう(保存料(二酸化イオウ))、豆腐用凝固剤
名  称 あんぽ柿  (乾燥果実)
原材料名
 
柿(国内産)、
酸化防止剤(二酸化硫黄)
 
この2つの事例では、いずれも二酸化硫黄が使われており、おでん種の巾着では保存料として使われ、あんぽ柿では酸化防止剤として使われている。物質名の表示の違いは、表示に関する通知の範囲内であり、いずれも問題はない。
なお、巾着を縛るかんぴょうに使用された二酸化硫黄は、製品の巾着の保存性を担保スルものでなければ、キャリーオーバーに該当することも考えられるが、検査試験等で、二酸化硫黄が検出された場合の対応を念頭に置いて表示したものと見られる。
あんぽ柿、市田柿など干し柿づくりに二酸化硫黄が使われることは一般的であり、皮を剥いて軒先につるした柿の下でイオウを炊いて(燃焼させて)二酸化硫黄を発生させ、干し上がるまでの保存性の向上を図っている状況が季節の風物詩として紹介されることもある。
個別の物質名で表記する事例は、次のように漂白剤の場合にも見られる。
あんず (乾果実)
原産国:トルコ
原材料:あんず
漂白剤:亜硫酸ナトリウム



 
名  称 菓     子
品  名 花まめ甘納豆
原材料名
 
花豆・白花豆・砂糖
重曹・漂白剤(次亜硫酸Na)
 
ここまで見てきたように、亜硫酸塩類は、さまざまな形で表示されている。
ところで、いくつかの事例で見られたように、素材に使用する食材が漂白剤で処理されており、そのことに関する表示に苦慮している模様が見受けられる。
はす(蓮根)のように最終製品でも白い色が求められる場合を除くと、漂白後の水洗工程で流去されたり、着色料による着色や、調理の過程で色が着くことも多く、素材に使用した漂白の目的が持続することは少ないとも考えられる。効果が認められない場合は、キャリーオーバーの対象になるが、亜硫酸塩では、微量でも酸化防止や保存性向上の効果を発揮する場合もある。このため、漂白の結果が、最終製品に効果を発揮していない場合でも、自治体などの検査機関で二酸化硫黄の残存が指摘された場合を考慮して、工夫した表示を行っているものと考えられる。
何らかの形で亜硫酸塩に関する表示を行う場合、そのまま用途名「漂白剤」との併記する場合と、最終製品(食品)での効果を考慮して酸化防止剤などと併記する場合があるもようである。
通常、漂白の目的で使用する場合は、多量に使用する必要はないが、その後の品質の維持を考慮して多めに使用していることも考えられる。このような場合は、漂白剤ではなく、本来の目的に該当する用途名を表示すべきである。
 
ピロ亜硫酸塩と亜硫酸水素塩
無機の酸2分子から1分子の水がとれる形で縮合したものをピロ型の酸と呼んでいる。リン酸とピロリン酸の形が代表的なもものである。亜硫酸塩類においては、今回の始めの方で説明したように、亜硫酸水素塩2分子から1分子の水がとれて縮合した形になったものをピロ亜硫酸塩と呼ぶ。このピロ亜硫酸塩は、水と反応することにより、加水分解して2分子の亜硫酸水素塩になる。このように可逆的な反応が起こることから、日本では両者を区別する必要が認められないとして、1986年の第五版食品添加物公定書の公表に先立って食品添加物の指定に関する省令が改正され、指定添加物の名称は次のようになっている。
 
・ピロ亜硫酸カリウム(別名 亜硫酸水素カリウム又はメタ重亜硫酸カリウム)
・ピロ亜硫酸ナトリウム(別名 亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム又は酸性亜硫酸ソーダ)
 
このように、亜硫酸水素塩はピロ亜硫酸塩に含まれると解釈されている。このことは、食品,添加物等の規格基準で、ピロ亜硫酸塩(カリウムおよびナトリウム)とともに、その水溶液製剤の形で亜硫酸水素塩の水溶液(カリウム液およびナトリウム液)の成分規格も設定されていることにも示されている。
なお、炭酸水素ナトリウムが重炭酸ナトリウムと呼ばれるように、二塩基酸の水素塩は「重」を付けた名称も用いられてきた。これを亜硫酸水素塩に当てはめると重亜硫酸塩と言うことになる。この重亜硫酸塩2分子から1分子の水が取れた形をメタ重亜硫酸塩と呼ぶ。このことから、ピロ亜硫酸塩の別名としてメタ重亜硫酸塩の呼称も採用されている。1986年に指定名称が整理されるまでは、このメタ重亜硫酸塩系の名称が指定名称になっていた。
近年、海外との取引に関して、食品添加物の使用の可否について、頻繁に解説が行われている。このような解説の中には、日本では亜硫酸水素カリウムなどの亜硫酸水素塩が使用できないとされているものもある。別名やその由来などを理解しないで、単に名称だけの比較で解説していることによる誤りである。海外との取引、食品の輸出入に際しては注意する必要がある。
 
次亜硫酸ナトリウムとチオ硫酸ナトリウム
日本では、次亜硫酸ナトリウムが食品添加物として指定されているが、海外で使用が認められているチオ硫酸ナトリウムは、食品添加物として指定されておらず、使用できない。ときによると、この両者を混同して、日本でもチオ硫酸ナトリウムを使用できるという解説を見かけることもある。混同しないように注意する必要がある。
この混同は、次の理由によるものである。
次亜硫酸ナトリウムは、ハイドロサルファイトという別名があるように、英語ではSodium Hydrosulfiteと呼ばれる。ところが、Sodium Hyposulfiteと混同されることがある。このSodium Hyposulfiteは、ハイポと略称される写真の現像などに使用されたチオ硫酸ナトリウムを指す名称であった。このことで、混同が生じた模様である。
このような混同を生じないように、化学的には亜二チオン酸ナトリウムという名称を使うようにという動きがあるが、食品添加物に関しては、別名にも採用されておらず、普及していない。
 
(次回に続く)


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