食品添加物基礎講座 (その8)
食品を形作る食品添加物 (4)
 
今回は、食品を形作る食品添加物の見直しとして4回目(最終回)となる。今回は、これまでに説明していない「かんすい」、「pH調整剤」などについて見ていくことにしよう。
 
中華麺に必須のアルカリ剤:かんすい
麺類には、小麦粉を主要原料とする「うどん」、そば粉を主要原料とする「そば」がある。小麦粉を主要原料とする麺類には、うどんの他に「中華麺」もある。この中華麺に必須の原材料が「かんすい」である。
「かんすい」は、表示のための一括名として認められており、次のように定義されている。
 
中華麺類の製造に用いられるアルカリ剤で、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及びリン酸類のカリウム又はナトリウム塩のうち1種以上を含む。
 
この定義でも判るように、「かんすい」は、通常は製剤として製造され、販売されているものである。このために、食品衛生法に基づく製造基準でも、次のように製造の際の基準が定められている。
 
かんすいを製造又は加工する場合は、それぞれの成分規格に適合する炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及びリン酸類のカリウム塩若しくはナトリウム塩を原料とし、その1種若しくは2種以上を混合したもの又はこれらの水溶液若しくは小麦粉で希釈したものでなければならない。
 
この製造基準では、「かんすい」は指定添加物で構成される製剤という形になっている。
これらの規定で定められている原料となるリン酸塩には、リン酸のカリウム塩類またはナトリウム塩類各3品目、ピロリン酸四カリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウムおよびポリリン酸とメタリン酸のカリウム塩およびナトリウム塩がある。
この「かんすい」の使用は、中華麺と称するための必須のアルカリ剤とされており、「食品,添加物等の規格基準」で食品添加物製剤としての成分規格も制定されている。中華麺の製造に、製剤である「かんすい」を使用するときには、この成分規格に合格しなければならない。かつては、国家検定の対照になっていたが、現在は自己認定制になっており、日本食品添加物協会で認定マークを発行する自主認定制度がある。
「かんすい」と同様の効果を示すアルカリ剤として、焼成した卵殻カルシウムや貝殻カルシウムのような、酸化カルシウムを主成分とする焼成カルシウムがある。これらを使用し、かんすい不使用の中華風麺と称した麺も売られている。この焼成カルシウムの水溶液は強アルカリであるため、使い方に配慮が必要であり、麺のアルカリ度の調整という面からは、成分の一定した「かんすい」の使用が得策と考えられる。
また、近年は、酸性側で製麺される中華麺風の麺もあるが、当然このような酸性麺には「かんすい」が使われることはなく、中華麺と称することはできない。
 
主として酸性領域の調整に使われるpH調整剤
「かんすい」が、中華麺専用のアルカリ剤(アルカリ側のpH調整剤)であったのに対し、pH調整剤は、主として酸性側で食品のpHを調整する目的で使用されるものである。
食品は、特別な場合を除いては、酸性側にあることが一般的であり、また酸性領域で保存性の効果を発揮する保存料や日持向上剤も多い。このことから、食品のpHを一定の酸性領域に保つことを求められる場合が多い。この食品を酸性領域に保つ目的で使用される食品添加物を主体とし、アルカリ性に調整する効果を有するものも含めた形で、一定範囲のpH領域に保つ目的で使用されるものを「pH調整剤」という。
「pH調整剤」は表示のための一括名として認められ、通知で、次のように定義されている。
 
食品を適切なpH領域に保つ目的で使用される添加物及びその製剤。ただし、中華麺類にかんすいの目的で使用される場合を除く。
 
pH調整剤は、酸性側で使用されることが多いことから、クエン酸や乳酸のような有機酸や有機酸の塩類、リン酸など、一括名で酸味料の表示が認められている食品添加物は、全て「pH調整剤」としての使用も認められている。さらに、酸味料の範疇外とされている酒石酸水素カリウムやリン酸のナトリウム塩類及びカリウム塩類のうち酸性〜中性のものもpH調整剤として認められている。
ところで、食品は、常に酸性側にあるとは限らず、また、強い酸性から弱い酸性に調整する場合もある。このため、アルカリ系の食品添加物でpHを調整する必要が生じる場合もある。このために、アルカリ系の物質として炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムの3種類の炭酸塩に限って「pH調整剤」として認められている。この3種類の炭酸塩は、先に説明した「かんすい」の主要成分でもある。
ところで、有機酸のカリウム塩のうち、クエン酸のカリウム塩(クエン酸一カリウムおよびクエン酸三カリウム)は、一括名の対照から除外されているため、表示するときはpH調整剤ではなく、物質名でクエン酸Naなどと表示することになる。
また、かつては、重縮合度の高いポリリン酸塩類が、pH調整剤という名目で販売されていたことがある。しかし、ポリリン酸塩類は、pH調整剤の範疇物質とは認められていないため、やはり物質名での表示となる。
 
チューインガムを形成する食品添加物
・チューインガム基礎剤とガムベース
日本では、チューインガムは、噛んだ後は捨てるのが普通であり、ガムの基礎剤として使われている食品添加物は体内に摂取されることが少ない。このために、使用されている食品添加物の個々の名称を、チューインガムの包装の小さい表示面に物質名で表示するほどの必要性は少ないと判断された。そこで、表示に関しては、一括名として「ガムベース」という名称を用いることが認められている。一括名に関する通知では、ガムベースを次のように定義している。
 
チューインガム用の基剤として使用される添加物製剤
 
ところで、チューインガムに関しては、長い間、使用基準で「チューインガム基礎剤」という使用目的名も使われてきている。この「チューインガム基礎剤」と一括名の「ガムベース」では、食品添加物の範囲が異なっている。
チューインガム基礎剤としの使用基準が定められている食品添加物は、次の指定添加物4品目の樹脂類である。
 
エステルガム、   酢酸ビニル樹脂、
ポリイソブチレン、 ポリブテン
 
この他にチューインガムの基礎剤として使われるものには、既存添加物であるソルビンハやチクルのような天然系の樹脂類がある。
ガムベースには、このようなチューインガムの基礎となる樹脂類の他に、これらの樹脂類に配合して使用される炭酸カルシウム、グリセリン脂肪酸エステルのような乳化剤類も含まれている。これは、このような助剤的な食品添加物を含めてチューインガムの基礎物質として使われていることが認められたためである。
 
・チューインガムの軟らかさを保つ軟化剤
チューインガムには、ガムベースの他に一括名として認められている食品添加物が配合されている。
それが、「チューインガム軟化剤」である。表示に際しては「軟化剤」とすることが定められている。
この軟化剤は、チューインガムを軟らかく保つために使われるもので、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコールの3品目が該当している。
 
チューインガムは、このように、樹脂類であるチューインガム基礎剤を主体とするガムベースを中心に、噛み心地を良くするチューインガム軟化剤が基本となり、甘味料、香料などが配合された、総合的な食品添加物からなる食品である。
 
(2010年4月25日 加筆・改訂)


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