食品添加物基礎講座 (その10)
色に関わる食品添加物 (2)
 
前回に引き続き食品の色に関係する食品添加物を見ていこう。その中で、今回は色に関する主役である着色料を見直すことにしよう。
 
食品に色を着けるための食品添加物
食品に着色するために使われる食品添加物が、着色料である。
着色する前には、素材食品を綺麗にするだけでなく、前回見直した漂白等で、より鮮明に色が着くように前処理することもある。このような素材を着色するために使われる食品添加物は、次のよう区分することができる。
 
・指定添加物の着色料
いわゆるタール系色素
無機系の色素
天然系基原由来の色素
・既存添加物の着色料
・一般飲食物添加物の着色料
 
加工食品を製造する際に、このようなさまざまな基原を持つ着色料を、それぞれの機能を有効に発揮しうるように使っているわけである。その主な目的は、食品を美化して魅力を増すことにある。しかし、消費者を欺まんする目的、鮮度を誤解させるような目的での使用は禁じられている。したがって、色で鮮度を判断する生鮮食品などに、着色することは認められない。
 
このような着色料のうち、合成系の着色料、特にタール色素と呼ばれる一群の着色料は、着色性と色持ちに優れており、微量の使用で効果を発揮するという利点があり、価格的にも安価という特徴がある。
一方、天然系の着色料は、天然物を原料としているということから、消費者に受け入れられ易いという利点がある。しかし、着色性に劣るものも多く、このため使用量が多くなり、結果的には、価格的にかなり高価になるという傾向がある。
これらの着色料に関しては、指定添加物はもとより、天然系のものでも、既存添加物と一般飲食物添加物の区別なく、使用基準で使用できる食品が限定される何等かの規定がある。実際に食品を製造・加工する際にはこの製造基準に従う必要がある。
 
いわゆるタール系色素類
指定添加物の中でも、合成着色料の代表として知られているものが、いわゆるタール系色素である。これらの合成着色料の多くは、石油化学を中心にさまざまな進歩した化学的な合成反応を利用して製造されている。
ところで、これらの着色料類が、かつて原料としてコールタールなどのタール系物質を使用して合成されていたために、タール系色素類と呼ばれ、そのうち、食品に使われるものは食用タール色素類と呼ばれてきた。現在では、タール類を原料としているものはなくなっており、タール色素の呼称は実態を表わしていないが、「食品,添加物等の規格基準」の成分規格に「タール色素の製剤」という製剤に関する規格があり、一般試験法には「タール色素試験法」および「タール色素レーキ試験法」という規定があることもあり、依然として「タール色素」と呼ばれている。
このいわゆるタール系色素類は、食品添加物として販売するためには、国家検定で成分規格に合格していることを確認することが定められていたが、2004年度からは、国に変わって登録検査機関の試験を受けることに改正されている。また、これらのタール系の色素製剤に関しては、国家検定から自己認証制度に移行した際に、日本食品添加物協会で自主認定制度を発足させて登録検査機関での試験結果を基に認証シールを発行している。
現在日本で指定されているいわゆるタール系の着色料は、「食用赤色2号」(簡略名:赤色2号、以下食用を省略する)など赤色、黄色、緑色、青色の12品目となっている。このうち、8品目にはアルミニウムレーキと共に指定されているため、実際には20種類になる。アルミニウムレーキとは、水溶性の色素を水に溶けにくくするためにアルミニウムの塩にしたものである。
かつて公表されたタール系色素の検定数量では、黄色4号が最高で、次いで、赤色102号、黄色5号、赤色3号の順になっている。数量的には、最も多い黄色4号でも100トン未満であり、他の食品添加物に比べると多いものではない。
黄色のいわゆるタール系着色料は、世界的に見ても、黄色4号と黄色5号の2種類だけが、認められているものであり、さまざまな食品に使われている。
このうち、黄色4号は、基本的な黄色を呈し、英語ではタートラジンといい、輸入食品などの表示で見受けることも多い。
一方、黄色5号は、独特の橙色がかった黄色を呈しており、英語では、サンセットイエロー(FCF)と呼ばれている。
ところで、これらの黄色色素は、米国では、それぞれ(D,F&C Color) Yellow No.5およびYellow No.6となっている。これは、日本での番号より1番ずつ大きくなっており、取扱う際には、注意する必要がある。
エリスロシンと呼ばれる赤色3号は、日本はもとより欧米でも一般的な赤色系の着色料であり、青みを帯びた赤色を呈する。
赤色102号(ニューコクシンあるいはポンソー4Rとも呼ばれる)と赤色2号(アマランスとも呼ばれる)は、日本とヨーロッパ各国で使用されており、米国では使用されていない。赤色102号は基本的な赤色色素として使われており、赤色2号は、紫系の赤色を呈する。
一番新しく指定された赤色40号は、米国で主に使われている点に特徴がある。米国からの輸入食品での使用事例が多く見られる。
 
無機系の指定着色料
食品添加物として指定されている無機系の着色料には、三二酸化鉄と二酸化チタンがある。
このうち、三二酸化鉄は、ベンガラとも呼ばれてきたもので、赤色の着色料である。使用の対象が赤コンニャクとバナナの果柄の着色に限られているため、使われている事例を見かけることは少ない。
二酸化チタンは、白色の艶のある顔料であり、ホワイトチョコレートなどにおける白色の着色の他に、白色以外の鮮やかな色づけをするための下地に使われることも多い。
 
天然系基原由来の色素類
天然系の色素でも、抽出物の色素成分の水溶性を高める目的にナトリウム塩やカリウム塩などにすることがあり、色調を安定させるために銅などと反応させることもある。このような反応は、化学的な合成反応に当たり、食品添加物として指定されないと使うことができない。このような理由で食品添加物として指定されている色素類もある。
水に溶けにくい天然系のアナトー色素を水溶性にしたものに、成分規格が定められている「水溶性アナトー」がある。これは、アナトーから抽出された色素成分をアルカリ金属類と反応させたものであり、化学的に合成した食品添加物に該当するため、色素成分であるノルビキシンカリウムおよびノルビキシンナトリウムの名称で指定されている。
緑色を呈するクロロフィル・クロロフィリンなどの葉緑素類は、安定性が悪いため、銅や鉄と反応させた安定性を増した銅クロロフィル、さらにナトリウム塩にして水溶性にした、銅クロロフィリンナトリウム、鉄クロロフィリンナトリウムが使われている。
また、現在では化学的合成法で作られることが一般的になったビタミン類の中にも、着色料として使われるものもある。代表的なものが、ビタミンAの前駆体であるβ−カロテンであり、ビタミンBであるリボフラビン類も着色の目的でも使用されている。このことは、欧米でも同じであり、栄養強化の目的での使用は食品添加物と見なしていない欧州でも、着色料に分類される食品添加物番号(E番号)が付けられている。β−カロテンは脂溶性(油溶性)の黄色色素として使われている。リボフラビン類は誘導体により溶解性は異なるが、これらもいずれも黄色色素として使われている。
 
既存添加物の着色料
天然系の着色料のうち、主体を占めるものは既存添加物名簿に収載されている品目である。
既存添加物の色素類の中では、糖類を焙焼して得られるカラメル類の使用量が圧倒的に多くなっている。この褐色系の色素であるカラメル類は、糖類の処理法によってカラメルT〜カラメルWに分けられている。このカラメル類の使用量は年間約2万tと推定されており、天然系着色料の85%を超えている。
量的にはカラメルに及ばないが、さまざまな食品に黄色系の色を着けるために使われているものが、カロテノイド系色素類である。このカロテノイド色素は、カロテンとも呼ばれる黄色〜橙色〜赤色系を呈するカロテン類、そのカロテン類が糖類と結合したカロテノイドを含む色素類であり、通常の調理などでは安定な性質がある。
既存添加物のカロテン類には、植物系原料から得られる抽出カロテン類のニンジンカロテン、藻類のデュナリエラカロテン、パーム油カロテンがあり、カロテノイドとして、アナトー色素、トウガラシ色素(パプリカ色素)、トマト色素などがある。また、クチナシを基原とする色素類3品目のうち、クチナシ黄色素は、クロシンを主成分としておりカロテノイド色素である。
黄色と共に使われる赤色系の着色料の代表が、アントシアニン色素類である。このアントシアニン色素は、通常は赤〜赤紫色を呈し、pHによりその色調が変わり、酸性では赤が強く、中性に近づくにしたがって淡い赤になる傾向がある。既存添加物では、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素などがある。
この他に、茶色系のフラボノイド色素類もある。フラボノイド色素は、カカオ、カキ、タマネギなどの植物性食品、紅花の花、シタンのような樹木など植物系の原料から採取され、黄色ないし褐色系の色を呈するものが多い。これらの中では、黄色を呈するベニバナ黄色素が比較的多く使われている。このベニバナ黄色素を抽出除去した後得られるカルタミンを主体とするベニバナ赤色素は、赤色を呈するということで、フラボノイド色素の中では、特殊な位置にある。
植物以外の基原物質を原料とするものには、昆虫ということで話題になる赤色のコチニール色素、緑色を呈する葉緑素類(クロロフィルやクロロフィリンなど)、黄色のウコン色素、発酵法で作られる紅麹を原料とする赤および黄色のベニコウジ色素およびベニコウジ黄色素がよく使われている。
金、銀、アルミニウムの金属系や魚鱗箔などは、装飾用に使われている。
既存添加物の着色料の中には、名簿から削除されたアカネ色素、エビ色素のように名簿から消除された色素やイモカロテンのように消除が予定されている色素類があり、使用する際には、最新の状況を確認する必要がある。
 
一般飲食物添加物の色素類
天然系の色素の中で、既存添加物と共に大きな役割を占めるものが、一般飲食物(通常食品)添加物の色素類である。その多くは赤色系のアントシアニン系色素類であり、アカキャベツ色素、シソ色素、ダークスイートチェリーのようなチェリー類の色素、エルダベリーのようなベリー類の色素、ブドウ果汁色素などがある。なお、ベリー類の中ではブルーベリー色素は、名の示すとおり青色を呈する特徴がある。また、ブラックカーラント色素は一般飲食物添加物の中では、例外的に成分規格が設定されている。
その他には、サフランを基原とするカロテノイド系のクロシンを主要色素成分とするサフラン色素もある。
 
食品に使用した着色料の表示
着色料は用途名の併記が必要な食品添加物である。表示に際しては簡略名と類別名が、比較的豊富に定められている。なお、「アナトー色素」のように「色素」の文字がある物質名で表示する場合は、使用目的が明らかなため、用途名の併記は免除される。
なお、着色料を表示する場合に、合成系と天然系を区別して表示すること、一部を用途名(着色料)と物質名の併記で表示して残りを色素名で表示するようなことはできない。例えば、「着色料(赤3,青1),アカキャベツ色素,ウコン色素」のような表示は認められず、全てを物質名で表示するか、全てを着色料との併記の形で、「着色料(赤3、青1、アカキャベツ、ウコン)」などと表記することになる。
個々の着色料で注意すべき点には、次のようなものがある。
銅クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウム、鉄クロロフィリンナトリウムは、表示する際の簡略名としては、葉緑素は認められておらず、銅葉緑素または鉄葉緑素のように、安定化させた金属名を頭に付けることになっている。
リボフラビン類は、リボフラビンという簡略名が認められているが、ビタミンBあるいはV.と表示することも認められている。この場合、ビタミンを「V」とローマ字で表示するときは、省略記号としての「.」が必要であり、「B」の2は右下に小さく表示することとされている。
 
天然系の着色料には、アントシアニン(色素)、果実色素、カロチノイド(色素)、カロテノイド(色素)、ベリー(色素)、フラボノイド(色素)などさまざまな類別名が認められている。
これらの類別名の活用にも留意して、表示スペースを有効に使用する表示方法の検討も重要である。
 
       (2010年4月25日 加筆・改訂)


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