食品添加物基礎講座 (その11)
味に関わる食品添加物 (1)
 
前回まで、食品添加物の機能のうち、形態を形成するものと色に関係するものを見直してきた、今回からは、しばらくの間、味に関係するものを見直していくことにしよう。
 
食品の味に関連する食品と食品添加物
食品の味は、色と共に食品の嗜好性に大きな影響を持つものである。
多くの加工食品は何らかの味があり、その原材料に使われる素材食品の多くは特有の味を持っている。また、その味を増強したり矯正するために、加工方法に工夫を凝らしたり、食品や食品添加物の使用が検討される。
食品の味は古くから、甘・酸・塩(鹹)・苦と呼ばれてきた甘さ、酸っぱさ、塩っぽさ(しょっぱさ)、苦さの4種類の味が基本となっており、食品の四原味と呼ばれている。なお、近年は、これに旨さを加えて五原味を基本とする人も多くなっている。
このような味を呈する物質には、次に示すように食品および食品添加物のいずれにも存在する。
 
甘さ
甘味食品:砂糖、転化糖、異性化糖、オリゴ糖など
甘味料(食品添加物):
高甘味度甘味料:アスパルテーム、アセスルファ
ムカリウム、サッカリンナトリウム、
スクラロース、タウマチンなど
低甘味度甘味料:キシリトールなど
酸っぱさ
酸味食品:レモン等の柑橘類など
酸味料(食品添加物):クエン酸、乳酸など
他の食品添加物:アスコルビン酸など
塩っぽさ
塩味食品:食塩、ホエイソルトなど
(ホエイソルトは、一般飲食物添加物)
塩味食品添加物:塩化カリウムなど
苦さ
苦味食品:ニガウリなど
苦味料(食品添加物):カフェイン(抽出物)など
旨さ
旨みの強い食品:鰹節、椎茸、貝類など
旨みの強い食品添加物:グルタミン酸ナトリウム、
イノシン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウムなど
総合的な味
食品:エキス類、発酵調味液など
食品添加物:組み合わせて調製した製剤
 
この他に、辛みを感じる食品や食品添加物もあるが、辛みは基本味には数えられていないが、当然、この辛みなどにかかわる食品および食品添加物がある。この辛みを感じるものには、次のようなものがある。
 
食品:香辛料・スパイス類
食品添加物:香辛料抽出物
 
このように、食品に味を与える効果を持つものには、食品と食品添加物のいずれにも存在する。加工食品を製造する際には、これらの食材を適切に組み合わせて使用して、味を調えることになる。
このうち、味に関わる食品添加物は次のように分類されている。
 
甘  さ:甘味料
酸っぱさ:酸味料
塩っぽさ:調味料(無機塩)
苦  さ:苦味料
旨  さ:調味料(アミノ酸)、調味料(核酸)
調味料(有機酸)
辛  さ:香辛料抽出物
 
この食品添加物の表示に使われる用語のうち、甘味料は用途名であり、物質名との併記となる。また、酸味料、苦味料、調味料(4種類のグループに分かれる)は一括名であり、一括名か物質名で表示することになる。
さらに、辛みを持つ香辛料抽出物は既存添加物名簿の収載品目名であり、物質名での表示となる。
 
食品の味を調える目的で、このようなさまざまな食品添加物が使用される。このような味に関連する使用目的について、3回に分けて説明を加えことにしよう。まず、甘味料からはじめよう。
 
食品に甘さを与える甘味料
甘味料は、砂糖(ショ糖)の代替をする目的で使用される食品添加物である。その甘味度(甘さ)が砂糖の数倍〜数百倍強い高甘味度甘味料と、砂糖と同程度あるいは弱い低甘味度甘味料に分けられる。
現在使用が認められている主な甘味料には、次のようなものがある。
 
高甘味度甘味料 〔()内の数値は甘味度〕
ネオテーム (10000)
タウマチン (1600)
サッカリンナトリウム (400〜700)
スクラロース (500〜600)
ステビア抽出物(高純度) (300))
ラカンカ抽出物 (300))
アスパラテーム (200))
グリチルリチン酸二ナトリウム (150〜250)
アセスルファムカリウム (200))
 
低甘味度甘味料 〔()内の数値は甘味度〕
キシリトール (1)
D−ソルビトール (0.7)
 
ここに示した食品添加物の甘味料のうちタウマチン、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物は既存添加物であり、その他は甘草を基原とするグリチルリチン酸二ナトリウムを含めて指定添加物である。なお、低甘味度甘味料に例示したD-ソルビトールは、後で説明するように、甘味料として使われることは少ない。
このように、甘味度に関しては天然系と合成系で違いがあるわけではなく、それぞれの甘味料の性質に因るものである。ただ、化学的な合成工程がある甘味料は、高甘味度であることが一般的である。
また、甘味を感じさせる食品添加物は、例示したような甘味料に限らず、DL-アラニンなどのような一部のアミノ酸にも、甘みを持つものがある。
この後、代表的ないくつかの甘味料について簡単に説明を加える。
 
天然系の甘味料
西アフリカの熱帯雨林地帯に生育する植物の果実から抽出される甘味タンパク質からなる高甘味度甘味料であるタウマチンは、一般的にはソーマチンとも呼ばれているもので、高い甘味度を持ち、苦味などを矯正する矯味効果もあるが、矯味の目的で極めて少量使用しても甘味を発現するほどの強い甘みがある。このため、甘味料としての使用と判断される場合が多い。このタウマチンは、食品に多い酸性領域でも安定した甘味を発揮するため、幅広いpH領域にあるさまざまな食品での使用開発が進められるものと考えられる。
南米パナマを原産地とする菊科の植物ステビアから得られる甘味料には、ステビア抽出物とステビア末が既存添加物になっているが、食品添加物としては高純度のステビア抽出物が一般的に使用されている。近年比較的多くの食品で使用されている。
中国から中近東にかけて生育する豆科の植物、カンゾウ類から得られる甘味料には、既存添加物のカンゾウ抽出物、指定添加物のグリチルリチン酸二ナトリウムがあり、一般飲食物添加物としてのカンゾウ末もある。これらは、食品に応じた使い分けがなされている。
甘味度の低いキシリトールとソルビトールも植物繊維を構成する多糖類キシランから得られるキシロース、若しくはデンプンを構成するグルコースという単糖類を基原とする天然系の甘味物質である。このうち、キシリトールは、消化性が低く虫歯を作りにくいと言うことで評判になったものである。
また、D-ソルビトールは、その保湿性を期待して使われることが多い。ただし、海上で製造される魚肉すりみなどでは、JAS規格食品では甘味料としての使用だけが認められている。このため、水産煉り製品のようなすりみ製品などでは甘味料と表示されている場合が多い。
キシリトールの原料になるD-キシロースも既存添加物である。甘味度は低いが、熱による着色を促進する性質があり、焼き色を着ける目的で使われることも多い。
 
合成系の甘味料
化学的な合成によって得られた甘味料は、指定の新しさの順では、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、サッカリンおよびサッカリンナトリウムとなる。いずれも高甘味度甘味料であるが、その甘さの発現パターンと強さは異なる。
サッカリン類は、長い期間使用されてきた合成系の甘味料のである。一時、安全性に疑問を呈されたことがあるが、サッカリン自体の問題ではなく、混入する不純物の影響と見られたため、不純物の残存量を規制する対応が採られている。
アスパルテームは、2種類のアミノ酸:アスパラギン酸とフェニルアラニン:から作られるペプチド系甘味料である。甘味度が高いため使用量が少なく済み、低カロリー食品を中心に使われている。
2000年に新しく食品添加物として指定されたアセスルファムカリウムは、水溶液の状態や加熱に強く、いろいろな加工食品に使われだしている。アスパルテームと併用するとショ糖に類似した甘さを呈すると言うことで、併用も多くなっている。
1999年に食品添加物として指定されたスクラロースは、ショ糖を原料に、一部を塩素と結合させた比較的新しく開発された甘味料である。その甘味度は、ショ糖の約600倍と高く、清涼飲料などでの使用が進んでいるが、恒温での安定性もあり、さまざまな食品で採用される傾向も認められる。
2007年12月には、ネオテームが新しい食品添加物として指定された。甘味度がアスパルテームの30〜60倍あり、砂糖換算では約1万倍というこれまでに例のない高甘味度甘味料のため、さまざまな形で製剤化されて新しい使用方法の研究が進められている。
 
日本では使えない甘味料
上記のように、スクラロース、アセスルファムカリウム、ネオテームと甘味料が続けて食品添加物として指定され、現在食品添加物として指定されている甘味料は8品目(D-ソルビトールは除く)になる。しかし、世界的には使用されていても日本では指定されていない甘味料もある。
かつて指定されていて、安全性に疑問が出たために、1969年に指定を削除されたシクラミン酸ナトリウムおよびシクラミン酸カルシウムは、アジア諸国やヨーロッパなどで広く使用されており、加工食品を輸入しようとする際に、指定外添加物の使用ということで差し止められる事例が頻発している。
チクロと呼ばれていたこのシクラミン酸塩類の安全性は、JECFAにおいて追加試験を踏まえた検討の結果、1982年には問題はないとされ、ADI(0〜11mg/kg-体重)も設定されている。しかし、日本では食品添加物としての再指定は行なわれておらず、国内での使用は勿論、輸入される加工食品での使用も認められていない。多くの国々で使われているため、加工食品の輸入に際しては充分注意することが求められる。
開発されてから約20年と比較的新しいアリテームも、JECFAでの評価が済んでいるが、日本では指定されておらず、使用することはできない。今後、海外で使用する食品が増えてくると、輸入できない事例が出てくるおそれがあり、動向に注意を払う必要がある。
 
   (2010年6月25日 加筆・改訂)


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