食品添加物基礎講座 (その16)
品質の維持に関わる食品添加物(1)
これまで、食品添加物についてその概念から使い方までを振り返って見てきた。ここまで、食品の製造の際に使用される食品添加物について見てきた。これまでに見直してきた食品添加物を使うことによってさまざまな加工食品が作られる。メーカーで作られた加工食品は、流通を経て家庭に買われてきて、食べられるまで品質が維持される必要がある。今回から3回にわたって、このような食品の品質を維持する目的で使用される食品添加物について見ていこう。
なお、この品質を維持する目的で使用される食品添加物に関しては、本食品添加物基礎講座(その37〜42)の食品の品質の保持(1)〜(6)で、再度説明を加えている。必要に応じて、この連載も参考にされたい。
食品の品質の維持
食品には、食べられるときに期待された品質がある。加工食品を製造する面から考えると、その期待を満足するが求められる。食品の機能に関しては、これまで振り返ってきたとおり、さまざまな食品添加物を使うことによって対応することができる。ところで、品質を維持することは困難なものもある。
加工食品の品質が劣化する原因は、大きく分けて次の2つが考えられる。
・食品その物が持つ特性による劣化
・食品の汚染による劣化
食品の主要原材料は生ある動植物であり、その成育・生育段階で微生物などによる汚染を受けていること、収穫後に老化していくことはある程度止もうえないとも言える。この汚染を除去するため、あるいは老化の進行を抑える目的で食品添加物が使われることがある。
さらに、これらの素材となる食材を使って加工食品を製造した後で、微生物などにより、変質・腐敗することもある。これを防ぐ目的で食品添加物を使うことも行われている。
このように、有効に食品添加物を使うことを含めて食品の品質の維持が図られており、次のようにさまざまな方法が採られている。
・素材食材の洗浄
・素材食材の殺菌
・製造装置・器具の洗浄・清浄化
・食品の日持ちの向上
・食品の酸化防止
・食品の保存
これらの対応のうち、装置・器具の洗浄・清浄化は、法規上、食品添加物とは関係がないことになっており、また、素材食材の洗浄も基本的には食品添加物とは関係がない。ただ、これらの洗浄に使用する洗浄剤をできるだけ食品添加物および可食性の物質で構成するよう指導された経緯もあり、全く無関係ということでもない。
加工食品の品質維持に関しては、清浄な製造場で、清浄な機械・器具を用い、良く洗浄された食材を使い、適切な温度管理の下に流通させることで、変質・腐敗のかなりの部分を防ぐことができる。しかし、より確実な安全性の確保のためには食品添加物が大きな役割を持っている。
殺菌・漂白料
加工食品の品質の維持に使われる食品添加物のうち、まず、食品に着いていて洗い流しきれない微生物を除去する目的で使用される食品添加物を見直すことにする。
微生物を除去する為にはね殺菌することが確実であり、そのような目的で使用される食品添加物を「殺菌料」と呼んでいる。「殺菌剤」と言わないのは、医薬品である殺菌剤と混同しないためである。
なお、多くの殺菌料は、色の着いた食品を漂白する機能も持ち合わせているため漂白料としても使われている。これらに関しても、家庭用のさまざまな「漂白剤」と混同されないように、「漂白料」という用語を用いることもある。同じ物質が殺菌料と漂白料の両方に使われることが多いことから、合わせて殺菌・漂白料として一つのグループとされることもある。
なお、漂白料に関しては、色に関連する食品添加物の項で既に触れており、ここでは殺菌の目的で使われる食品添加物について説明する。
殺菌の目的で使われる食品添加物には、次のようなものがある。
過酸化水素
塩素系殺菌料
亜硫酸塩類
これらを順次見直すことにする。
過酸化水素
かつては、希薄水溶液がオキシフルとして、家庭の常備薬であった時代もある過酸化水素は、その酸化作用による食品の殺菌・漂白効果を示す。
食品添加物としては、使用基準で、最終食品の完成前に分解又は除去することが定められている。このため、現在は使用できる食品が極めて少なくなっており、残存した過酸化水素を酵素のカタラーゼで分解することが可能な、カズノコなどの魚卵の殺菌・漂白に限って使われている。最終食品には残存しないことから、加工助剤に該当し、食品への表示は免除されている。
食品添加物グレードの過酸化水素の最大の用途は、食品容器の洗浄・殺菌のとなっており、食品添加物として使われるものは限られている。
塩素系の殺菌・漂白料
塩素系の殺菌・漂白剤には、は亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸水、次亜塩素酸ナトリウムおよび高度サラシ粉が指定されている。かつて食品添加物として使われていたサラシ粉は、使用実態がなくなったことから指定を削除されている。
これらの塩素系化合物は、酸素と結合した亜塩素酸イオンまたは次亜塩素酸イオンから放出される酸素によってその効果が発揮される酸化型の殺菌・漂白剤である。
このなかでは、次亜塩素酸ナトリウムが最も良く使われている。これは、本品が、ゴマを除く食品への使用が認められていることにより、多くの食品で幅広く使われているためである。本品は、水溶液が成分規格として定められており、大きく分けて2種類の含量のものが流通している。本品は、食品に残存すると、塩素系特有の異臭がでるため、自ずと使用量が制限され、多く使用した場合は除去の工程を必要とすることになる。なお、食品添加物グレードの次亜塩素酸ナトリウムは、水道水の殺菌にも使われている。
高度サラシ粉は、次亜塩素酸カルシウムを主要成分とするカルシウム塩系の塩素酸系化合物である。本品は、安定性が高く、水に溶かしたときの不溶性の残渣も少ない利点がある。このことから、かつて使われていた塩化カルシウムが混在しているサラシ粉に置き換わって主体となり、これに伴ってサラシ粉は食品添加物の指定を削除された。本品は、強い殺菌性を持ち、効果の持続性もあることから、食品製造の前処理としての殺菌や漂白に使われている。なお、食品添加物グレードの高度サラシ粉は、食品以外に、プールの殺菌などにも使われる。
亜塩素酸ナトリウムは、かつては、サクランボ、フキ、ブドウ、モモの漂白に限られて使われてきたが、菓子製造用の柑橘類の果皮、生食用の野菜類や卵(卵殻部分)の殺菌にも使えるように対象食品が拡大されてきており、2010年5月28日には「塩かずのこ」への使用も認められている。本品は、粉末品の成分規格も設定されているが、毒物劇物取締法や消防法などの法規との関連で、水溶液としたものが扱いやすい。このために水溶液に関しても成分規格が定められており、流通の大半は水溶液製剤となっている。使用基準により、使用後は、分解又は除去することが定められている。
2002年に新たに食品添加物として指定されたものが次亜塩素酸水である。本品は、食塩水あるいは塩酸を原料として特定の器具を用いて電気分解させて次亜塩素酸を発生させるものであり、食塩水を原料とするものが強酸性次亜塩素酸水、塩酸を原料とするものが微酸性次亜塩素酸水となる。この発生する次亜塩素酸による殺菌作用で、野菜など水に浸けることが可能な食品の清浄化に使われる。
これらの塩素系の殺菌・漂白剤は、使用基準あるいは使用の実態から見て、いずれも加工助剤になる。
この他に塩素系の食品添加物では、成分規格のない指定添加物二酸化塩素がある。これは、使用基準で小麦粉にのみ使用が認められている反応性に富んだ気体であり、小麦粉の漂白・改質に使われている。
亜硫酸系食品添加物
亜硫酸系の食品添加物としては、成分規格が設定されている亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムおよび次亜硫酸ナトリウムの4品目とガス体であり成分規格は設定されていない二酸化硫黄(無水亜硫酸)を合わせて5品目ある。さらに、亜硫酸水素カリウム液および亜硫酸水素ナトリウム液の成分規格が設定されておりは、それぞれの相当するピロ亜硫酸塩類の水溶液製剤とされている。
なお、二酸化硫黄は、使用時に硫黄を燃焼させて二酸化硫黄を生成させる使い方が主体となっている。このような使い方を理由の一つとして、成分規格は定められていない。
これらの亜硫酸系の物質は、殺菌や漂白の効果があるだけでなく、亜硫酸の強い還元作用による酸化防止の効果や保存性への寄与があり、酸化防止剤や保存料としても使用されており、食品の品質維持には大きく寄与している。
このように様々な効果が期待されるため、多量に使われる恐れもあり、使用基準で食品別に残存量の限度値が定められている。この残存量の規定が最も少ない加工食品では、二酸化硫黄として、食品1kg当たり30mgである。このため、亜硫酸類を使用する場合は、原材料で使用されて残存している量も考慮した使い方が必要となる。
ところで、最終食品の製造時には、この亜硫酸類を使用していない場合、使用した原材料から亜硫酸類が持ちこされることがある。
この亜硫酸類は、使用した目的に添って表示することになる。また、微量のキャリーオーバーなどで、食品に表示する必要があるか否かの判断は、最終食品での残存量による。米国では、通常の分析法による検出の限界とされている10ppm(10mg/1kg)を判断する基準にしている。一方、日本では、厚生労働省からは、キヤリーオーバーとみなされる残存量は明確にされていない。ただし、地方自治体では、米国における基準値を参考に判断しているところも多いようである。
なお、亜硫酸類を表示する場合は、亜硫酸Naなどと個々の物質名で表示することも可能であるが、既存添加物における類別名と同様に、一括して「亜硫酸塩」と表示することも認められている。
防虫剤としての食品添加物
殺菌料は、加工前の素材食品を殺菌して品質を維持することを目的としている。素材となる食品の処理としては、防虫剤が使われることもある。食品添加物として指定されているものは、ピペロニルブトキシド1品目で、穀類に限って使用が認められている。
海外から船舶を使って輸入される素材食品の中には、燻煙などで防虫、殺虫が図られている場合もあるが、食品衛生法関係法規類に沿った対応が求められている。
(2010年6月25日 加筆・訂正)
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