食品添加物基礎講座 (その18)
品質の維持に関わる食品添加物(3)
この使用目的から見る食品添加物の見直しは、今回で一応終了する。最終回は、食品の品質維持に使用される食品添加物のうち、酸化防止剤と日持向上剤に関して見直すことにしよう。
 
酸化防止剤とは
酸化防止剤は、加工食品に長い期間使われてきたものであり、保存料と共に、馴染みのある用途名であろう。
 
加工食品や素材食品の中には、魚肉などのように不飽和の脂肪酸を含有するものがある。このような不飽和の脂肪酸・油脂類は、酸化されやすいために、その酸化を防ぐことが食品の品質を保つ上で大切なポイントとなる。
また、近年は不飽和の脂肪酸が酸化されて生ずる過酸化脂質が身体の老化を促進する可能性が指摘されており、この過酸化物の生成の防止にも酸化を防ぐことが求められる。このような目的で使用される食品添加物が、酸化防止剤である。
この酸化防止剤は、一般的に次のようなものと考えられている。
酸化防止剤とは、主として食品に含まれる油脂の酸化など、酸化現象による食品の変質を防止し、食品の品質の安定性を向上させるために使用される食品添加物をいう。
 
このような酸化防止剤は、一般的にそのもの自体が酸化されやすいものであり、酸化されたとき生成する物質が、人体に害のないものであることも原則となっている。
このような性質から、酸化防止剤の保存性の向上に別の酸化防止剤が添加使用されるということもある。
 
酸化防止剤の効果には、次のようなものがある。
 
@ 油脂類・油溶性成分の酸化防止
油脂類などの酸化による変色や異味・異臭の発生防止
油脂類などの酸化によって生じる過酸化物などの有害物質の生成の防止
油脂類などの酸化重合による粘度の増加など、物性の変化の防止
A 水溶性成分の酸化防止
非酵素的な褐変の防止(みそ、醤油など)
酵素的な褐変の防止(皮むきりんごなど)
酸化による味、風味の劣化の防止
B ほかの食品添加物の安定化(酸化防止)
酸化に弱い天然系色素成分の退色の防止
不飽和脂肪酸を含む乳化剤などの酸化防止
ビタミンA,ビタミンDなどの脂溶性ビタミンの酸化防止
香料、香辛料抽出物、酵素など天然系添加物の酸化防止
 
ビタミンC(アスコルビン酸)類
ビタミンCは、ビタミンとしての栄養強化の目的で使われることも多いが、一方では、酸化防止剤として広く使用されている。
ビタミンC類には、水に溶けるL-アスコルビン酸とL-アスコルビン酸ナトリウム、油脂類に溶け易いL-アスコルビン酸ステアリン酸エステルとL-アスコルビン酸パルミチン酸エステルが使われてきたが、熱安定性の良い水溶性のビタミンCとしてL-アスコルビン酸2-グルコシドの指定に続いて、され、5品目の指定添加物があり、食品の状態、目的に合わせて使用されている。
なお、ビタミンC類には、栄養強化、酸化防止の作用の他にも、食品に対して次のような効果を発揮することが知られている。
@ 魚肉ねり製品や製パン時の酸化作用
A からし、わさびの辛みを発現させる酵素ミロシナーゼの活性化
 
ビタミンE(トコフェロール)類
ビタミンEは、生体の過酸化物生成を防止する効果を有し、細胞膜や生体膜の機能を維持する効果を持つ油脂類に溶け易いビタミンである。
ビタミンE類には、ビタミンとしての効果の強いα−トコフェロール、酸化防止の効果が強いδ−トコフェロールがあり、他にβ−トコフェロール、γ−トコフェロールなどがある。
トコフェロール類は、米や小麦の胚芽、大豆、卵黄、植物油、肝臓などに含まれている。食品添加物としては、これら含有原料のうち植物性の油脂分から抽出し、必要に応じて精製し、製品化されたものが、既存添加物として市販されている。
これらの中で酸化防止の目的で使用するのに適したものは、d-δ-トコフェロールおよびミックストコフェロールである。指定添加物のdl-α-トコフェロールは、使用基準で酸化防止の目的で使用することに限られているが、その効果は、上記した既存添加物の2種類のトコフェロール類に及ばない。
 
エリソルビン酸類
エリソルビン酸は、アスコルビン酸の異性体であり、イソアスコルビン酸と呼ばれることもある代表的な酸化防止剤で、欧米でも広く使用されている。
ただし、エリソルビン酸には、ビタミンCとしての効果はないといわれ、酸化防止の目的のみで使われる。その酸化防止の作用は、ビタミンC類と同様である。
また、近年はビタミンCと同様に、酸化剤として魚肉ねり製品やパンの製造の際に使われている。
 
BHAとBHT
BHA(t-ブチルヒドロキシアニソール)とBHT(ジt-ブチルヒドロキシトルエン)は、化学的な合成で得られた酸化防止作用を有する代表的な物質である。いずれも酸化防止作用を有するt-(ターシャリー)ブチルフェノールの効果をより発揮できるように合成された誘導体である。
一時期、BHAの安全性に疑問が生じたとの理由で使用基準の改正が行われた。改正使用基準の実施時期が定められなかったため、特に輸入食品に関しては実効性は乏しかったものである。この使用基準は、1999年4月6日の告示で、前回の改正前の使用基準に戻る形で改正された。
この再度の改正で、BHAは油脂や魚介加工品などに、広く使用することが可能となった。
 
EDTA類
エチレンジアミン四酢酸を骨格とする塩類がEDTA類であり、2種類が食品添加物として指定されている。
EDTA類は、酸化を促進する金属イオンを捕捉する力が高いため、酸化を抑える効果を持ち、幅広い食品での使用が考えられる。
ただし、日本では、缶詰食品や瓶詰食品での遊離金属イオンを捕捉してその活動を封鎖する金属封鎖剤としてのみ使用が認められており、最終食品に残存する場合は、カルシウム二ナトリウム塩の形にすることが義務づけられている。
 
没食子酸
没食子酸は、ボッショクシサンともモッショクシサンとも呼ばれる植物系の既存添加物である。日本では、五倍子から得られる五倍子タンニンが主要原料であり、ヨーロッパでは、没食子を原料とする没食子タンニンが主体になっているが、いずれも古くから使われてきたものである。
その酸化防止効果は、没食子酸を構成する、ポリフェノール系のトリヒドロキシ安息香酸のさようである。
没食子酸プロピルは、没食子酸とプロピルアルコールとのエステル化反応で得られた指定添加物であり、欧米を中心に油脂とバターの酸化防止剤として使用されている。
 
その他の天然系の酸化防止剤
ルチン類は、クエルセチンの配糖体で、熱に強く、抗酸化作用があるため酸化防止剤として使われている。これらには、「ルチン(抽出物)」、「クエルセチン」、「ルチン酵素分解物」、「酵素処理ルチン(抽出物)」や「酵素処理イソクエルシトリン」などがある。
他に、「チャ抽出物」や、リンゴの果実を酵素で分解した「酵素分解リンゴ抽出物」などもある。
 
酸化防止剤を使用した食品での表示方法
酸化防止剤は、使用目的を物質名と共に併記することが義務づけられている用途名であり、酸化防止の目的で使用した場合には、酸化防止剤(アスコルビン酸)、酸化防止剤(V.C)、酸化防止剤(酵素処理ルチン)のように併記で表示する。
この表示に当たっては、ビタミン類は、栄養強化の目的でなくても、V.Cのようにビタミンとしての表示も認められる。
なお、亜硫酸塩類を酸化防止の目的で使用した場合は、酸化防止剤(亜硫酸塩)などと表示する。
 
日持向上剤とは
食品を市場で流通させるには、その品質をある程度の日数維持する必要がある。ところが、食品によっては、数日という短期間でも品質を維持するのが困難なものもある。このような食品の日持ちを向上させることができれば、食品の有効利用の面でも大きな意義がある。このような目的で使用される食品添加物が「日持向上剤」で、米国ではシェルフライフ延長剤と呼ばれている。
この日持向上剤は、短期間であるが食品の保存性を向上させることができる。しかし、保存料として区分すると、消費者に、先月説明したいわゆる保存料と同様に、比較的長期間にわたる保存性があるものと誤解され、保管方法を誤って、食品衛生上の問題も生じる恐れも考えられる。このために、食品添加物の使い方として「保存料」とは別の範疇とされたものである。
このような日持向上剤は、食品に単独で使用する場合もあるが、多くの場合は、数種の食品添加物を直接併用するか、流通している食品添加物製剤が使用されている。
日持向上剤として使用される食品添加物製剤は、その効果を期待する主剤と、主剤の効果の発揮を助ける副剤からなっており、次のようなものがある。
@ 指定添加物を主剤するもの
A 既存添加物などを主剤とするもの
B エタノールを主剤とするもの
このうち、Bを「アルコール製剤」といい、残りの@とAを狭い意味での「日持向上剤」ということもある。
 
日持向上剤に使われる食品添加物
食品の価値を向上させる目的では、さまざまな食品添加物が使用されているが、日持向上剤の主剤となる指定添加物には、次のようなものがある。
グリセリン脂肪酸エステル
(中鎖脂肪酸エステルに限られる)
グリシン、
氷酢酸、酢酸ナトリウム、
チアミンラウリル硫酸塩
また、主剤となる主な既存添加物には、次のようなものがある。
カラシ抽出物、ホコッシ抽出物、リゾチーム
(以上は、主として日持向上剤)
セイヨウワサビ抽出物、チャ抽出物
(酸化防止剤としても使われる)
カンゾウ油性抽出物、酵素分解リンゴ抽出物、
ローズマリー抽出物
(以上は、主として酸化防止剤)
キトサン、ユッカフォーム抽出物
(他の使用目的もあるもの)
 
さらに、一般飲食物添加物であるエタノールを主剤とするものが、アルコール製剤である。
これらの日持向上剤に副剤として配合される食品添加物には、酸味料やpH調整剤として使われるアジピン酸、クエン酸、乳酸などの有機酸とその塩類があり、無機系では炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩類、リン酸および各種のリン酸塩類がある。
なお、アルコール製剤の副剤としては、定められた配合量以下であれば、日持向上剤製剤の主剤となる指定添加物及び既存添加物のリゾチームも認められる。
副剤と認められるには、アルコール製剤のリゾチームに限らず、製剤中の量、主剤に対する比率などに一定の枠がはめられており、その基準に従う必要がある。
ところで、日持向上剤の取材として配合することが認められている既存添加物の中に、酸化防止剤として使われる物質が含まれていることから、推測されるように、食品の酸化を制御することにより、短期間の日持ちの向上に寄与することができる。このように日持向上は、保存性の付与に限らないことにも注目すべきである。
 
酢酸及び酢酸ナトリウム
食酢に食品の変敗を防ぐ作用があることは昔から良く知られている。酢酸は、この食酢の主体をなす有機酸であり、日持向上の効果が高い食品添加物である。食品添加物としては、氷酢酸の名称で指定されており、ナトリウム塩の酢酸ナトリウムと共に、しばしば使用されている。ただし、酸味と共に酢酸特有の臭いが問題視されることもあり、使用には自ずから制限がある。
 
グリセリン脂肪酸エステル
乳化剤のグリセリン脂肪酸エステルに静菌性があるということには、意外な感じを持つ人も多いことであろう。確かに、一般的に乳化の目的で使われる長鎖の脂肪酸を主体とするものには、静菌性はない。
しかし、脂肪酸のうち、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸などの中鎖の脂肪酸を使用したグリセリン脂肪酸エステルには、酸性領域での静菌性が認められており、日持向上剤として使用されている。
 
チアミンラウリル硫酸塩
主としてビタミンB補給のためという栄養強化の目的で使用されるチアミン類のうち、ラウリル硫酸塩は、中鎖のグリセリン脂肪酸エステルの場合と同様に静菌性が認められている。このため、静菌性のあるビタミンとして、加工食品での使用がふえている。
本品は、水に溶けにくいため、通常は、エタノールに溶かすなど製剤化して使用される。
 
リゾチーム
リゾチームは、酵素の一つである。ただ、食品加工に一般的に使用されるデンプンや炭水化物を分解するアミラーゼ類、タンパク質を分解するプロテアーゼ、脂質を分解するリパーゼなどとは異なり、細菌の細胞壁を溶かすことによって静菌作用を発揮するという特殊な機能を有する溶菌酵素と呼ばれるものである。この機能により、リゾチームは日持ちの向上を目的として使用される。
日本では、主に鶏卵の卵白から得られる卵白リゾチームが使用されており、グリシンなどとの製剤などが流通している。
 
グリシン
グリシンは、アミノ酢酸ともいわれ、アミノ酸の中では一番簡単な構造をしたもものである。
水産練り製品などをはじめとして、グリシンの静菌性による日持ちの向上を目的とする使用量は、調味を中心とするアミノ酸としての使用量をはるかに超えている。
近年は、酢酸系、リゾチーム、エタノールなど、他の日持ちの向上効果を有する食品添加物との併用や、製剤の形での使用が多い。
 
エタノール
日本では、焼酎を食品の日持ちの向上に使うことも行われてきた。
また、70%エタノールが医薬用の殺菌・消毒に使われるなど、エタノールは静菌効果に優れている。
この静菌作用を有するエタノールを、純度の高い発酵法で作られたエタノールで行うものが、エタノールによる日持ちの向上である。
 
カラシ抽出物・ワサビ抽出物
カラシ抽出物は、イソチオシアン酸アリルを含んでおり、高い静菌作用がある。大量に抽出、製造するにはカラシからの抽出が有利とされており、開発当初原料として使われたワサビ(ワサビ抽出物)使われなくなっている。
本品の特殊の使い方として、食品に接触する内紙などにしみこませて、揮散するワサオールにより、食品の日持ちを向上させる方法もある。
 
日持向上剤類を使用した食品での表示方法
日持向上剤は、すでに説明してきた品質保持を目的とする各種の食品添加物と異なり、使用目的を併記すべき用途名には該当していない。一方、酸味料やpH調整剤のような一括名としても認められていない。このため、使用した食品では、物質名で表示することになる。使用する際、日持向上剤製剤の形で使用した場合は、副剤と認められる食品添加物は、表示を免除されている。製剤を使用する際には、構成成分が、主剤に当たるものか、副剤に相当するものかを確認し、表示に生かす必要がある。
調味料のアミノ酸を使用している食品で、日持ちの向上にグリシンあるいはグリシン製剤を使用した場合は、グリシンは調味料としての使用とは認められず、物質名でグリシンと表示する必要がある。酢酸類を酸味料あるいはpH調整剤と別々の目的で使用した場合も同様である。
なお、保存料としての効果、酸化防止剤としての効果を発揮するような使い方をした場合には、用途名と物質名の併記が必要になる。
 
生鮮果実類に使われる防かび剤
ここまでは、加工食品を中心とする食品の品質の維持に使われる食品添加物について説明してきたが、生鮮果実類の品質の維持に使用されるものに、カビの発生を抑える「防かび剤」がある。
カビは漢字で「黴」と書き、バイと読まれるとこみろから「防ばい剤」とも呼ばれる。
防かび剤には、イマザリル、オルトフェニルフェノールとそのナトリウム塩、ジフェニル、チアベンダゾールがあり、いずれも、米国などでは農薬(ポストハーベスト-収穫後-農薬)として使われているものであるが、日本での法規制では食品添加物に該当することから、指定されているものである。
柑橘類とバナナに対して使用できる果実の種類と残存量を規定して使用が認められている。
現在、ポストハーベストのうやくとしても使われている農薬フルジオキソニルが、同様に食品添加物に該当する使われ方があるということで、安全性などの検討が進められている。
 
防かび剤は、物質名との併記が必要な用途名である。
なお、一般的には、包装された加工食品でその使用を表示することが求められている食品添加物であるが、これらの防かび剤は、いわゆるバラ売りの場合でも、店頭に使用している旨を表示するよう通知で指導されている。
 
ところで、パンや菓子類、チーズその他の食品にカビの増殖を抑える目的で使用される食品添加物があるが、このような加工食品でのカビの発生を抑える目的で使用されるものは、保存料として扱われており、防かび剤とは呼ばない点にも留意する必要がある。    
-完-
(2010年6月25日 加筆・訂正)


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