食品添加物基礎講座(25)
食品添加物に関わる規格・基準(その1)
食品添加物に関わる規格と基準とは
これまで、食品添加物に関して、その概要の説明、使用目的から見た説明をし、さらに食品添加物を使用した食品での表示などを説明してきた。これからしばらくは、食品添加物に関わる規格と基準について見直してみたい。
 
食品添加物の種類
規格や基準に触れる前に、法的な面から見た食品添加物の種類について振り返ることにする。
食品添加物に関しては、食品衛生法で次のように定義されている。
添加物とは:
食品の製造の過程において又は食品の加工若しくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によって使用する物をいう。
(食品衛生法第4条第2項)
 
また、この食品添加物は、原則として使用が禁止されており(食品衛生法第10条)、厚生労働大臣から指定された場合に限って使用が認められている。ただし、この規定には、一部に規定の除外および例外がある。このことから、法の上の規制は、次の4種類に分けられている。
 
@ 指定添加物
A 既存添加物
B 天然香料
C 一般飲食物添加物
 
@に示した指定添加物が、原則的な食品添加物であり、天然物由来の化学物質であっても、化学的に合成された物質であっても同じ扱いである。
この全ての食品添加物に指定制度を導入する食品衛生法の改正に伴い、法の改正当時に使用されていた天然系の食品添加物を継続して使用することを認める形で、指定制度の例外として、公表されたものがAの既存添加物である。この既存添加物は、既存添加物名簿に収載されているが、安全性の問題や使用実態がないなどの理由で、当初の489品目から450品目に減少しており、2007年秋にはさらに使用実態のない40品目程度が名簿から削除(消除)される予定になっている。
指定制度の枠外とされ、一定の条件を満たした場合、食品添加物として使用することが可能なものが、BとCである。このうちBは、食品衛生法で次のように定義されている。
天然香料とは:
動植物から得られたもの又はその混合物で、食品の着香の目的で使用される添加物をいう。
(食品衛生法第4条第3項)
 
 
一方、Cの一般飲食物添加物は、先に触れた食品衛生法第10条で食品添加物の指定制を定める際に、次のように説明されたものである。
一般に食品として飲食に供されているものであって添加物として使用されるもの
 
 
このように、食品添加物は、4種類に分けることができる。この4種類の食品添加物は、これまで使用されてきた経緯もあり、規制には異なる部分もあるが、基本となるところは同じである。
 
食品添加物に関わる規格・基準類
食品添加物は、食品衛生法の下に定められた規格や基準類によって規定されている。これらの規格や基準類には次のようなものがある。
a.成分規格
b.保存基準
c.製造基準
d.使用基準
e.表示に関する基準
食品添加物は、このように様々な規格・基準類によって製造から使用、表示までが規定されている。
これらの規格・基準類は、次のように、食品衛生法で定められ、規格・基準類が設定された場合にはこれを守ることが義務づけられている。
厚生労働大臣は、公衆衛生の見地から、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、販売の用に供する食品若しくは添加物の製造、加工、使用、調理若しくは保存の方法につき基準を定め、又は販売の用に供する食品若しくは添加物の成分につき規格を定めることができる。
(食品衛生法第11条第1項)
前項の規定により基準又は規格が定められたときは、その基準に合わない方法により食品若しくは添加物を製造し、加工し、使用し、調理し、若しくは保存し、その基準に合わない食品若しくは添加物を販売し、若しくは輸入糸、又はその規格に合わない食品若しくは添加物を製造し、加工し、使用し、調理し、保存し、若しくは販売してはならない。
(食品衛生法第11条第2項)
 
 
この規定にない表示に関しては、別の条項で次のように規定している。
厚生労働大臣は、公衆衛生の見地から、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、販売の用に供する食品若しくは添加物又は前条第1項の規定により規格若しくは基準が定められた器具若しくは容器包装に関する表示につき、必要な基準を定めることができる。
(食品衛生法第19条第1項)
前項の規定により表示につき基準が定められた食品、添加物、器具若しくは容器包装は、その基準に合う表示がなければ、これを販売し、販売の用に供するために陳列し、又は営業上使用してはならない。
(食品衛生法第19条第2項)
 
 
このように法律による裏付けをもって規定された規格・基準類であり、これらに合うように食品添加物を製造し、使用し、表示して販売することは、近年喧伝されているコンプライアンスの第一歩である。
これらの規格・基準類のうち、成分規格と保存基準については次回以降に説明を加えることにして、今回は、表示に関する基準、製造基準および使用基準について簡単に説明を加える。
 
食品添加物の表示に関する基準
食品添加物に関する表示については、食品衛生法施行規則第21条に細かく規定されている。
食品添加物を使用して製造した加工食品では、食品衛生法に基づいて食品添加物を表示することが原則とされてきた。この表示の規定は、原材料の一環としての表示であるが、食品添加物以外の原材料の表示は義務づけられていない。ただし、現在は、この食品衛生法の規定による表示に加えて、JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)による表示基準があり、食品添加物以外の原材料の表示と食品添加物の表示が求められている。
いずれの表示方法にしても、食品の製造等に使用した食品添加物は、次の原則で表示することになる。
 
・使用した食品添加物は、原則として全てを物質名で表示する。
・特に定められた使用目的では、用途名と物質名を併記する。(甘味料、着色料、保存料など8用途)
・同一使用目的に使われる食品添加物に関しては、個々の物質名に代えて、一括名で一括表示することも認められる。(イーストフード、ガムベース、かんすいなど14種類)
・加工助剤として使われた食品添加物、キャリーオーバーに該当する食品添加物および栄養強化の目的で使用された食品添加物は表示を免除される。
・表示に使われる物質名は、食品添加物の品名(名称または別名)、通知で示されている簡略名・類別名をいう。
・物質名での表示に際しては、消費者に誤解を与えない範囲で、カタカナ、平がな、漢字を選択することが認められる。
 
また、食品添加物および食品添加物製剤に関しては、「食品添加物」の文字、食品添加物の名称、製剤の名称、製剤の場合には、成分およびその重量パーセントなどを表示する。食品添加物の名称や製剤の成分の表示には、告示されている品名(名称または別名)を使用することになっており、簡略名や類別名は使用できない点に留意する必要がある。
これらの内容については、この連載(食品添加物講座)の第19回から第24回(食品添加物と表示(その1)から(その6))にかけて様々な事例と共に見てきたところである。詳細は、この連載を見直して頂きたい。
 
食品添加物の製造基準
製造基準とは、食品あるいは食品添加物を製造する際の条件を定めたもので、食品添加物の製造基準は、食品衛生法に基づいて告示される省令「食品,添加物等の規格基準」の中、「第2 添加物」の部に成分規格などと共に収載されている。
この製造基準には、次の事項が規定されている。
 
@ 食品添加物全般に関わる事項
A かんすいの製造に関わる事項
B ウコン色素、ワサビ抽出物などおよび同様の基原物質を原料とする天然香料の製造に使用される抽出溶剤に関する事項
 
このうち、@の全般に関わる事項は、「添加物一般」の規定で、次のような4つの基準が設定されている。
その1は、食品添加物を製造又は加工する場合には、必要不可欠の場合を除いては不溶性の鉱物性物質を使用することを禁止したものである。これは、第2次世界大戦後(太平洋戦争での日本の敗戦後)の混乱期に、不溶性の鉱物性物質を混入して量を多く見せかけるものが見受けられたために、このような規定を作って見せかけの増量を防ぐことにしたものである。
その2は、食品添加物の製剤を製造する際の原料物質の規定である。食品添加物の製剤であり、食品添加物が主体であることは言うまでもないが、成分規格が設定されている品目を使用するときは、その成分規格に合格したものであることが条件とされている。また、粉末化、顆粒化などで使いやすい製剤にする目的で、乳糖やデキストリンなどのように食品とされている物質を配合することもよく行われている。使用する食品に規格が定められている場合は、規格に合った食品であることが求められている。さらに、水溶液製剤などのように水を使う場合は、飲用適の水を使用することが規定されている。
なお、食品添加物における飲用適の水に関する規定はないが、同じ「食品,添加物等の規格基準」のうち、食品の部に、水道法に基づく水道水や一定の基準を満たす水が飲用適とされることが定められており、食品添加物製剤を製造する際にも適用される。
添加物一般の3つ目の規定は、遺伝子組み換え技術を使用した食品添加物に関するものであり、食品の場合と同様に、国内での製造、販売、使用等に際しては、事前に厚生労働大臣の所定の確認が必要なことを定めるものである。なお、現在は、安全性に関しては厚生労働大臣の依頼に基づいて食品安全委員会で審議されている。
その4は、牛海綿状脳症(BSE)の対応措置として定められたもので、特定牛のせき柱に由来する原材料は、高温加熱の条件下で適切に処理した場合を除いては、食品添加物の製造、加工に使用することを禁じたものである。
 
Aの「かんすい」に関しては、中華めん用のアルカリ剤として必須の食品添加物(製剤)である「かんすい」に使用できる食品添加物を細かく規定したものであり、配合できる食品も小麦粉に限定している。
 
Bの抽出用の溶剤に関しては、使用できる溶剤を水も含めて24種類に限定し、そのうち6種類の溶剤(アセトン、ジクロロメタン、1,1,2-トリクロロエテン、2-プロパノール、ヘキサンおよびメタノール)に関しては、許容される残存量を規定している。
なお、対象となる食品添加物は、ウコン、オレガノ、オレンジ、カンゾウ、クチナシ、クローブ、ゴマ油、シソ、ショウガ、ウィキョウ、セイヨウワサビ、セージ、タマネギ、タマリンド、トウガラシ、ニガヨモギ、ニンジン、ニンニク、ペパー、ローズマリー、ワサビを原料とする色素、抽出物類と香辛料抽出物、タンニン(抽出物)および香辛料抽出物と同様の原材料を基原とする天然香料に特定されている。
これらの@からBの事項は、食品添加物の製造等、食品添加物製剤の製造等にとって重要な条件である。ところが、このような条件が定められていることへの理解不足が見受けられることがある。重要な条件として留意した製造等が求められる。
 
食品添加物の使用基準
食品添加物の使用基準は、製造基準に比べるとなじみが深く、理解も進んでいる基準である。
この使用基準は、次の2種類の基準に分けられる。
 
@ 食品添加物全般にわたる基準
A 個々の食品添加物に関わる基準
 
@の「添加物一般の使用基準」では、まず、食品添加物製剤を食品の製造等に使用するとき、製剤を構成する食品添加物は使用した食品に対する使用基準が適応されることが定められている。次いで、中間原材料となる食品に使用された食品添加物が最終食品に持ち越されたときの考え方が示されている。そこでは、中間原材料に使用されて、最終食品に持ち越されたものは、最終食品に使用したものと見なすこと、その際使用基準で定められた使用量あるいは残存量を、どのように見なすかが定められている。
 
Aの個別の食品添加物ごとの使用基準は、多くの食品添加物に、使用の対象となる食品を特定したり、食品に対する使用量を決めるもので、基準類の中では特に馴染みの深いものである。
食品を特定するときは、使用可能な食品を指定する場合と、使用できない食品を指定する場合がある。
量的な面では、使用量の上限を定める場合と、食品中の残存量を定める場合がある。
食品添加物によって、これらを組み合わせたさまざまな形で使用基準が設定されている。
食品添加物および食品添加物の製剤では、使用基準が設定された食品添加物を含む場合は、その容器包装に関連する使用基準を表示することが義務づけられている。食品業者は、食品を製造あるいは加工する際には、この表示を参考に、基準に反しないように留意することが求められる。
食品添加物のうち、指定添加物の多くには使用基準が設定されている。一方、既存添加物の大半には使用基準は設定されていない。これは、食品添加物としての使われてきた経緯の違いがある。指定添加物は、食品添加物として指定される際に、一日当たりの許容摂取量(ADI)が定められ、これに基づいて使用基準が設定されることが多かった。一方、既存添加物は、長い間指定制度の枠外にある食品添加物として開発され、公的には何の規制もなく使用されてきたことで、使用基準を設定する機会がなかったためと言える。
このような理由で、既存添加物および一般飲食物添加物には、使用基準が設定されていないものが多いが、中には、使用基準が設定されているものもある。既存添加物等であっても食品の製造・加工等に使用する際には、使用基準の有無に注意する必要がある。
その代表は、着色の目的で使用される色素類で、「着色料(化学的合成品を除く):着色料はこんぶ類、食肉、鮮魚介類(鯨肉を含む)、茶、のり類、まめ類、野菜及びわかめ類に使用してはならない」と、使用できない食品を規定する使用基準が設定されている。この色素類には、一般飲食物添加物の色素類や果汁なども含まれる点に留意する必要がある。
この他に、酸化防止の目的で使用されるグアヤク脂、製造・加工に必要不可欠な場合に限って使用が認められる酸性白土、カオリンなどの不溶性の鉱物性物質などがある。
なお、天然香料は、定義に示されているように、着香の目的に限って認められている食品添加物であり、使用基準は設定されていない。


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