食品添加物基礎講座(27)
食品添加物に関わる規格・基準(その3)
食品添加物の成分規格(2)
前回は、食品添加物の成分規格のうち品名から性状までについて説明したが、今回は確認試験と純度試験を中心に見直すことにする。
食品添加物の確認試験
確認試験は、その物質の特性を確認する試験であり、
「食品,添加物等の規格基準 第2 添加物」における通則31で次のように規定されている。
確認試験は、添加物を確認するのに役立つ試験であり、イオンの反応、官能基の反応、物理定数等について試験する。 |
このように、確認試験は、規定された食品添加物であることを確認するための同定試験法であり、成分規格の中では、純度試験と共に、試験の核となる重要な試験項目である。
この確認試験では、次のような試験が行われている。
・その物質に特有の反応による確認
・定性反応試験法による確認
・炎色反応による確認
・赤外分光スペクトルによる確認
・その他
定性反応試験法による確認
確認試験で大きなウェイトを占める試験法が、一般試験法にある定性反応試験法である。この試験法の項目数は30であり、その内容を大まかに分けると、次のようになる。
・金属塩の定性 10
・有機酸塩の定性 7
・無機(酸)塩の定性 12
・その他の定性 1
このうち、金属塩には、カリウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩などのように多くの食品添加物の確認に使われるもの、亜鉛塩のように対象となる食品添加物数が少ないものなど、さまざまである。これらの他にも、銅塩、鉄塩(第一鉄、第二鉄)なども含まれている。なお、アンモニウム塩の試験も陽イオンということから、ここに含めた。これらの金属塩の定性試験では、カリウム塩などのように炎色反応も確認法の一つとして採用されているものがある。この炎色試験は、一般試験法で試験方法が規定されている。
有機酸塩としては、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、乳酸塩など、多くの有機酸塩類が、共通性の高い塩類として定性反応試験法に組み込まれているが、リンゴ酸塩は、個々の成分規格で規定されている。また、安息香酸塩も試験法が定められている。
無機塩には、亜硝酸塩、亜硫酸塩(亜硫酸水素塩を含む)、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、リン酸塩など、食品添加物の品目数の多い塩類が含まれている。なお、塩化物もこの無機塩12項目に含めている。
その他の1項目は、過酸化物の定性である。
この定性試験法に試験法が収載されていない食品添加物品目については、それぞれの成分規格の中で試験方法が規定されている。
赤外分光スペクトルによる確認
赤外吸収スペクトルによる確認試験(以下IR法と表す)では、公表されている標準スペクトルと比較して、同一波長のところに同じような強度のスペクトルがあることを確認して物質の同定を行う方法が主体となってきている。この方法は、第7版食品添加物公定書の作成に際して採用されたものである。
しかし、従来から行われてきた、各品目で指定された波長(付近)に極大吸収があることにより、同定する方法も残されている。これは、異性体を持つ食品添加物、重合度などで吸収の強弱が変わる食品添加物をIR法で確認するには適した方法である。
IR法では、測定用の試料を調製する必要がある。この試料の調製方法としては、臭化カリウムに試料を混合して錠剤を作る方法が主体になってきた。この方法は、被験物質が固体の場合に適している。しかし、食品用の香料のように液体の場合には、試料の調製が難しく、溶液法、ペースト法、液膜法、薄膜法などが開発されてきている。
2007年3月30日に告示された「食品,添加物等の規格基準」の第2添加物の部分の全面改正によると、新しく成分規格が設定された既存添加物を中心に、標準スペクトルとの比較によるIR法を採用する品目が大幅に増えており、60品目が対象になっている。
確認試験も確実に実施を
食品添加物のメーカーでは、一つの物質を専門の設備で製造している場合も多い。このようなメーカーでは、製品が、成分規格の確認試験に合格することは当然と考えて、試験を省略していることがあるようである。
ところで、食品添加物が成分規格に合格しているか否かについての判定基準が、通則1に定められていることは、先に説明したとおりである。
ここで定められているように、確認試験も、成分規格への合否判定の大切な試験のひとつである。
したがって、いくら純度試験が成分規格を満足する良い数値であっても、確認試験に合格しなければ、食品添加物として成分規格に合格しているとは、言えないわけである。
かつて、メーカーから、確認試験が不適切という理由で試験法改正の要請が出されたことがある。これは、確認試験をしてみたところ、成分規格の試験法では確認できなかったという理由からであった。公的な機関あるいは登録検査機関で、その食品添加物の合否を確認していれば、不合格とされたはずである。このことからも、専用装置で作っているからという理由で、社内で試験をしないに拘わらず、確認試験に合格するはずと考えることは、危険であることを示している。全ロットとは言わないが、計画的に確認試験も行うことが必要である。
食品添加物の純度試験
純度試験は、融点や屈折率のようなその物質の特性を示す数値の幅や、重金属などのようにその物質に混在する不純物などの限度を定め、その試験方法示すものである。
一般的には、食品添加物の成分規格の中心になっているのが純度試験である。この純度試験は、確認試験の場合と同様に、通則34で次のように説明されている。
純度試験は、添加物中の混在物の試験であり、通例、混在を予想される物質の種類その量の限度を規定する。 |
ここで示されているように、食品添加物に混在するおそれのある物質をチェックするのが、純度試験の主要な目的になっている。多くの品目で、重金属やヒ素の限度が規定されていることは、混在物に関する試験がこの純度試験に占める位置を示しているといえよう。
実際の純度試験には、このような混在物の試験とともに、食品添加物自体に固有の物性値を測定することにより、一定の純度範囲内にあることを確認する試験項目も含まれている。
この純度試験は、次のような試験で構成されている。
・金属類の限度
食品添加物として使用されたときに混入が望ましくないとされる重金属、鉛、ヒ素、カドミウムなどの金属類
食品添加物の製造工程で混入が考えられるカルシウムなどの金属類
・無機塩類の限度
食品添加物の製造工程で使用され、残存が考えられる塩化物、炭酸塩、硫酸塩などの無機塩類
・溶媒類の限度
食品添加物の製造に使われて残存することが考えられる酢酸エチル、2-プロパノール、メタノールなどの溶媒類
・溶解性とその状態の観察および測定
溶状、液性(pH)など
・物性値の限度あるいは幅
食品添加物の純度によって値が変わる物性値(融点および凝固点、沸点、比重、屈折率、吸光度、比旋光度など)
・特性値の限度あるいは幅
エステル類などにおける酸価、ケン化価、エステル価、水酸基価、ヨウ素価など
・クロマトグラフィーなどによる確認
ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーなどによるピーク、スポットによる不純物等の確認
・その他
このようなさまざまな試験が、純度試験として規定されている。
それぞれの試験方法に関しては、各食品添加物の成分規格で規定されているが、塩化物試験法、硫酸塩試験法、重金属試験法、鉛試験法、ヒ素試験法などいくつかの品目に共通する試験法は、確認試験における定性反応試験法と同様に、一般試験法として採用されている。また、試験に使われる測定方法も、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、凝固点測定法、原子吸光光度法、pH測定法などのように、一般試験法として採用されているものが多い。
金属に関する試験における鉛と重金属
従来、金属の試験で最も重要視されてきた試験が重金属試験である。
この重金属の試験は、重金属類を鉛として測定したときの限度値を試験する方法である。試験は、試料の溶液と一定量の鉛を含む標準液を用いて、同じ操作を行ったとき、試料液と標準液による比較液を比べたとき、その液の濁り方により、規定されている量より多いか否かを判断する方法である。常に比較する液があるため、比較的習熟しやすい試験法である。このために、長い間試験法として使われているものである。
ところが、近年、人体に対する鉛の危険性が研究され、国際的には、鉛の限度値が低く抑えられるようになってきている。また、カドミウムなど鉛以外の金属についても、限度値を定める方向で検討が進められている。これらの金属の限度値は低く抑えられるため、微量分析が可能な原子吸光度測定による方法が採用されることになる。
原子吸光度測定法は既に一般試験法として採用されており、鉛試験法もこの原子吸光度の測定によって規格の合否を判定する形で一般試験法に採用されている。
原子吸光度測定装置は高額なため、中堅の企業に普及するのに時間がかかったこともあり、第六版食品添加物公定書の時代までは、鉛の限度値が設定されている成分規格は少なく、便宜的に鉛の量で代表する重金属の限度値を、国際的な基準値の半分にする形で対応されてきたものが多かった。
しかし、原子吸光度の測定装置が普及するにしたがって、次第に鉛の限度値が設定される傾向にあり、3月30日の全面改正に伴って、これまでに比べて大幅に増えている。
ヒ素の試験とその限度値
日本で、食品添加物に成分規格が設定されるようになったきっかけは、食品添加物に工業用の薬品を使用した際にヒ素が含まれていたことにより、大量の中毒事故が発生したであったことであった。このことから、ヒ素は成分規格の必須項目と見なされてきた経緯がある。近年もインドなどでヒ素による食品事故が報じられている。しかし、欧米では、ヒ素による事故は少ないようであり、国際的な専門家によるJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)におけるの近年の成分規格検討で、ヒ素の試験を設定しないものや削除するものが増えている傾向が見られる要因となっている。
日本では、国際規格との整合化の検討に際してヒ素試験の削除が議題になっても、先に触れた経緯から消費者から重要視されてきたこともあり、ヒ素試験を削除することは、ほとんど行われていない。
ところで、ヒ素の限度値は、国際的には3mg/kgとされることが多いが、日本では4.0μg/gとなっている。一見、日本の規格が緩いように見えるが、これは、基準が異なるためである。国際規格はヒ素(As)としての数値であり、日本では試験法から無水亜ヒ酸(As2O3)としての数値で規定していることから生じた違いであり、実質的には差はない。このことは、輸出入に携わる人は特に念頭に置いておいて欲しいものである。
残留溶媒の規制
食品添加物、特に天然物から取り出される既存添加物などでは、有効成分を取り出すためにさまざまな溶媒が使われている。多くの場合、使用した溶媒は、分別や蒸留などで除去されているが、製品中に残存する場合もある。
必要な場合には、このような残留溶媒の限度量を規定している。成分規格では、残留溶媒とはせず、使用されて残存する可能性のある溶媒ごとに認められる残存量を規定する形が採られている。
ところで、残留溶媒に関しては、成分規格以外の定めもある。それは、食品添加物の「製造基準」で定められているものである。天然香料および天然香料と同様の基原物質から取り出される既存添加物には、使用する溶媒に関する制限があり、さらにその一部には、残存量の規定がある。その最少量はヘキサンで25μg/gと規定されている。ただし、個別の成分規格の場合と異なり、試験法は示されていない。この製造基準における溶媒の規制が告示され、第7版食品添加物公定書に収載された段階では、これらの残留溶媒の検出および定量的な分析法は定められていなかった。このため、試験機関では、公表されているいくつかの研究文献を参考にして分析していたようである。この招待は、今後も続くようである。
その他の試験
確認試験および純度試験以外に、独立して規定されている試験項目がある。それは、次のようなものである。
乾燥減量および強熱減量、水分
強熱残分、灰分
微生物限度
このうち「乾燥減量」と「強熱減量」は、所定の乾燥方法あるいは強熱方法で処理したときの減量を規定するものであり、多くの場合は無水物に相当する状態まで乾燥(強熱)している。しかし、硫酸アルミニウムカリウムなどでは、無水物にはならず、安定した結晶水を持つ形にまでの乾燥となっている。特別な処理を必要とする場合を除き、一般試験法に則って試験されている。
「水分」は、乾燥では正確な数値が得られにくい品目で、カールフィッシャー法によってその水分量を測定するものである。試験法は一般試験法に沿うことが原則となっている。
また、この乾燥減量や水分の操作条件は、定量法で、乾燥後定量する場合や無水物換算する場合の操作条件としても使われることになっている。
「強熱残分」は、かつては「強熱残留物」という試験項目であったもので、第7版から名称が改められたものである。この強熱残分は、燃焼の最終段階で硫酸を加えることによって燃焼しない金属等の成分を比較的安定な硫酸塩にして測定するものであり、「灰分」は硫酸を加えず、燃焼させることによって生ずる金属を主体とする成分を酸化物の形で、捕捉するものである。
多くは、強熱残分で規定されているが、新しく成分規格が設定される既存添加物などでは、海外の規格に合わせた形で、灰分として規定される傾向もある。
強熱残分と灰分は硫酸塩か酸化物かの違いであり、通常は換算することにより海外の規格と比較することも可能である。このことを考慮すると、国内規格は、いずれかに統一されることが、不要な間違いを未然に防ぐ意味からも望ましいといえよう。
微生物限度は、既存添加物のように天然物を基原とする食品添加物で、原料に由来する微生物による危害を防ぐ目的で設定される試験項目である。そのきっかけは、第7版食品添加物公定書に酵素と天然系の増粘安定剤が収載されることになったことであり、今後の既存添加物の成分規格設定に際しても規格が設定されることが予想される。
(この項 了)
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