食品添加物基礎講座(28)
食品添加物に関わる規格・基準(その4)
食品添加物の通則と一般試験法
「食品,添加物等の規格基準」の「第2添加物」では、成分規格に関連する規定の他に、製造基準、使用基準が定められていることは、既に説明したとおりである。また、食品添加物の成分規格の構成とその概要を、2回にわたって説明した。今回は、成分規格の試験で使われる一般試験法、判定基準などを定める通則などを見直すことにする。
 
食品,添加物等の規格基準における通則
食品添加物の品質を確保する成分規格に関連する部分の主体が、成分規格・保存基準各条である。この成分規格で規定する試験全般に関わるさまざまな事項を規定するものが、はじめに規定される「通則」である。
通則には、これまでの説明に引用してきた、確認試験や純度試験の意味などが規定されている。その他にも次の様なさまざまな事項が規定されている。
・合否判定の基準の規定
・計量の単位の規定
・標準温度の20℃規定と共に、温度に関する表記での温度範囲の規定
・濃度に関する用語と規定
・用語に関する定義
・試験に要する時間の規定
・試験方法に関する規定
・試験に使用する水、ろ紙、ネスラー管の規定
・容器に関する規定
 
このうち、用語に関しては、加熱、冷後、減圧、恒量などを定義し、酸・アルカリの強さを示す用語、溶解性を示す用語、澄明性・濁りに関する用語などについても規定している。
 
このようにいろいろと規定されている中で、食品添加物に関わる企業にとって、特に気をつける必要のある規定には、次のようなものがある。
・性状のうち形状を除き、成分規格の全てに合格してはじめて食品添加物として適となる。(通則1)
・含量・力価の規定に上限が定められていない場合は、100.5%を上限とする。(通則40)
・性状で白色と定められている場合、「白色」または「ほとんど白色」を合格とする。無色の場合は「無色」または「ほとんど無色」を合格とする。(通則27)
・性状やその他の試験で、においがないと定められている場合、「においがない」または「ほとんどにおいがない」ものを合格とする。(通則28)
 
確認試験は、前回説明したように、合否判断の対象となっている。専用プラントで製造している場合など、長い期間試験を省略している場合が認められる。少なくとも定期的に確認する必要がある。
含量の上限に関しては、食品添加物では100.5%とすることが国際的に採用されている。医薬品では日本薬局方のように101.0%を上限としている場合があり、特にビタミン類や必須アミノ酸類などでは注意を要する場合がある。
白色あるいは無色という場合、食品添加物としての安全性と効果に影響のない範囲でのぶれを認める形で規定されている。それだけ合格範囲が広いことになるが、少々のぶれでも最終食品に影響すると主張されるユーザーに対して安定供給するときは、前もって充分な打ち合わせが必要である。臭いの有無に関しても同じことが言える。
 
2007年3月30日に食品・添加物等の規格基準のうち、添加物の部が全面改正された。その際、通則では、冷所と冷水に関して、温度範囲が次のように改正されている。
冷所:15℃以下 → 1〜15℃
冷水:15℃以下 → 10℃以下
この改正によって、試験が大きく変わることはないが、冷水で冷却などと決められている場合、水道水ではなく氷水などを使って冷やす必要が出るなど、試験環境の見直しが求められることも出てくる。
 
一般試験法
食品,添加物等の規格基準で通則に続いて規定されるものが一般試験法である。
一般試験法には、次の43項目がある。
 
1 亜硫酸塩定量法
2 イオンクロマトグラフィー
3 液体クロマトグラフィー
4 塩化物試験法
5 炎色反応試験法
6 灰分及び酸不溶性灰分試験法
7 ガスクロマトグラフィー
8 カルシウム塩定量法
9 乾燥減量試験法
10 凝固点測定法
11 強熱減量試験法
12 強熱残分試験法
13 屈折率測定法
14 原子吸光光度法
15 香料試験法
16 紫外可視吸光度測定法
17 色価測定法
18 重金属試験法
19 水分測定法 (カールフィッシャー法)
20 赤外吸収スペクトル測定法
21 濁度試験法
22 タール色素試験法
23 タール色素レーキ試験法
24 窒素定量法
25 定性反応試験法
26 鉄試験法
27 鉛試験法 (原子吸光度測定法)
28 粘度測定法
29 薄層クロマトグラフィー
30 発生ガス測定法
31 pH測定法
32 比重測定法
33 微生物限度試験法
34 比旋光度測定法
35 ヒ素試験法
36 沸点測定法及び蒸留試験法
37 メトキシ基定量法
38 融点測定法
39 誘導結合プラズマ発光光度測定法
40 油脂類試験法
41 硫酸塩試験法
42 硫酸呈色物試験法
43 ろ紙クロマトグラフィー
 
このように、様々な時点で共通して使用される試験法がまとめられている。多くの場合は、次のように、使用される試験項目が特定されている。
確認試験で使われるもの:定性反応試験法
純度試験で使われるもの:塩化物試験法、重金属試験法、ヒ素試験法、硫酸塩試験法など
それぞれ対応する試験項目で使われるもの:強熱残分試験法、灰分及び酸不溶性灰分試験法、水分定量法、微生物限度試験法など
定量に使われるもの:亜硫酸塩定量法、カルシウム塩定量法や色価測定法など
 
なお、各種のクロマトグラフィーや原子吸光光度法などのように、装置を用いる試験法は、確認試験、純度試験、定量法のいずれでも使用される試験法である。融点測定法なども、純度試験だけではなく確認試験で使われることがある。
 
さらに、食品添加物はいくつかのグループに分けることができるが、それぞれのグループに特有の性質から、試料が多量に必要とされる、水に溶けにくい、特別の前処理が必要であるなど、一般試験法の既述のままでは試験が難しい純度試験がある。このため、試験法に前処理や溶媒の種類の変更などの改良を加えた試験法を、グループ毎にまとめて、香料試験法、タール色素試験法、タール色素レーキ試験法、油脂類試験法としている。
 
一方、発生ガス測定法は、合成膨脹剤の試験にだけつかわれるものであるが、合成膨脹剤には、一剤式合成膨脹剤、二剤式合成膨脹剤、アンモニア系合成膨脹剤の3種類があることから、一般試験法として採用されているものである。
 
ところで、これらの試験法のうち、次のものは名称が変更されている。試験法を確認する際に注意する必要がある。
原子吸光光度法(原子吸光測定法から改称)
紫外可視吸光度測定法(吸光度測定法から改称)
沸点測定法及び蒸留試験法(沸点及び留分測定法から改称)
メトキシ基定量法(メトキシル基定量法から改称)
この改称に伴い、成分規格各条における準拠すべき試験法の名称が変更されている。これらの変更は、日本薬局方における試験法名称との整合性を図るとともに、試験法の実態をより正しく表すことを目的とされたものである。
 
試薬・試液等
成分規格と一般試験法で様々な試験が規定されるが、この試験に使われる試薬などを規定するものが、試薬・試液等である。この試薬・試液等には、次のような事項が規定されている。
1試薬・試液
2容量分析用標準液
3標準液
4標準品
5温度計
6ろ紙
7ろ過器
8ふるい
9検知管式ガス測定器
10付表 (ベルトラン糖類定量表)
11参照赤外吸収スペクトル
 
試薬・試液から標準品までは、試験・分析に直接使用する試薬類であり、温度計からガス測定器までは、試験に使用される器具類である。検知管式ガス測定器は、新たに2005年3月の亜酸化窒素の食品添加物指定に伴って採用されたものである。
付表のベルトラン糖類定量法は、D-ソルビトールやD-マンニトールに混入する還元性の糖類は、限度試験で確認されているが、定量的な数値を求める場合には、この表を参考に算出することが可能になる。
参照赤外吸収スペクトルは、1999年の改正時点に加えられたものにおける参照スペクトルとの比較法の採用に伴うものであり、2007年3月30日の改正で大幅に増加している。
 
食品添加物の保存基準
「食品,添加物等の規格基準」で、保存基準は、成分規格・保存基準各条として、成分規格に付随する形で収載されている。
これは、食品添加物としての品質を保持するための保存条件を定めるものが保存基準であることを考えれば、成分規格の直後に記載するスタイルが採られていることが理解できる。
保存基準が設定されている品目とその条件の概要はは、次のとおりである。
アセトアルデヒド
容器にほとんど全満、不活性ガス置換、5℃以下
エルゴカルシフェロール
遮光密封容器、不活性ガス置換、冷所
β−カロテン
遮光密封容器、不活性ガス置換
コレカロシフェロール
遮光密封容器、不活性ガス置換、冷所
ナタマイシン
遮光容器、冷所
ナトリウムメトキシド
密封容器
ビタミンA油
遮光密封容器、不活性ガス置換
粉末ビタミンA
遮光密封容器
 
密封容器と遮光した容器は、前述した通則の容器の規定で、次のように定められている。
密封容器とは、通常の取り扱い又は貯蔵の間に空気又はその他のガスが侵入しないように内容物を保護する容器をいう。 (通則42)
 
遮光した容器とは、光の透過を防ぐ容器又は光の透過を防ぐ装置を施した容器をいう。 (通則43)
 
 
これらの保存基準は、開封前の食品添加物に限られる条件ではなく、開封後でも、その後で使用するために保管する際にも、同様の対応が求められるものである。したがって、不活性ガスで置換することが定められている場合は、一旦開封し、残りを後日使用するために、一部を保管する際にも不活性ガスで置換する必要がある。品質を維持するために注意することが求められている。
また、冷所での保管については、前述のとおり通則の改正に伴い、温度範囲が1〜15℃とされ、氷点下のような1℃未満は範囲外となっている。温度条件にも、注意する必要がある。
 
ところで、既存添加物名簿収載品目リスト注解書(以下リスト注解と略記する;日本食品添加物協会刊)では、保存上の注意欄で、「密封して保存」、「冷暗所に保管」、「冷暗所に密閉保存する」などと既述されているものがある。保存容器に密封容器の他に、気密容器、密閉容器などが使われている。これらは、日本薬局方では、次のように定められている容器であるが、食品添加物に関しては規定がないものである。
 
密閉容器:通常の取扱い、運搬又は保存状態において、固形の異物の侵入を防ぐことができ、内容医薬品の損失を防ぎうる容器
気密容器:通常の取扱い、運搬又は保存状態において、固形又は液状の異物が侵入せず、内容医薬品の損失、風解、溶解又は蒸発を防ぎうる容器
 
このように、密封容器が最も条件が厳しく、気密容器、密閉容器の順に緩くなる。このため、リスト注解では、容器として、密封容器を条件とすることは少なく、密閉容器が多く採用されている。
その中で、密閉容器あるいは密閉保管が条件とされている品目もいくつかある。それらは次のものである。
イナワラ灰抽出物、ウルシロウ、エレミ樹脂、
オウリキュウリロウ、オポパナックス樹脂
オレガノ抽出物、カカオ色素、ガストリックムチン、カタラーゼ、カテキン、カニ色素、
α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、
カルナウバロウ★、カンデリラロウ★、
酵素分解レシチン★、コパイババルサム、
コーパル樹脂、ゴマ柄灰抽出物、ゴム、ゴム分解樹脂、コメヌカロウ、サトウキビロウ、
シェラック(白シェラック、精製シェラック)★、
シェラックロウ、貝殻焼成カルシウム★、
植物レシチン★、スクレロガム、ダイズ灰抽出物、タウマチン★、ツヤプリシン(抽出物)★、低分子ゴム、生ダイズ抽出物、ニュウコウ、白金、
パフィア抽出物、パラジウム、
パラフィンワックス★、フィチン(抽出物)、
分別レシチン★、粉末パルプ、粉末モミガラ、
ベニコウジ黄色素、ベニコウジ色素★、
ベニバナ黄色素★、ペパー抽出物、ベンゾインガム、ホコッシ抽出物、ホホバロウ、
マイクロクリスタリンワックス★、マスチック、
ミックストコフェロール★、ミツロウ★、ミルラ、
モクロウ、モンタンロウ、ラノリン★、ロシン
 
なお、品名右肩に*印があるものは第2次消除予定リスト収載品目、品名の後に★印があるものは成分規格が設定されている品目である。
 
★印がある既存添加物で、保存基準が設定されているものはない。しかし、安定性、品質の維持の点から見ると、ミックストコフェロールと似た既述のあるトコトリエノール、d-α-,d-β-,d-γ-の各トコフェロールを含めて取り扱いには注意が必要と考えられる。
冷暗所での保管を推奨している品目は、さらに多くなっている。既存添加物などに関しては、保存基準が設定されているか否かに関わらず、保存の仕方に注意する必要がある。
 
(この項 了)


ホーム 参考資料 に戻る。