食品添加物基礎講座 (その3)
食品における原材料等の表示
加工食品の製造・加工に際して使用した食品添加物を原則としてすべて表示する規定が設けられてから、すでに20年が経過し、実際に全面的な表示実施されてからも20年になろうとしている。
この食品添加物の表示は、食品衛生法の規定によるもので、食品の製造等に使用した原材料表示の一環として行われることになっている。この食品添加物の表示について見直す前に、今回は、変動を続ける加工食品における原材料などの表示について見直してみよう。
消費者庁の発足と食品の表示
2006年から2008年にかけて、食品での表示内容にさまざまな問題、いわゆる食品偽装、が発覚し、消費者の信頼を大きく失墜することになった。
さらに、中国に製造委託していた食品に意識的に農薬が混入され、販売・消費された日本で健康被害者が出るなど、食品の安全に関する問題も発生した。
食品以外に目を転じても、電気製品、ガス器具からエレベーターまで、消費者の健康に支障をきたし、中には死にまで至る、さまざまな重大な事故が発生していた。
このような消費者に被害をもたらす可能性のある製品等を一元化した管理・監督を行える省庁を設けるべきとの要望に応える形で、消費者庁が設置されることになり、2009年9月1日に内閣府の外局としての消費者庁が発足した。
この結果、食品衛生法や健康増進法など厚生労働省の管轄の規定、後述する農林水産省の管轄であるJAS法に基づく規定などは、食品の表示の部分に関しては、消費者庁が一元的に管轄することになった。
食品衛生法に基づく原材料等の表示の原則
食品衛生法では、食品や食品添加物などで表示を必要とする事項に関しては、法第19条で、内閣総理大臣が規定を設けることができると定められている。
この規定に基づいて、表示に関する内閣府令が出されることになる。しかし準備が整わなかったことから、内閣府令の告示が遅れており、2010年2月の時点では、厚生労働大臣の管轄下に出された厚生労働省令、食品衛生法施行規則の第21条の規定で運用されている。
食品衛生法施行規則で定められた原材料に関する表示の基準は、基本的には、次のようなものである。
・食品の名称
・食品製造に用いた原材料の名称
遺伝子組換え技術による原材料に関する表示
アレルギーに関する特定原材料等に関する表示
食品添加物の表示
・期限に関する表示(消費期限、賞味期限)
・原料原産地・原産国
・保存方法
・製造者(又は販売者)の住所および氏名
所定の届け出をしている場合は、固有記号による製造所の表示
輸入食品においては、輸入者の住所および氏名
なお、内容量に関しては計量法で定められている。
これまでは、1979年(昭和54年)11月8日付けの厚生省環境衛生局長通知「食品衛生法に基づく表示指導要領」(環食第299号)により指導されてきたが、この通知は、消費者庁の発足に伴って、1985年(昭和60年)7月8日付け生活衛生局長通知「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令に基づく表示について」(衛乳第29号)とともに廃止され、2009年(平成21年)9月17日付けで消費者庁次長の通知「食品衛生法に基づく表示について」(消食表第8号)が発せられ、この通知による指導・監視が行われることになる。なお、厚生省および厚生労働省から発せられたそのほかの通知類は、当面は、読み替えを行うことで対応することとされている。
加工食品においては、次項のように、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)に基づいて定められた品質表示基準による表示方法の規定があり、この規定と上記の食品衛生法に基づく表示を合わせた形で表示することになる。
JAS法で品質表示基準が定められている加工食品
JAS法では、個別に製品の規格化の一環としていわゆるJAS規格が設定されているが、品質の表示の面では、個別食品での品質表示基準および、そのたの食品に対する加工食品品質表示基準が定められている。
これらの表示の基準設定に関しては、食品衛生法の場合と同様に、内閣総理大臣が定めることが規定されている。
個別に表示方法が定められている加工食品類は、次のとおりである。
即席めん類、生タイプ即席めん、乾めん類、
手延べそうめん類、マカロニ類、パン類、
みそ、しょうゆ、風味調味料、めん類等用つゆ、
食酢、ドレッシング、ウスターソース類、
トマト加工品(ピューレ、ペーストを除く)、
にんじんジュース及びにんじんミックスジュース、
乾燥マッシュポテト、乾しいたけ、野菜冷凍食品、さくらんぼ砂糖づけ、農産物漬物、
果糖、凍豆腐、ジャム類、
果実飲料、炭酸飲料、豆乳・調整豆乳及び豆乳飲料、
乾燥わかめ、塩蔵わかめ、
うに加工品、うにあえもの、うなぎ加工品、
削りぶし、煮干魚類及び煮干魚類粉末、
食用植物油脂、精製ラード、マーガリン類、
ショートニング、アイスクリーム、
ハム類、プレスハム、混合プレスハム、ベーコン類、ソーセージ、混合ソーセージ、
魚肉ハム及び魚肉ソーセージ、
乾燥スープ、
農産物缶詰及び農産物瓶詰、
畜産物缶詰及び畜産物瓶詰、
調理食品缶詰及び調理食品瓶詰、
チルドハンバーグステーキ、チルドミートボール、チルドぎょうざ類、
調理冷凍食品、レトルトパウチ食品
なお、塩干魚類と塩蔵魚類の個別の品質表示基準は2004年9月に廃止され、一般の加工食品品質表示基準に移行している。
また、特殊包装かまぼこ類、風味かまぼこに関しては、2009年9月30日に個別規定が廃止され、一般の加工食品品質表示基準に移行している(移行措置期間は2011年3月31日まで)。
これらの加工食品では、食品原材料の表示方法などが個々に定められているので、表示に際しては食品衛生法の規定およびJAS法の総括的な加工食品に対する規定以外にも、これらの規定を確認して、正しく表示する必要がある。
食品の名称
食品に記載することになっている食品の名称とは、旧厚生省による1979年の「食品衛生法に基づく表示指導要領」(昭和54年11月8日 環境衛生局長通知 環食第299号)の別添2に、食品の大分類、中分類および小分類に分けて例示されてきた。この通知は、前述したように消費者庁の発足に伴って廃止され、2009年(平成21年)9月17日付けの消費者庁次長の通知「食品衛生法に基づく表示について」(消食表第8号)に改められている。
この消費者庁の通知に例示されている食品の分類は、従前の分類と変わりなく、酒類を含めてさまざまな加工食品が収載されている。しかし、パン類に関しては、ジャムパンなどの菓子パンが大分類の生菓子の下に、中分類として例示されているものの、食パン、バーンズなど一般的なパンに関しては例示されていない。このため、パンに関しては、社会的通念での分類名称またはJAS法で分類した名称で記載されていることが多い。
遺伝子組換え技術を用いた原材料に関する表示
2001年(平成13年)4月1日から、遺伝子組換え技術を使用した品種が存在する農産物を使用した場合には、遺伝子組換え技術を使用しているか否かに関する情報を提供するための表示を行うことになっている。
現在は、食品衛生法施行規則で、次の7品目の農産物が表示の対象になっている。
大豆、トウモロコシ、馬鈴薯、菜種、綿実
(以上、当初から指定の5品目)
アルファルファ、てん(甜)菜
(以上、追加指定の品目)
この農産物の品目は、今後も、新たに遺伝子組換え技術を使用した品種が開発されることが考えられる。その際には、その状況に応じて増えていくことになる。
このような遺伝子組換え技術による品種がある農産物は、次のような区分で、遺伝子組換え技術を使用したものか否かを表示することになっている。
・遺伝子組換え技術を使用した原材料を使用した食品:
「遺伝子組換え」、「遺伝子組換えのものを分別」等と表示する。
・原材料を分別していない原材料を使用した食品:
「遺伝子組換え不分別」等と表示する。
・原材料を分別して不使用の原材料のみを使用した食品:
表示は不要とする
ただし、不使用の旨(「遺伝子組換えでない」等)を表示すること(任意表示)も可能とされている。
この遺伝子組換え技術を使用した食品の表示に関しては、2001年(平成13年) 3月21日に厚生労働省から通知され(食企発第3号・食監発第47号)、Q&A方式で解説されている。
また、農林水産省からも品質表示基準で表示することの徹底を通知されている。
表示する際には、これらの通知を参考にして、正しい表示を行う必要がある。
アレルギーに関する特定原材料等に関する表示
食品に使用した原材料およびその原料に、アレルギーを発症させる可能性があるとされている原材料を使用した場合には、遺伝子組換え技術を使用した原材料の場合と同様に、2001年4月1日から次の基準の下、表示を行うことになっている。
・必ず表示する(表示義務がある)原材料:特定原材料
次の7種類の原材料は必ず使用した旨を表示する。
えび、かに
乳(生乳、牛乳、加工乳を含む)
ただし、山羊乳、めん羊乳等は除く
卵(鶏卵、あひる卵、うずら卵を含む)、
小麦、そば、落花生(ピーナッツ)
・表示することが推奨されている(任意表示)の原材料
この特定原材料に準ずる原材料は、次の18種類である。
牛肉、鶏肉、豚肉、ゼラチン
あわび、いか、さけ、いくら(筋子を含む)、さば、
オレンジ(うんしゅうみかん、夏みかん、はっさく、グレープフルーツ等は除く)、
キウイフルーツ、くるみ、
大豆(枝豆、大豆もやし、黒豆を含む)、
バナナ、まつたけ、もも、やまいも、りんご
特定原材料と、表示することが推奨される原材料を合わせて「特定原材料等」という。
特定原材料7品目のうち、エビとカニは表示推奨の品目であったが、2008年6月に新たに特定原材料に指定された食品素材である(移行措置期間2010年6月3日まで)。この指定に際して、それまでは、エビを狭義に解釈し、表示推奨の対象外とされてきたアメリカザリガニやイセエビなどのザリガニ類も、エビに含まれることとされた。この点には注意する必要がある。
ところで、たとえば、原材料の欄にバター、チーズ、クリーム、ヨーグルトなどと表示されていれば、購入者は、牛乳など「乳」を主要な原料にしていることを理解できるので、改めて「乳」を使用している旨を表示する必要はないとされている。このような表示方法を代替表記という。
この代替表記が可能な特定原材料等の記載名称などは、通知で示されている。
たとえば、味噌や醤油は、大豆を原料とした食品として認識され得るものとされている。一方、同じ味噌、醤油などには、小麦もしばしば原料として使われているが、味噌あるいは醤油と書いただけでは、小麦は想定できないとして、小麦を使用している旨の表示は必要であると説明されている。
このアレルギー物質を含む食品に関する表示方法については、厚生労働省から通知(平成13年3月21日食企発第2号・食監発第46号)の別添2としてQ&A方式の解説がある。現在は、消費者庁のホームページ(食品)から見ることもできるので、表示する際には、必要に応じてその通知をチェックすることが望まれる。
なお、この通知も、農林水産省総合食料局品質課に連絡され、同課から食品関係団体へも連絡されている。
原産地・原産国の表示
JAS法によって、生鮮食品および一部の加工食品に関しては、その原産地(輸入品にあっては原産国)を表示することが、定められている。
この原料の原産地表示に関する規定を持つ個別の品質表示基準がある加工食品には、次のものがある。
野菜冷凍食品、農産物漬物、
うなぎ加工品、削りぶし
さらに、加工食品品質表示基準で、生鮮食品に近い食品の主な原材料(原料に占める割合が50%以上のもの)について、原料原産地を表示することが定められており、現時点で22の食品分類になっている。
規定のある食品は、次のとおりである。
1 乾燥きのこ類、乾燥野菜及び乾燥果実(フレーク状又は粉末状にしたものを除く。)
2 塩蔵したきのこ類、塩蔵野菜及び塩蔵果実(農産物漬物品質表示基準(平成12年12月28日農林水産省告示第1747号)第2条に規定する農産物漬物を除く。)
3 ゆで、又は蒸したきのこ類、野菜及び豆類並びにあん(缶詰、瓶詰及びレトルトパウチ食品に該当するものを除く。)
4 異種混合したカット野菜、異種混合したカット果実その他野菜、果実及びきのこ類を異種混合したもの(切断せずに詰め合わせたものを除く。)
5 緑茶及び緑茶飲料
6 もち
7 いりさや落花生、いり落花生、あげ落花生及びいり豆類
8 こんにゃく
9 調味した食肉(加熱調理したもの及び調理冷凍食品に該当するものを除く。)
10 ゆで、又は蒸した食肉及び食用鳥卵(缶詰、瓶詰及びレトルトパウチ食品に該当するものを除く。)
11 表面をあぶった食肉
12 フライ種として衣をつけた食肉(加熱調理したもの及び調理冷凍食品に該当するものを除く。)
13 合挽肉その他異種混合した食肉(肉塊又は挽肉を容器に詰め、成形したものを含む。)
14 素干魚介類、塩干魚介類、煮干魚介類及びこんぶ、干のり、焼きのりその他干した海藻類(細切若しくは細刻したもの又は粉末状にしたものを除く。)
15 塩蔵魚介類及び塩蔵海藻類
16 調味した魚介類及び海藻類(加熱調理したもの及び調理冷凍食品に該当するもの並びに缶詰、瓶詰及びレトルトパウチ食品に該当するものを除く。)
17 ゆで、又は蒸した魚介類及び海藻類(缶詰、瓶詰及びレトルトパウチ食品に該当するものを除く。)
18 表面をあぶった魚介類
19 フライ種として衣をつけた魚介類(加熱調理したもの及び調理冷凍食品に該当するものを除く。)
20 4又は13に掲げるもののほか、生鮮食品を異種混合したもの(切断せずに詰め合わせたものを除く。)
これらのうち、緑茶飲料、あげ落花生は、2009年10月1日から完全実施に移行したものである。
有機食品等の表示
JAS法によって、農産物が、定められた有機栽培の基準に沿うものであると認定された場合に限って、有機農産物、有機食品である旨の表示を行うことが認められている。
有機食品として認められる加工食品では、使用できる食品添加物が限定されており、製造・加工に際しては十分留意する必要がある。
(2010年1月20日 加筆・改訂)
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