食品添加物基礎講座(30)
食品添加物に関わる規格・基準(その6)
食品添加物の表示
これまで、食品添加物の成分規格について、「食品,添加物等の規格基準」の「第2 添加物」における規定と「食品添加物公定書」の関係などを見てきた。これからは、このような規定に基づいて適正に製造された食品添加物の表示について見直すことにする。
食品添加物の表示に関する規定
食品および食品添加物の表示に関しては、食品衛生法で、次のように規定されている。
厚生労働大臣は、公衆衛生の見地から、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、販売の用に今日する食品若しくは添加物若しくは前条第1項の規定により規格若しくは基準が定められた器具若しくは容器包装に関する表示につき、必要な基準を定めることができる。
(食品衛生法第19条第1項) |
この規定に基づいて食品衛生法施行規則の第21条に表示方法が細かく規定されている。
食品添加物に関しては、食品衛生法とこの法律に基づく関連法規類に規定されているが、これら以外に、表示について規定を持つ法律及び省令などもある。それらには、次のようなものがある。
乳及び乳製品の成分規格に関する省令 (乳等省令)
健康増進法
健康増進法施行規則、栄養表示基準
農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律 (JAS法)
加工食品品質表示基準
不当景品類及び不当表示防止法 (景表法)
食品における原材料等の表示の原則
食品衛生法および食品衛生法施行規則、加工食品におけるJAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)に基づく品質表示基準等による表示方法等に規定されているおもな内容は次のとおりである。
食品衛生法における原材料に関する表示は、基本的には、次のよう事項を表示する。
・食品の名称・食品製造に用いた原材料の名称
アレルギーに関する特定原材料等に関する表示
遺伝子組換え技術による原材料に関する表示
食品添加物の表示:食品の原材料表示の一環として表示する。(ただし、JAS法で表示方法が定められている場合は、その規定に従う。)
・内容量・期限に関する表示(消費期限、賞味期限)
・原料原産地・原産国・保存方法
・製造所の住所および氏名
あるいは、
製造者(又は販売者)の住所および氏名
厚生労働大臣に届け出た、固有記号により製造所を表示
なお、輸入食品においては、輸入者の住所および氏名
食品添加物表示の原則
加工食品等使用した食品添加物は、次の原則に従って当該食品に表示する。
・食品添加物は、食品の原材料表示の一環として表示さする。
・食品添加物は、原則として使用したものを全て表示する。
ただし、加工助剤、キャリーオーバー(食品添加物製剤の副剤となるものを含む)となる食品添加物および栄養強化の目的で使用された食品添加物の表示は免除される。
・食品添加物の表示には、告示された品名(名称及び別名)、通知で示された簡略名・類別名、食品衛生法施行規則(別表第8)で定められた一括名(下記)のいずれかを用いる。
・食品衛生法施行規則(別表第5)に定められた使用目的に関しては、食品添加物の物質名と共に用途名(下記)を併記する。
・簡略名と類別名は、通知で示されているものに限る。
ただし、品名、簡略名・類別名の表示に際しては、誤認を与えない範囲内で、漢字、片カナ、平がなの中から選択して使用することが可能である。
・一括名は、食品衛生法施行規則別表第8で定められたものに限る。
・用途名は、食品衛生法施行規則別表第5で定められたものに限る。
・天然を強調する表示をしてはならない。
別表5で規定されているの用途名:
甘味料(人工甘味料)、着色料(合成着色料)、
保存料(合成保存料)、
糊料(合成糊料)(増粘剤、安定剤、ゲル化剤)、
酸化防止剤、発色剤、漂白剤、
防かび剤(防ばい剤)
別表8で規定されている一括名:
イーストフード、ガムベース、かんすい、苦味料、酵素、光沢剤、香料、酸味料、調味料、
チューインガム軟化剤、豆腐用凝固剤(凝固剤)、
乳化剤、pH調整剤、膨脹剤
表示が免除される加工助剤とキャリーオーバーに関しては、食品衛生法施行規則第21条第1項ホで、次のように説明されている。
加工助剤:食品の加工の際に添加されるものであって、当該食品の完成前に除去されるもの、当該食品の原材料に起因してその食品中に通常含まれる成分と同じ成分に変えられ、かつ、その成分の量を明らかに増加させるものではないもの又は当該食品中に含まれる量が少なく、かつ、その成分による影響を当該食品に及ぼさないもの。
キャリーオーバー:食品の原材料の製造又は加工の過程において使用され、かつ、当該食品の製造又は加工の過程において使用されない物であって、当該食品中には当該物が効果を発揮することができる量より少ない量しか含まれていないもの。
加工食品に使用した食品添加物を原則として全面表示することが決められた時点では、上記の加工助剤およびキャリーオーバーとなる食品添加物の使い方に具体的な基準がなかった。このため、食品添加物業界(日本食品添加物協会)は、日本食品衛生協会と共に食品業界団体と表示のための検討を行うため、「食品添加物表示懇談会」を結成して、当時の所轄官庁であった厚生省生活衛生局食品化学課の指導の下、加工助剤となる事例、キャリーオーバーの判断基準をとりまとめ、「食品添加物表示の実務」を刊行した。この中で、上述した基本的な表示の他に、業界内で遵守すべき諒解事項として、次の各項が定められている。
・使用目的が同一の場合は、まとめて、連続して表示する。
・用途名または一括名と物質名の併用使い分けはしない。
「着色料」による表示と「色素」名による表示の併用はしない。
明らかに同じ使用目的の食品添加物を、一括名と物質名を併用する表示はしない。
・同一類別名で表示できるものを、類別名と物質名に分けた表示はしない。
また、食品アレルギーの発症の原因となる抗原性物質に関しては、食品衛生法施行規則第21号第1項の「ヘ」および「ト」において、別表第6で指定された特定原材料に関しては、原材料の表示が義務づけられており、さらに、抗原性があるため、表示することが好ましいとして通知されている食品原材料もある。これらは、次のとおりである。
・表示が義務づけられている特定原材料(5品目)
乳(生乳、牛乳、加工乳を含む)(山羊乳、めん羊乳等は除く)、
卵(鶏卵、あひる卵、うずら卵を含む)、
小麦、
そば、
落花生(ピーナッツ)
また、次の2種類の原材料は、近いうちに、表示することを奨励する原材料から特定原材料に変更される予定である。
えび
かに
・表示することが推奨される特定原材料以外の原材料(20品目)
牛肉、鶏肉、豚肉、ゼラチン
あわび、いか、
(えび、かに:特定原材料に変更予定)、
さけ、いくら(筋子を含む)、さば、
オレンジ(うんしゅうみかん、夏みかん、はっさく、グレープフルーツ等は除く)、
キウイフルーツ、バナナ、もも、りんご、
くるみ、
大豆(枝豆、大豆もやし、黒豆を含む)、
まつたけ、やまいも、
なお、特定原材料と表示が推奨される原材料を合わせて「特定原材料等」といい、表示されている加工食品の名称から特定原材料等を判断できる場合は、その特定原材料等の表示は省略することができる(これを代替表記という)。
たとえば、バター、チーズ、ヨーグルトなどと表示すれば、購入者は、牛乳など「乳」を主原料にしていることが理解できる。
このため、改めて乳を使用している旨を表示する必要はないとされている。
このような、読み替え可能な食品原材料の記載名称は、通知で示されている。
この通知では、味噌や醤油は、「大豆を原料とした食品」として認識され得るものとされている。
このことから、「味噌(小麦)」と表示されている場合もある。この味噌は小麦だけを原材料に作られたものではなく、大豆と小麦を原材料に使用していることを示している。
さらに、遺伝子組換え技術を使用した食品原材料に関しては、食品衛生法第21条第1項の「メ」の(1)において、「分別生産流通管理」を行うべきものと規定し、同号(3)で、その旨を表示することが求められている。現在は次の7種の食品に遺伝し組換え技術を使用したものがある。
遺伝子組換え技術を用いた原材料
大豆、トウモロコシ、馬鈴薯、菜種、綿実、
アルファルファ、てん菜
この遺伝子組換え技術を使用することが考えられる原材料に関しては、次の基準で、遺伝子組換え技術を使用しているか否かに関する情報を提供するための表示を行う。
・遺伝子組換え技術使用の原材料を使用した場合:「遺伝子組換え」等を表示する。
・原材料を分別していない場合:「遺伝子組換え不分別」等を表示する。
・原材料を分別して不使用の場合:表示は不要とする。
(ただし、不使用の旨を表示することも可能)
分別生産流通管理を行ったにもかかわらず、意図せざる組換えDNA技術応用作物又は非組換えDNA技術応用作物の一定の混入があった場合に関する救済措置も定められている(食品衛生法施行規則第21条第1項第13号)。
JAS法における表示
食品の表示に関しては、厚生労働省が所管する食品衛生法の規定の他に、農林水産省が所管する「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(JAS法)に基づいた表示が定められている。
この規定で主要なものは、「加工食品品質表示基準」のであるが、JAS法に基づいて個別に表示基準が定められている食品もある。
加工食品品質表示基準に規定されている表示事項のうち、食品衛生法にない規定には次のものがある。
・素材食品と食品添加物の分別表示
・原材料は使用量の順に表示
・原料の原産地・原産国の表示
この規定で定められた原料原産地の表示では、主な原材料に関して原産地を次の基準で表示する。
国産品:「国産」又は都道府県名あるいは一般に知られている地名
輸入品:「原産国名」、水産物は水域の表示でも可
なお、主な原材料とは、原材料中50%以上を占める生鮮食品とされている。
この加工食品品質表示基準に関わらず、個別に基準が定められている加工食品には、次のものがある。
即席めん類、生タイプ即席めん、乾めん類、
マカロニ類、パン類、
みそ、しょうゆ、風味調味料、めん類等用つゆ、
食酢、ドレッシング及びドレッシングタイプ調味料、
ウスターソース類、
乾燥スープ、
農産物漬物、乾しいたけ、
トマト加工品(ピューレ、ペーストを除く)、
ジャム類、凍豆腐、農産物缶詰及び農産物瓶詰、
果実飲料、炭酸飲料、
豆乳類(豆乳・調整豆乳及び豆乳飲料)、
にんじんジュース及びにんじんミックスジュース、
乾燥わかめ、塩蔵わかめ、
うに加工品、うにあえもの、
うなぎ加工品、削りぶし、煮干魚類、
食用植物油脂、純製ラード、
マーガリン類、ショートニング、
ハム類、プレスハム、混合プレスハム、ベーコン類、ソーセージ、混合ソーセージ、
畜産物缶詰及び畜産物瓶詰、
魚肉ハム及び魚肉ソーセージ、
特殊包装かまぼこ類、風味かまぼこ
調理食品缶詰及び調理食品瓶詰
野菜冷凍食品、
チルドハンバーグステーキ、チルドミートボール、チルドぎょうざ類、
調理冷凍食品、レトルトパウチ食品
また、個別に原料原産地表示が定められている食品には、次の食品に関する品質表示基準がある。
野菜冷凍食品、
農産物漬物、
うなぎ加工品、
削りぶし
これらの個別に基準が定められている加工食品は、順次「加工食品品質表示基準」に合う形に改正が進められており、個別の品質表示基準が削除されることも考えられるので、農林水産省のホームページなどを活用して、常に新しい基準を把握するよう務める必要がある。
食品添加物および食品添加物製剤における表示
食品添加物に関しては、食品の表示に上乗せする形で表示すべき基準が、次のように定められている。
・「食品添加物」の文字
・食品添加物の名称
・食品添加物製剤の場合は、適切な製剤名称
製剤に食品添加物名称を冠した名称
製剤に用途名、一括名などを冠した名称
・成分規格において表示量に関する規定がある場合は、所期の含量
色価および酵素活性についても、同様に考える。
・ビタミンAの誘導体にあっては、ビタミンAとしての含量
・食品添加物製剤に用いた食品添加物の名称とその重量パーセント
ビタミンAの誘導体にあっては、ビタミンAとしての量
香料成分に関しては、表示を免除されている。
ただし、溶剤等については、所定の表示を行う。
・特定原材料等を原料とした場合は、所定の表示
・遺伝子組換え技術を使用した場合はその旨の表示
・アスパルテームまたはアスパルテームを含む製剤にあっては、L-フェニルアラニン化合物である旨またはこれを含む旨
・内容量・期限に関する表示(消費期限、賞味期限)
ただし、食品添加物に置いては表示の省略が認められている
・保存基準・使用基準
ただし、製剤名称等で、使用目的を特定している場合は、当該使用目的に関わる使用基準だけを表示することも可能
・製造所の住所および氏名
あるいは、
製造者(又は販売者)の住所および氏名
厚生労働大臣に届け出た、固有記号による製造所の表示も可能
なお、輸入食品においては、輸入者の住所および氏名(企業名)
食品添加物および食品添加物製剤を製造または販売するときは、この決められた表示が適正に行われているかを確認する必要がある。また、これらの食品添加物を使用する食品メーカーでは、正しく表示された製品を使用するよう務める必要がある。
(この項 了)
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