食品添加物基礎講座(31)
食品添加物に関わる規格・基準(その7)
食品における表示
前回は食品添加物の表示について見直したが、今回は実例から食品の表示を見直すことにしよう。
事例は、市販の加工食品における表示を書き写すものとする。ただし、製造者名、販売者名および所在地は○×△等で示す。
なお、JAS法に基づく加工食品の品質表示基準等では、使用している原材料を重量順に表示することが定められている。ここでは、この規定に沿って表示されていることを前提として検討を加えることにする。
食品表示の事例−1
名 称 |
ふくじん漬 |
原材料名
|
だいこん(中国)、なす(中国)、れんこん、なたまめ、しそ、ごま、とうがらし、
漬け原材料【糖類(ぶどう糖果糖液糖、砂糖)、アミノ酸液、食塩、醸造酢、しょうゆ、酒精】香料、増粘剤(キサンタン)、着色料(黄4、黄5、赤102)、(原材料の一部に小麦、大豆を含む) |
内 容 量 |
120g |
賞味期限 |
上部に記載 |
保存方法 |
直射日光、高温多湿を避けて保存して下さい |
製 造 者
|
○○○株式会社A
東京都××区△△1丁目6番8号 |
この表示に対応して、包装の上部に、次のような表示がある。
賞味期限/製造ロット番号
08. 3.12 /L73
この事例の表示では、
@食品の名称
A原材料名
B内容量
C期限に関する表示(賞味期限)
D保存の方法
E製造者とその所在地
が表示されており、形式的には、前回示した食品衛生法に基づく表示の基準を満たしている。この内容を少し詳しく見直すことにする。
まず、食品の名称である「ふくじん漬」は、一般的に使われている名称であるが、表示の名称としての可否を法的な面から確認する。1979年、当時の管轄官庁であった厚生省環境衛生局長の通知(環食第299号)にある「食品衛生法に基づく表示指導要領」の別表として示された食品分類の例示には、大分類「漬物」の中分類「しようゆ漬」に小分類として「福神漬」が所載されており、現在の所轄である厚生労働省が認めた名称といえる。また、JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)では、品質表示基準が定められた食品のうち、「農産物漬物」の一つとして「ふくじん漬け」が定義されている。このように表記が漢字か、かなかという違いはあるものの、食品衛生法、JAS法のいずれにも認められる名称といえる。
原材料名の表示では、「だいこん」から「漬け原材料」までが素材食品に該当し、「香料」以降が原材料として使われた食品添加物である。この両者の間に読点(、)あるいはスペースによる区切りが欠けてはいるが、JAS法(品質表示基準)で要求している区分表示も満たしている。
まず、食品衛生法で表示が義務づけられている食品添加物では、一括名で表示された香料、用途名との併記になる増粘剤と着色料が使われていることが表示されている。ところで、この事例では、着色料の物質名(簡略名)黄4、赤102などの数字が半角文字になっている。このように、数字が半角になっている事例はしばしば見受けられるものである。表示にしようできる簡略名に関しては1996年の生活衛生局長通知第56号の別紙1に示されている。この通知では、ローマ字および数字は全角で示されている。このため、厳密に言うと、事例は通知に反することになるが、この事例の様な場合、消費者に誤解を与える恐れがないこともあり、改善の指導を受けたという話は聞いていない。
ところで、漬け原材料の最後にある酒精は、一般飲食物添加物であるエタノールの簡略名でもあるが、食品として使用されたものか、食品添加物に該当するものかは、明確でないが、表示の位置からは食品として配合されているものと見られる。
JAS法の面からみると、福神漬けは、農産物漬物として個別に品質表示基準が設定されている食品である。この表示基準では、原材料の原産地に関する表示に規定がある。これが、素材食品の「だいこん」と「なす」に、それぞれ()付きで中国と示されている理由である。この表示は中国からの輸入原材料を使用していることを示している。
また、食品衛生法に基づくアレルギー発症の原因となるアレルゲン食品の表示に関しては、「原材料の一部に小麦、大豆を含む」という形で、特定原材料の小麦と表示推奨原材料である大豆の使用が明示されている。
内容量は、計量法によって正確な質量(いわゆる重量)を表示することが定められており、120gの表示の場合は、この量を下回ることは認められない。
期限の表示として、賞味期限が欄外(包装の上部)に記載する旨の表示があり、そのとおり表示されている。なお、賞味期限は、食品衛生法施行規則第21条第1項第1号ロで、次のように定められている。
定められた方法により保存した場合において、期待されるすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日をいう。ただし、当該期限を越えた場合であっても、これらの品質が保持されていることがあるものとする。 |
通常は、未開封で、メーカーが保証する保存期間が表示されるものであり、保存試験や過去の経験を基に、その最短期間に、さらに安全率0.6〜0.8を乗じて設定される。しかし、このようなデータを持たずに目安や小売りの要求を勘案して不必要に短期間の期限を設定したものの、表示の期限が切れた後でも品質に問題がないことから、日付を書き換えるなどの措置を採っていたことで表示に関する法規に違反ことが報道されている。正しい期限を設定した上での表示が求められる。
この期限に関する表示と同時にロット番号も表示されている。このロット番号の記載は、食品衛生法に基づく義務表示ではないが、食品衛生の確保の上から表示するよう指導されており、表示する際の表記方法については、関連通知(1979年通知、環食第299号)にも示されているものである。
保存方法は、期限に関する表示に関連するもので、表示された方法で保存した場合に、その表示の期限が保証されるものである。
保存に関しては、欄外に、「開封後は密封して冷蔵庫に保存し、なるべく早めにお召し上がり下さい。」という開封後の注意が記載されている。
一括して表示された最後は製造者の住所及び氏名である。法的には、製造所名とその住所を表示することが、第一になっているが、多くの場合は、この事例のように、製造者の企業名と本社の所在地が表示されている。この場合、厚生労働省に届け出た工場を示す固有記号を併記することになっている。この届け出は、かつては所轄保健所当てに行われていたものである。この事例では、製造者の社名の次に記されているAが固有記号である。
ところで、この表示にはゴシック体7.5ポイントの活字が使われている。表示には8ポイント以上の活字を使用することが定められており、この規定よりやや小さい活字が使用されている。このため、厳密に言うと違反と言うことになる。老若の区別なく誰にでも読みやすい表示という点からは、できるだけ大きいポイントの活字で表示されることが望ましいといえる。その点からも、規定に沿う活字を用いることが求められる。
この事例では、ここまで説明してきたように、規定された内容が表の形で、一括して表示されている。この他に、製品100g当りの栄養成分表示が行われている。この表示では、炭水化物に加えて食物繊維の表示があり、ナトリウムの表示に加えて食塩相当量も表示されている。
ここまで法的に定められた表示では、取り立てて問題となる違反はないものと見られる。
ところで、本品の包材の表側に、「保存料を使用していません。」と「グルタミン酸ナトリウムを使用していません」という食品添加物の使用の有無に関する表示が行われている。この内容は、法的な表示が行われている裏面にも一括表示欄以外の場所にも繰り返して表示されている。一見すると事実表示のように見受けられるが、製品の日持ちが良いために保存料を使用していないのであれば、わざわざ表示する理由はなくなる。また、重要な味質の調整に使われるグルタミン酸ナトリウムの不使用表示は、化学的な処理で製造されたアミノ酸液がグルタミン酸またはグルタミン酸ナトリウムを多量に含むことで使用せずにかんだものであり、わざわざ表示する必要性には疑問がある。
このような必要性のない表示を行うことは、消費者の志向に合わせたという名目で、実際は消費者を欺瞞しているとも言え、望ましくない表示と言える。
食品表示の事例−2
名 称 |
焼菓子 |
原材料名
|
小麦粉、砂糖、バター、卵白、植物油脂(原材料に大豆含む)、ヘーゼルナッツ、アーモンド、全粉乳、カカオマス、食塩、乳化剤(大豆由来)、香料 |
内 容 量 |
10個 |
賞味期限 |
箱底面に記載(ただし、未開封の状態) |
保存方法
|
直射日光、高温多湿な場所を避けて常温で保存してください。 |
販 売 者
|
株式会社 ○○○H
〒101-0063 東京都千代田区△△町1-2 |
表示のとおり、箱の底に次の内容のシールを貼付している。
賞味期限
07.10.21
この事例も、必要事項が一覧になっており、要求されている項目は満たされている。事例−1と同様に各項目毎に見てみる。
名称の焼菓子は、大分類「菓子」のうち、中分類として「焼菓子」が例示されており、適切な名称である。
原材料では、小麦粉から食塩までが素材食品に該当し、乳化剤と香料が食品添加物である。
この焼菓子に関しては、JAS法でも、原料原産地の表示は求められていないので、これに関する表示はない。
アレルギーに関する表示では、小麦粉で小麦を、卵白で卵を、全粉乳で乳を使用していることが判る。また、バターも乳製品であることは、一般の消費者にも判るものである。さらに植物油脂に大豆を原料とするものが含まれていることが、()付きで表示されている。食品添加物の乳化剤も大豆を原料とするものであることが()付きで表示されている。これらの中で表示が義務化されている特定原材料は、小麦、卵、乳であり、大豆は表示が奨励されているものである。
ところで、同じ大豆を原料とすることを示すにも拘わらず、表示方法が異なるのは、アレルギーに関する表示が決められたとき、素材食品と食品添加物で異なる付加の仕方が例示されたことによる。なお、この両者の付加表示を行わず、食品添加物の表示が終わった後に、()付きで、(原料の一部に大豆を含む。)、と表示することもできる。
本品は固形の焼菓子であり、内容量は数で、10個と表示されている。
賞味期限と保存方法は、取り立てて問題となるものはない。
製造者の表示に変えて販売者が表示されている。これは、製造に関わった者あるいは企業とは異なる者あるいは企業が、その製品を販売していることを示すものである。この販売者による表示に際しても、製造所を特定するための固有記号を表示することが定められており、会社名の後のHが固有記号である。
この事例では、7ポイントの活字が使用されている。表示事項に関しては適切と認められるものの、残念ながら、活字の大きさが規定外になっており、JAS法の品質表示に違反し、食品衛生法の通知に反している。
食品表示の事例−3
名称/魚肉練製品
原材料名/魚肉、いか、れんこん、澱粉、人参、
ごぼう、うずら卵、キャノーラ油、玉ねぎ、えび、
かに、たこ、卵白、醸造調味料、食塩、青ねぎ、
植物性タンパク、魚介エキス、生姜、鰹粉、香辛
料、調味料(アミノ酸等)、甘味料(トレハロース、
ステビア)、保存料(ソルビン酸)、pH調整剤、
香料、漂白剤(次亜硫酸Na)、酸化防止剤(V.
C)、着色料(ラック、紅麹、カロチノイド)、(原
材料の一部に小麦、大豆、豚肉、ゼラチンを含む)
(この位置に、魚皮をふくむことがある旨の注意書きが挿入されている。)
消費期限/表面下部に記載
規格/9個
保存方法/10℃以下
製造者/(有)○○食品
住所/岡山市△△4−19−20
TEL/086−×××−××××
これらの表示が、栄養成分表示の一覧表と共に、ラベルに印字され、商品の外装裏に貼付されている。
また、表面の商品名ラベルの下部に、次の表示がある。
消費期限 07.10.31
この表示で、名称と原材料名および注意書きに関しては5.5ポイントの活字が用いられ、期限の表示以降は7.5ポイント活字が使われている。いずれも8ポイント以上という規定より小さいものになっている。特に、名称と原材料名に関しては、小さな文字になっている。
この事例では、前に示した2つの事例と異なり、所定の表示は、一覧表にはなっていないが、表示を求められる項目は満たしている。
名称の「魚肉練製品」は、食品分類の例示に、大分類および中分類で共に「魚肉ねり製品」という分類名があり、名称として適切といえる。
原材料名の表示は、香辛料までの素材食品の表示と、調味料(アミノ酸等)から着色料までの食品添加物の表示、その後にアレルギーに関する特定原材料などの表示と区分表示は適正に行われている。
香辛料は素材食品として使われると共に、香辛味をつける既存添加物である香辛料抽出物の簡略名でもあるが、通常の使用量を考慮すると、食品添加物として最多とは考えられないことから、食品の香辛料とみられる。
期限の表示は保存期間が短いときに使われる消費期間となっている。この消費期限は食品衛生法施行規則第21条第1項第1号ロで、次のように定められている。
定められた方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限を示す年月日をいう。 |
通常は、この条件に合う期限が5日以内の場合に「消費期限」としての表示が行われている。
保存の方法として10℃以下とされている。これは、冷蔵庫で保存する場合の上限の温度といえる。最近の家庭用の冷蔵庫では、5℃以下に維持されている場合が一般的であることを考慮すると、購入された家庭での保存には懸念はないものと考えられる。流通および小売り段階での温度管理を厳密に行うことが求められる。
本事例は本社工場での製造ということで、製造者の氏名および住所では、固有記号を使用した表記ではなく、企業名と所在地が表示されている。
ところで、規定より小さい活字が使用される傾向が認められるのは、表示すべき事項が多いことも原因の一つであろうが、多くの場合は、所定の表示事項以外に多くの表示を行うために、スペースが不足することに起因していると認められる。表示スペースが小さい場合(概ね、150cm2以下)に、小型の活字を使用することが認められている。この特例規定を誤解しているものと考えられる。表示可能面積とは、袋物であれば、表と裏を合わせたものであり、四角い箱ものであれば、その6面の面積の合計である。従って多くの食品は、通常の活字による表示が求められることになる。
また、事例−3のようにラベルに印字して製品に貼付する方法が採られていて、そのラベルが小さい場合もある。貼付するラベルが小さいからといって表示面積が小さいということはできない。正しい表示が出来るようラベルを検討する必要がある。
なお、食品衛生法に基づく、活字の大きさに関する通知は、2004年に改められた者で、それ以前は、通常は7.5ポイント、表示面積が小さい場合は5.5ポイント以上の活字を使うこととされていた。このために、従来使われてきた大きさの活字をそのまま使い続けている事も考えられる。表示の担当者はこの点にも留意する必要がある。
(この項 了)
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