食品添加物基礎講座(32)
食品添加物に関わる規格・基準(その8)
食品表示におけるミス記載
前回は、食品の表示方法を実例で確認したが、今回も引き続いて表示の事例を見ていくことにする。今回は表示の中にミスを含む実例で、正しく表示するヒントを考える。
事例は、前回と同様に、市販の加工食品における表示を書き写すものとする。ただし、製造者名、販売者名および所在地は○×△等で示す。
なお、JAS法に基づく加工食品品質表示基準等では、使用している原材料を素材食品と食品添加物に分けること、それぞれの区分の中では使用した原材料の重量順に表示することが定められている。ここでは、原材料はこの規定に沿って重量順に表示されていることを前提とすることとし、特別の場合を除いては記載の順序に関しては検討しない。
 
食品表示の事例−4
名称       (菓子パン)
【原材料名】小麦粉,マーガリン,砂糖,卵,リンゴシロップ漬け,イースト,カリフラワーペースト,食塩,アーモンドスライス,イーストフード,香料,乳化剤,アミノ酸,クエン酸,VC,保存料(ソルビン酸K),酸化防止剤(VE),着色料(VB2,カロテン),乳酸Ca,(原材料の一部に乳,大豆を含む)

消費期限 07.10. 4
保存方法 直射日光、高温多湿を避け保存。

      株式会社○○○○○○○AC41 
      本社 〒15×-××××東京都××区△△1-8-3
      TEL 03 (37××)××××
 
 
これは、リンゴデニッシュとして販売されている菓子パンである。
原材料の表示では、素材食品と食品添加物の区分はできている。しかし、食品添加物の表示においていくつかのミスがある。
まず、アミノ酸という表示があるが、どういう目的でどういうアミノ酸が使用されているのであろうか。L-グルタミン酸ナトリウムなどを調味の目的で使用したのであれば、「調味料(アミノ酸)」などと表示する必要があり、日持ちを向上させる目的でアミノ酸の一つであるグリシンを使用している場合は、物質名で「グリシン」と表示することになる。
また、ビタミンがローマ字を使用する簡略名で表示されているが、ビタミンは「V.」と表示することになっている。したがって、ビタミンCおよびビタミンEは、正しくは「V.C」および「V.E」と表示しなければならない。さらに、ビタミンBでは、「V.B」と2を下付文字(あるいは小型の文字)で表示することになっている。
簡略名での表示に関しては、通知(1996年通知衛化第56号)で簡略の仕方、文字の大小などが細かく規定されている。この通知における表示の仕方を遵守することが求められている。
ところで、香料が食品添加物として2番目に記載されている。一般的には、香料は微量の添加で充分に効果が発揮されるものであり、このような早い順序で表示されることはまれである。使用した溶媒などを含む香料製剤を香料成分の全体量として「香料」と表示したことも考えられる。香料製剤においても、香料部分と溶媒、乳化剤などの製剤化のための副剤の部分を分けて考慮した上で、表示に反映させる必要がある。このような理解と配慮が欠けていたことが一因と考えられる。この点を考慮すると、食品添加物が使用した重量順に表示されているか否かにも疑問が出てくる。
上述した、表示の誤りを訂正する際には、順序に関しても確認し、必要であれは見直すことが望まれる。
 
なお、この菓子パンでは、会社名に固有記号が付されているので、本社以外に所在する工場で製造されたものと推定されるが、「製造者」または「販売者」の文字がないことから、当該会社の自社工場製か、他社に委託製造したものかは判断できない。いずれであるかを表示で明確にすることが望まれる。
 
食品表示の事例−5
  名称 みかん羊かん
 原材料名  砂糖 寒天 白餡
     みかん ソルビット
     香料 水飴
 【個数】 6本入
 販売者    ○  △
       ○○ △△ H
 神奈川県××郡××町××4−2−1
 TEL (04△△) ××−××××

 (別貼 ラベル)
 賞味期限 08. 4. 5
 
 
これは、ミカン果汁入り、ミカン風味の温泉みやげのようかんである。
この事例のラベル表示で、原材料名の表示が上記した例のようにずれている。このこと自体は、法令に反しているわけではないが、消費者にとって見にくい点は改善の余地がある。
さて、この原材料中、素材食品は、砂糖からみかんまでと原材料名の最後に書かれている水飴であり、食品添加物はソルビットと香料である。原材料の素材食品が一連の表示になっていない点が、JAS法の「加工食品品質表示基準」に違反していることになる。
このように、素材食品と食品添加物が区分表示されていない商品は、しばしば見かけられる。このことは、表示方法が、小規模企業が多い末端の業者まで徹底していない現れと考えられる。
本事例では、保健所に届けられた販売者が個人とみられ、固有記号は、企業名あるいは商号とみられる名称の後ではなく、個人名の後に記載されている。
このような零細事業主にとって、食品衛生法およびJAS法に基づく表示を適切に行うことは、困難なことと思われる。このような製品の販売を委託する場合は、製造者が適切な表示方法を、販売者に予め連絡しておくべきものと考えられる。
なお、ラベル印刷に使用された活字は8ポイントが主体(販売者名のみ大きな活字)で、基準を満たしている。
 
食品表示の事例−6
名  称 菓子パン
原材料名



 
小麦粉、メロンフラワーペースト、糖類、食用油脂、卵、乳製品、イースト、食塩、メロン、グリシン、着色料(カロチン、ベニコウジ、クチナシ、パプリカ)、乳化剤、香料、増粘多糖類、イーストフード、酸味料、ビタミンC、(原材料の一部に大豆を含む)
内 容 量 1個 消費期限 表面に記載
保存方法 直射日光および高温多湿を避けて保存してください。
販 売 者

 
株式会社 ○○○○○○
東京都××区××1-10-1
製造所固有記号は表面に記載
 
表面には次の事項が表示されている。
 
消費期限 07.11.24 
製造年月日 07.11.22 
製造所固有記号 DC 
 
裏面には、消費期限設定時の季節(二季)別の保管温度、開封後の扱い(早めの消費)について記載がある。
 
この食品はメロンパンとして販売されているものである。
表示は、原材料は素材食品と食品添加物を区分して記載しており、保存方法を含めて所定の表示は確実に行われているように見受けられる。しかし、残念なことに、食品添加物の表示に1か所誤りがある。
その表示は、着色料にある。着色料として使用された食品添加物4品目が用途名の後に簡略名で列記されている。この中に、簡略名として認められていない表示がある。それは、「パプリカ」の表示である。パプリカは、トウガラシの品種の一つであり、既存添加物「トウガラシ色素」の原料としてパプリカが含まれており、別名の一つとして「パプリカ色素」が認められている。このトウガラシ色素では、色素の文字を付けない名称としては、類別名であるカロチノイドとカロテノイドの2種に限られており、パプリカという簡略名は認められていない。このため、パプリカから抽出した色素である旨を示すためには、別名として認められている「パプリカ色素」と表示する必要がある。カロチン、ベニコウジ、クチナシの3種は、「色素」の文字が付いた簡略名と、付かない簡略名のいずれもが認められているため、誤解したものと考えられる。
パプリカ色素に関しては、このような誤解による記載ミスがときどき見受けられる。パプリカ色素を使用する場合は、表示の際に注意する必要がある。
 
食品表示の事例−7
名称生菓子/原材料名乳製品(脱脂粉乳、クリーム等)、砂糖、卵加工品、カラメル、植物油脂、水あめ、ゼラチン、寒天、乳たんぱく質、でん粉、香料、増粘多糖類、セルロース、乳化剤、pH調整剤、グリシン、カロチン色素、甘味料(スクラロース)、(原材料の一部に大豆を含む)
内容量:130g/賞味期限:ラベルに表示
保存方法:要冷蔵10℃以下/製造者:○○乳業株式会社MI 東京都○区×5−33−1
 (お客様相談室の電話番号記載)
 
この一括表示の他に、ラベルの反対側に、次のように賞味期限が表示(印字)されている。
賞味期限
07.09.20 S46
 
この食品は、ホイップクリームの多いプリンである。
食品原材料の表示は、素材食品と食品添加物を区分して表示している。素材食品の部分にカラメルが記載されているが、これは着色料ではなく、プリン用のカラメルである。
香料以降が食品添加物に該当する。香料がトップに記載されている点は事例4の場合と同様に、通常の使われ方と異なるように感じられ、確認が求められる。
増粘多糖類は、増粘剤として2種類以上の多糖類が使用されていることを示すものである。
その次に記載されているセルロースは、何を目的として使用したものであろうか。増粘性の付与、あるいは増粘性の安定化を目的としていた場合は、用途名との併記が必要となる。製造用剤としてはろ過助剤などで使われることが多く、本食品では該当しないものと考えられる。また、食物性繊維の付与を目的としている場合は、栄養成分表示に何らかの記載があるものと考えられるが、その記載はない。これらのことから、使用目的を確認し、表示方法が適切であるか否かを再検討する必要がある。
 
食品表示の事例−8
名称 調理パン 値段 ○○○円
かぼちゃパン,野菜コロッケ,グリーンカール,ソース,サラダ油,イーストフード,乳化剤,香料,PH調整剤,結着剤(メタリン酸Na),着色料(カロチン色素,アナトー色素,カラメル色素),調味料(アミノ酸),
香辛料,増粘多糖類(キサンタンガム,グァー)
(原材料の一部に小麦,乳,卵,大豆,りんごを含む)
 
消費期限 08. 2. 4
製造年月日 08. 2. 4        内容量 1個
保存方法 直射日光、高温多湿を避け保存下さい
製造元 梶宦宦宦@△△工場
東京都×××市××1-11-22 TEL 04××-××-××××
 
本品は、既にできあがっているかぼちゃパンに、グリーンカールと野菜コロッケを挟んだもので、組合せ食品(複合食品)に該当する。
本品の原材料表示では、素材食品と食品添加物の区分表示が行われている。
そのうち、素材食品は、本品が組合せ食品のため、使用したかぼちゃパンと野菜コロッケを表示することにより、これらの製造に使用された素材食品である小麦粉、かぼちゃ、じゃがいも等の表示は省略されている。
一方、同じ原材料であっても、食品添加物は、食品衛生法に基づく規定により、キャリーオーバーと見なされるものを除いては、全てを表示する必要がある。このために、パン、コロッケの製造に使用されたものの多くは表示の対象になっている。
この食品添加物の表示に際して、食品衛生法に基づく規定では順序に関する規定はないが、JAS法に基づく加工食品品質表示基準では原材料中の重量の多い順に記載することが定められている。本品に関しては、その記載が、事例4の場合と同様に香料の表示が前の方に位置していることと共に、次のような理由で、本当に重量順になっているか否かを確認する必要がある。
本品の食品添加物の表示を見ると、先ずパンの製造に使用されたものを記載し、次いでコロッケの製造に使用されたものを記載した後に、両者に共通なものと調理パンとして組み合わせるときに使用したものが表示されているように思われる。
重量の順に記載されていない場合は、加工食品品質表示基準に違反していることになる。
さらに、食品添加物の表示を見たとき、少々違和感がある。その理由は次のような表示が見られることである。
 
結着剤(メタリン酸Na)
増粘多糖類(キサンタンガム,グァー)
着色料(カロチン色素,アナトー色素,カラメル色素)
 
このうち、「結着剤」は、用途名でも一括名でもない使用目的名であり、通常の食品表示には出てこないものである。コロッケで使われたと考えられるメタリン酸ナトリウムの使用目的であろう。この場合、次のように表示すれば違和感は減少するものと考える。
メタリン酸Na(コロッケ結着用)
次の「増粘多糖類」は、類別名として使用されているグループ名であり、通常は用途名に併記されるものである。ただし、増粘の目的で使用した場合は、単独で表示することが認められているものである。この場合は、後に添加物名を列挙することは極めてまれなことであり、増粘多糖類を用途名と誤解して使用したことも考えられる。用途名としての誤用であれば、食品衛生法の規定に反していることになる。その場合は、「増粘剤」、「安定剤」のうち使用目的を適切に示す用途名、あるいは「糊料」に物質名を併記することになる。また物質名が、一つは品名で記載され、一つは簡略名で記載されていることも違和感の一因となっている。一般的には、用途名と簡略名の組合せで
糊料(キサンタン、グァー)
などと表示される。
着色料では、違反ではないが、事例6で示したパプリカ色素のような特別の場合を除いては、用途名と併記する場合は、「色素」の文字を省略した簡略名が用いられている。このような理由で、見慣れない表示として違和感が出ているようである。
ところで、「pH調整剤」が「PH調整剤」と表記されているが、これは一括名の表示方法に反している。できるだけ早い時期に改善されることが望まれる。
調味料(アミノ酸)の次に「香辛料」と表示されている。区分表示が行われている場合は、香辛料抽出物の簡略名として表示されたものと理解される。ただし、食品である香辛料を使用している場合は、区分表示が行われていなかったことになり、加工食品品質表示基準違反となる。
また、保存方法、製造元等の表示に使っている文字が規定より小さくなっており、この点も改善が必要である。
 
ここまで、5つの事例で食品における表示のミス、疑問のある表示を見てきた。意図的とは言えないものの、JAS法に基づく加工食品品質表示基準に違反している場合も見受けられる。
食品メーカーは、もう少し注意深く原材料、製造工程を検討し、表示に関する通知類やQ&Aなどを参考に、より適切な表示を行うよう努めることが望まれる。
また、零細な販売業者に、固有記号の下で販売を委託する食品に関しては、適切な表示が行えるように、より丁寧に説明する事も求められる。
 
(この項 了)


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