食品添加物基礎講座(34)
食品添加物に関わる規格・基準(その10)
健康増進法と食品添加物
前回まで、9回にわたり食品添加物に関わる規格・基準を、主に食品衛生法における規定から見てきた。今回は同じ厚生労働省が所轄する法律であり、食品と大きな関わりをもっているものの、いわゆる健康食品に携わる業界以外ではあまり理解されていない健康増進法と食品添加物の関係について見ていこう。
 
健康増進法とは
健康増進法は、かつての栄養改善法を、時代の趨勢を鑑みて全面的に見直し、2002年8月に新たに制定されたものである。その目的は、法第1条で次のように定めている。
我が国における急速な高齢化の進展及び疾病構造の変化に伴い国民の健康の増進の重要性が著しく増大していることにかんがみ、国民の健康の増進の総合的な推進に関し基本的な事項を定めるとともに、国民の栄養の改善その他の国民の健康の増進を図るための措置を講じ、もって国民保健の向上を量ることを目的とする。
 
この健康増進法の前身であった栄養改善法は、1952年の制定であり、その目的は、次のように規定されていた。
国民の栄養改善思想を高め、国民の栄養状態を明らかにし、且つ、国民の栄養を改善する方途を講じて国民の栄養及び体力の維持向上を図り、もって国民の福祉の増進に寄与することを目的とする。
 
このように、第2次世界大戦(太平洋戦争)の敗戦に伴う食糧難時代をいくらか脱却し、栄養面に目が向けられた時代に作られた法律から、高齢化社会での国民の健康の維持に力点が置かれる方向に、法の目的自体が変わってきたものである。
この健康増進法の目的を遂行するために、厚生労働省大臣は基本的な方針を定め(第7条)、国民健康・栄養調査を実施することが定められている(第10条)。また、特別用途表示の許可を出し(第26条)、栄養成分の表示に関して栄養表示基準を定めることを規定している(第31条)。
栄養成分に関しては、さまざまな食品添加物も寄与しており、使用した際の表示に注意する必要がある。
また、特別用途表示の食品に関しては、食品添加物の使用基準に例外規定が設けられているものもある。
食品衛生法の場合と同様に、健康増進法でも規制等の詳細は、省令である「健康増進法施行規則」に定められている。
 
栄養成分の表示
健康増進法第31条および健康増進法施行規則第17条で、熱量と共に表示すべき栄養成分等を、次のように規定している。
 
表示する際には「栄養表示基準」に従う栄養成分
・たんぱく質
・炭水化物
・亜鉛、カリウム、カルシウム、クロム、セレン、鉄、
銅、ナトリウム、マグネシウム、マンガン、ヨウ素、
リン
・ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、ビタミンA、
ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB
ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、
ビタミンE、ビタミンK、葉酸
量を表示することが定められている栄養成分
・たんぱく質
・食物繊維
・亜鉛、カルシウム、鉄、銅、マグネシウム
・ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB
ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、
ビタミンE、葉酸
 
ここに見られるように、多くのミネラルとビタミン類が対象になっており、この点では、食品添加物も大きな関わりを持つものである。
 
栄養表示基準では、次の事項を表示することが定められている。
・表示する際の食品の基準量:「食品単位」
100g、100ml、1食分、1包装など
・1食品単位当たりの量
たんぱく質の量
脂質の量
炭水化物の量
ナトリウムの量
熱量
表示栄養成分の量:
上記以外の表示しようとする栄養成分の量
 
この栄養表示基準では、また、栄養成分に関する表示についても、次のように規定されている。
・表示する際の栄養成分等の順序
熱量、たんぱく質の量、脂質の量、炭水化物の量、
ナトリウムの量、表示栄養成分の量の順
・栄養成分および熱量の単位・測定方法など
(別表第2に規定)
・表示される栄養成分の一日当たり摂取量の許容範囲
(別表第1に規定)
・栄養成分が許容範囲内にある場合の表示すべき働き・効果
・栄養機能食品において、栄養成分が許容範囲を超えるとき考えられる注意事項の表示
(ここまで、別表第1に規定)
・栄養成分が補給できる旨、高い旨の表示が可能な含有量
(別表第3)
・栄養成分を含む旨の表示が可能な含有量
(別表第4)
・栄養成分が強化されている旨を表示できる含有量
(別表第4)
・栄養成分の表示に当たって、「炭水化物の量」の表示に代えて「糖質及び食物繊維の量」を表示できること
 
これらで規定されている数値のうち、含むこと、加えることを前提とされているものは、次のとおりである。

 
表示成分等
 
許容範囲
 
高い旨の表示
(最低含有量)
    下限値 上限値 100g 100kcal
表示義務
 
熱量        
たんぱく質  g     15 7.5
脂質        
炭水化物        
ナトリウム        
  食物繊維     6 3


















 
亜鉛     mg 2.10 15 2.10 0.70
カルシウム  mg 210 600 210 70
鉄      mg 2.25 10 2.25 0.75
銅      mg 0.18 6 0.18 0.06
マグネシウム mg 75 300 75 25
ナイアシン  mg 3.3 15 3.3 1.1
パントテン酸 mg 1.65 90 1.65 0.55
ビオチン   μg 14 500 14 4.5
ビタミンA  μg
(IU)
135
(450)
600
(2000)
135
 
45
 
ビタミンB1  mg 0.30 25 0.30 0.10
ビタミンB2  mg 0.33 12 0.33 0.11
ビタミンB6  mg 0.30 10 0.30 0.10
ビタミンB12 mg 0.60 60 0.60 0.20
ビタミンC  mg  24 1000 24 8
ビタミンD  μg
(IU)
1.50
(60)
5.0
(200)
1.50
 
0.50
 
ビタミンE  mg  2.4 150 2.4 0.8
葉酸     μg 60 200 60 20
ビタミンAとビタミンDに関しては量(μg)と共に、国際単位(IU)の量も提示されている。
 
栄養成分を「含む旨」の表示関しては、「高い旨」で定められた量の1/2が示されている。なお、1/2にした場合、割り切れないときは、規定する最少数値に切り上げる。
「高い旨」、「含む旨」には、100g当たりの他に、飲用する液体100ml当たりの数値も示されており、その数値は、原則として100g当たりの1/2である。
 
一方、少なくすることを前提とする基準(食品100g当り)は、次のようになっている。
栄養成分等
 
含まない旨の表示 低い旨の表示
次の数値未満 次の数値以下
熱量 5 kcal 40 kcal
脂質 0.5 g 3 g
飽和脂肪酸 0.1 g 1.5 g *
コレステロール


 
5 mg
かつ、飽和脂肪酸の含有量 1.5 g *
 
20 mg
かつ、飽和脂肪酸の含有量 1.5 g *
 
糖類 0.5 g 5 g
ナトリウム  5 mg 120 mg
*飽和脂肪酸のエネルギー量は、全エネルギー量の10%
 
この後、実例により内容を確認する。
 
食品表示の事例−15(栄養成分表示)
栄養成分表示 (1個当り)
エネルギー
たんぱく質
脂   質
炭水化物
ナトリウム
 375 kcal
  8.2 g
  5.7 g
 68.2 g
 281 mg
 
これは、1個入り包装の「あんぱん」の例である。
表示の際には必須とされる5項目が表示されている。
特に強調する成分がない場合の表示として一般的なものである。
 
食品表示の事例−16(栄養成分表示)
納豆・たれ・からし(1パック50.7gあたり)
栄養成分表  ( )内は納豆45gのみ
エネルギー  95kcal ( 90kcal)
たんぱく質   6.9g (  6.6g)
脂   質   4.4g (  4.4g)
炭水化物   6.6g (  6.0g)
ナトリウム   239mg (  1mg)
食塩相当量   0.6g (   0g)







 
 
これはからし、たれ醤油が同封されている納豆の例であり、栄養成分の表示ではカラシ、たれを含む1パックでの量と、納豆だけの量の双方が表示されている。さらに、ナトリウムの量を食塩(塩化ナトリウム)に換算した場合の量が付加的に表示されている。
 
食品表示の事例−17(栄養成分表示)
栄養成分表示 1個(80gあたり)
エネルギー
たんぱく質
脂   質
炭水化物
ナトリウム
カルシウム
 115kcal
   1.9g
   6.7g
  11.7g
   61mg
   31mg
 
これは、レアチーズデザートの例であり、強調する表示はないが、乳製品がカルシウムに富んでいることを示す目的で、カルシウムの量を表示しているものと考えられる。
 
食品表示の事例−18(栄養成分表示)
栄養成分表示/1袋(標準20.6g)当たり
エネルギー  99kcal
たんぱく質  1.2g
脂    質  3.8g
炭水化物   15.0g
ナトリウム  50mg
カルシウム   83mg
ビタミン   0.08mg
ビタミン   0.09mg
ビタミンD    0.5μg
 
 
これは、「おなかにやさしい乳酸菌が入っています。さらに、カルシウム、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンDもたっぷり。お子さまのすこやかな成長のために」という説明が表示されているビスケットである。乳酸菌は表示対象栄養成分ではないが、その他は表示の対象となっているために、それぞれの量が表示されている。
なお、食品原材料等の一括表示では、炭酸カルシウム、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンDが表示されている。
 
食品表示の事例−19(栄養成分表示)
栄養成分表示 (100mlあたり)
エネルギー    43kcal
たんぱく質     0.6g
脂   質       0g
炭水化物     10.2g
ナトリウム      0mg
ビタミンC     18mg
β-クリプトキサンチン 1.6mg
(製造時、当社分析地)
 
これは、国産のミカンジュースの例であり、メーカーの通常品と比べて「ほぼ2倍」のβ-クリプトキサンチンを含むことが表示で謳われている。これに伴って、表示する栄養成分ではないが、強調された成分としてその量が表示されている。
食品表示の事例−20(栄養成分表示)
栄養成分表示 1枚(5g)当り
エネルギー
たんぱく質
脂   質
糖   質
食物繊維
 17kcal
 0.40g
 0.52g
  27g
 0.17g
ナトリウム
カルシウム
マグネシウム
ビタミンD
ビタミンK
 5〜20mg
 300mg
 150mg
  0.9μg
  28μg
 
これは、「栄養補助食品」として「カルシウムせんべい」の商品名(食品の名称は「カルシウム含有食品」)販売されているものである。また、「カルシウム補給食品」「カルシウム・マグネシウム・ビタミンD・ビタミンK配合」の表示が行われている
包材に、「1枚に300mgのカルシウムと150mgのマグネシウム、ビタミンD、ビタミンK、大豆イソフラボンなどの栄養が豊富に含まれる大豆胚芽粉末を配合しています。」と表示されている。
これらの表示に伴う形で、栄養成分表示が行われている。なお、原材料名の欄に、カルシウムとマグネシウムを含有するドロマイトの表示があり、大豆胚芽粉末と共にビタミンK含有納豆とビタミンDの表示がある。
 
これらの事例のように、特定成分の含有などを強調表示する場合は、その成分の量についても表示を行うことが求められている。
 
(この項 了)


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