食品添加物基礎講座(35)
食品添加物に関わる規格・基準(その11)
食品添加物の製造基準
食品添加物とその製剤は様々な方法で作られている。このために、原則的な基準として定められているものが、製造基準である。この製造基準に関しては、現在の連載「食品添加物に関わる規格・基準」の初回(その1)で簡単に触れているが、今回は、この基準について、内容に踏み込んで見直してみよう。
 
製造基準とは
食品添加物および食品添加物の製剤を製造する際に遵守すべき条件を定めたものが、製造基準である。
この製造基準は、大きく分けて次の3項目がある。
 
1.食品添加物の全般に関わる事項
2.「かんすい」に関わる事項
3.抽出溶剤に関わる事項
 
この後、この3項目の基準に関して内容を見ていくことにする。
 
食品添加物全般に関わる製造基準
「添加物一般」の項目名で4点の条件が規定されている。その概要は次のとおりである。
 
1.不溶性の鉱物性物質の使用に関する規制
2.食品添加物製剤の製造に関する原料の規制
3.組換えDNA技術使用の微生物を使用する食品添加物の製造に関する条件
4.特定牛のせき柱を原料とすることの禁止
 
このうち1は、食品添加物を製造または加工する際に使用できる不溶性の鉱物性物質は、必要不可欠な場合に限られることを規定したものである。
不溶性の鉱物性物質としては、次のものが挙げられている。
酸性白土、カオリン、ベントナイト、タルク、砂、
ケイソウ土、二酸化ケイ素、炭酸マグネシウム、
これらに類似する不溶性の鉱物性物質
 
この規定は、第2次世界大戦後(太平洋戦争での日本の敗戦後)の混乱期(1940年代後半・1950年代前半)に、不溶性の鉱物性物質を混入して量を多く見せかけるものが見受けられたために、このような規定を作って見せかけの増量を防ぐことにしたものである。それが、その後不溶性の鉱物性物質のうち、カオリン、ベントナイト等を明確にするとともに、新たにに食品添加物として指定された二酸化ケイ素、炭酸マグネシウムを加える形で、継続されているものである。
この規定は、次に示す使用基準に対応するものである。
酸性白土、カオリン、ベントナイト、タルク、砂、ケイソウ土及びパーライト並びにこれらに類似する不溶性の鉱物性物質
酸性白土、カオリン、ベントナイト、タルク、砂、ケイソウ土及びパーライト並びにこれらに類似する不溶性の鉱物性物質は、食品の製造又は加工上必要不可欠な場合以外は食品に使用してはならない。
酸性白土、カオリン、ベントナイト、タルク、砂、ケイソウ土及びパーライト並びにこれらに類似する不溶性の鉱物性物質の食品中の残存量は、2物質以上を使用する場合であっても、私欲品の0.50%(チューインガムにタルクのみを使用する場合には、5.0%)以下でなければならない。
 
既存添加物には、簡略名・類別名欄に、「不溶性鉱物性物質」があり、次のものが挙げられている。
カオリン、花こう斑岩、活性白土、クリストバル石、グリーンタフ、ケイソウ土、酸性白土、ゼオライト、タルク、パーライト、ひる石、ベントナイト
この他に、鉱物としては電気石(トルマリン)が既存添加物名簿に収載されており、リストでは例示されていないものの炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムの複塩であるドロマイトが一般飲食物添加物とみなされている。
 
2は、食品添加物の製剤に使用できる原料を規定するものである。この項目は、食品添加物の製剤に関するものであり、食品添加物が主体であることは言うまでもないが、その他の原料とともに、次のように規定されている。
食品添加物:指定添加物、天然香料、一般飲食物添加物、既存添加物に限る
食品
これらのうち、食品添加物では、成分規格が設定されている場合は、その成分規格に合格したものであることが条件とされている。
同様に、食品も、「食品,添加物等の規格基準」の「第1 食品」の部で成分規格が定められている場合は、その規格に合格したものであることが条件とされている。
さらに、水は、食品添加物製剤が食品の製造等に使われるものであることから、飲用適の水を使用することが規定されている。この飲用適の水とは、水道法で定められた水道事業に供給される水、専用水道または簡易専用水道で供給される水および「食品,添加物等の規格基準」の食品の部で規定された清涼飲料水の成分規格で、清涼飲料水に使用が認められている基準に適合する水をさすとされている。
この項目は、食品添加物製剤を製造する際に必須の条件であり、製造に当たる多くの企業は、常に留意する必要がある。
 
3つ目の規定は、遺伝子組み換え技術を使用した食品添加物に関するものである。
食品添加物を製造する際に、組換えDNA技術によって得られた微生物を利用する場合は、その微生物の使用が、食品の場合と同様に、厚生労働大臣が定める基準に適合する旨の確認を得た方法でなければならないことが規定されている。なお、この安全性に関しては、現在では、厚生労働大臣の依頼に基づいて食品安全委員会で審議されている。
なお、組換えDNA技術とは、「酵素等を用いた切断及び再接合の操作によって、DNAをつなぎ合わせた組換えDNA分子を作成し、それを生細胞に移入し、かつ、増殖させる技術をいう」と説明されている(食品衛生法施行規則第21条第1項メ(1))。
 
4は、食品添加物の製造または加工に際して、特定牛のせき柱を原材料に使用することを禁止したものである。
これは、牛海綿状脳症(BSE)の対応措置として定められたものである。なお、特定牛とは、「牛海綿状脳症の発生国又は発生地域において飼育された牛」と説明されている(食品,添加物等の規格基準第1 食品B 食品一般の製造,加工及び調理基準第8項)。
ただし、特定牛のせき柱に由来する原材料であっても、その油脂を、高温・高圧の条件下で加水分解、けん(鹸)化またはエステル交換したものは、除くとされている。
 
「かんすい」に関わる製造基準
不当景品類及び不当表示防止法(景表法)で、「小麦粉にかんすい(唐あくを含む)を加えて練り合わせた後製めんしたもの又は製めんした後加工したもの」を中華めんと定義しているように、かんすい(鹹水)は、中華麺の製造に必須のアルカリ剤である。
製造基準では、その項目名が、「かんすい(化学的合成品に限る)」とされており、天然系の食品添加物には、この基準は適応されない。
製造基準では、その原料を成分規格に適合する炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸類のカリウム塩もしくはナトリウム塩であることが条件とされており、これらの1種類または2種類以上を配合したもの、またはこれらの水溶液あるいは小麦粉で希釈したものと規定されている。
この規定だけを読むと、既存添加物等の化学的な合成品以外の原料だけを配合した「かんすい」は、何ら規制を受けることなく、自由に製造することができるとの誤解もあるようである。
しかし、かんすいは製剤であるが、かつては国家検定を受けていた品目でもあり、成分規格が設定されている。そこでは、次のように定義されている。
本品は、「炭酸カリウム」、「炭酸ナトリウム」、「炭酸水素ナトリウム」及び「リン酸類のカリウム塩又はナトリウム塩」のうち1種類以上を含む。
 
このように成分規格が設定されていることから、化学的合成品を配合しない「かんすい」であっても、この成分規格に合格する必要がある。
なお、国家検定(政府認証)制度が廃止されたとき、製造者が成分規格への適合を確認する(自己認証を行う)こと、日本食品添加物協会による自主認定制度がはじめられる旨の通知が出されている(1987年3月衛化第15号)。これらに関しても留意する必要がある。
さらに、かんすいは、表示のための一括名でもあり、成分規格を踏まえて、次のように定義されている。
中華麺類の製造に用いられるアルカリ剤で、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及びリン酸類のカリウム塩又はナトリウム塩の1種類以上を含む。
 
なお、かつて食品添加物排斥運動が盛んだったころ、指定添加物でない生石灰(酸化カルシウム)をアルカリ剤として使用した「無かんすい中華めん」なるものが製造、販売されたことがある。しかし、中華めんは「かんすい」を使用することで、はじめて中華めんと称することが可能となることから、現在では、このようなめん類は中華風めんと称している。
 
抽出溶剤に関する製造基準
既存添加物をはじめとして、天然物から食品添加物としての有効成分を取り出すために、さまざまな抽出溶剤
が使用される。一部の既存添加物について、この溶媒に関する規定が設けられている。
これは、「ウコン色素、オレガノ抽出物、オレンジ色素、カラシ抽出物、カンゾウ抽出物、カンゾウ油性抽出物、クチナシ黄色素、クローブ抽出物、香辛料抽出物、ゴマ油不けん化物、シソ抽出物、ショウガ抽出物、精油除去ウイキョウ抽出物、セイヨウワサビ抽出物、セージ抽出物、タマネギ色素、タマリンド色素、タンニン(抽出物)、トウガラシ色素、トウガラシ水性抽出物、ニガヨモギ抽出物、ニンジンカロテン、ニンニク抽出物、ペパー抽出物、ローズマリー抽出物、ワサビ抽出物及び天然香料」という非常に長い項目名となっている。
さらに、天然香料に関しては、「アサノミ、アサフェチダ、アジョワン、アンゼリカ、ウイキョウ、ウコン、オールスパイス、オレガノ、オレンジピール、カショウ、カッシア、カモミール、カラシナ、カルダモン、カレーリーフ、カンゾウ、キャラウェー、クチナシ、クミン、クレソン、クローブ、ケシノミ、ケーパー、コショウ、ゴマ、コリアンダー、サッサフラス、サフラン、サボリー、サルビア、サンショウ、シソ、シナモン、シャロット、ジュニバーベリー、ショウガ、スターアニス、スペアミント、セイヨウワサビ、セロリー、ソーレル、タイム、タマネギ、タマリンド、タラゴン、チャイブ、チャービル、ディル、トウガラシ、ナツメ、ニガヨモギ、ニジェラ、ニンジン、ニンニク、バジル、パセリ、ハッカ、バニラ、パプリカ、ヒソップ、フェネグリーク、ペパーミント、ホースミント、マジョラム、ミョウガ、ラベンダー、リンテン、レモングラス、レモンバーム、ローズ、ローズマリー、ローレル又はワサビから得られたものに限る。」という限定が付けられている。
これらの限定は、香辛料抽出物の基原物質として特定されているものである。
このように、香辛料・ハーブとして使われる食品から、香辛味を取り出すだけでなく、香料成分、色素成分あるいはその他の有効成分を取り出す際に使用できる溶媒が特定されるものである。
使用できる溶剤は、亜酸化窒素、アセトン、エタノール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,2-トリクロロエテン、二酸化炭素、1-ブタノール、2-ブタノール、ブタン、1-プロパノール、2-プルパノール、プロパン、プロピレングリコール、ヘキサン、水、メタノールであり、水も含めて24種類に限定している。このうち6種類の溶媒(アセトン、ジクロロメタン、1,1,2-トリクロロエテン、2-プロパノール、ヘキサンおよびメタノール)に関しては、次のように許容される残存量も規定している。
アセトン:30μg/gを超えない
ジクロロメタンおよび1,1,2-トリクロロエテン:
合計量が30μg/gを超えない
2-プロパノール:50μg/gを超えない
ヘキサン:25μg/gを超えない
メタノール:50μg/gを超えない
 
なお、基原となる食品素材として、トウガラシとパプリカがそれぞれ個別に挙げられているが、色素としてはトウガラシ色素で統一され、パプリカを基原とするパプリカ色素はトウガラシ色素の別名として認める形が採られている。また、天然香料の基原物質もトウガラシ(Capsicum)に一本化されている。
かつては規制の対象にタマリンドシードガムも入っていたが、2007年3月30日の改正で、成分規格が設定されたことに伴い、抽出に使われる溶媒が水またはアルカリ性水溶液と規定されたことから、この溶媒の規定から除外された。
食品添加物の製造において、抽出用の溶媒として使用が認められている2-プロパノールは、着香の目的のみで使用できる食品添加物として指定されている。この指定名称はイソプロパノールであり、一つの規則(食品,添加物等の規格基準)の中で、異なる名称が採用されている。今後、食品用の溶媒としての指定も検討される予定であり、溶媒を扱う際には留意する必要がある。
 
 
(この項 了)


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