食品添加物基礎講座(36)
食品添加物に関わる規格・基準(その12)
食品添加物の使用基準
食品添加物とその製剤は、様々な方法で作られている。天然物から取り出したものを含めて、食品添加物として使用される物質は化学物質である。これらのうち、指定添加物は、安全性を確認の上、必要であれば使用に関する条件を定めた上で、食品添加物として指定されている。また、既存添加物等に関しても、むやみな使用を制限するため、食品の安全性を確保するため等の理由から、使用に関して条件を定められている場合もある。このような食品添加物を私用する際に定められている条件が、使用基準である。この使用基準に関しては、この連載「食品添加物に関わる規格・基準」(その1)で簡単に触れているが、今回は、この基準について、内容に踏み込んで見直してみよう。
 
使用基準とは
食品添加物および食品添加物の製剤を、食品を製造又は加工する際、並びに、その食品を保存する目的で使用するときに、遵守すべき条件を定めたものが、使用基準である。
この使用基準を大きく分けると、次の2項になる。
 
1.食品添加物の全般に関わる条件
2.食品添加物個々に関わる条件
 
この後、この2種類の基準に関して内容を見ていくことにする。
 
食品添加物全般に関わる使用基準
全般に関わる事項は、「添加物一般の使用基準」の項目名で規定されている。その概要は次のとおりである。
 
1.亜硫酸塩類を使用した食品を原料として使用する新たな食品での使用基準のみなし方
2.サッカリン類を使用したフラワーペーストを菓子に使用したときの使用基準のみなし方
3.ソルビン酸類を使用した味噌を使ってみそ漬けの漬物を作ったときの使用基準のみなし方
4.その他の食品添加物を使用した食品を、乳およびアイスクリーム類以外の乳製品に使用したときの使用基準のみなし方
 
このうち1は、さまざまな食品に使用される亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウムなどの亜硫酸塩類(添加物一般の使用基準では「亜硫酸塩等」と表されている。)の使用基準の見方である。亜硫酸塩類は、二酸化硫黄としての残存量で使用基準が規定されている。甘納豆、えび、果実酒、乾燥果実のように個別の食品名で残存量が定められている食品の他に、「その他の食品」という分類があり、その他の食品では、二酸化硫黄としての残存量が0.030g/kg未満と極めて微量に制限されている。
たとえば、穀物酢や果実酢を含む食酢類は、このその他の食品に該当する。このうち、果実酢は果実酒を原料として製造することがある。この場合、果実酢に、原料果実酒に由来する二酸化硫黄が移行することが考えられる。ところで、果実酒では、二酸化硫黄の残存量は0.35g/kg未満となっており、果実酢に比べると大幅な残存が認められている。このため、果実酢に、果実酒に由来する過量の二酸化硫黄が検出された場合、使用基準の違反に当たるか否かが問題となる。
これを判断するために、設けられたのが、このみなし方の規定である。
先ほどの、果実酒を原料として果実酢の場合では、果実酢を作る際に新たに亜硫酸塩類を使わない限り、果実酒に含まれていて果実酢に移行した亜硫酸塩類が、その他の食品の残存量を超えていても、使用基準に反しないことを規定しているものである。
 
2は、サッカリンナトリウムの残存量が0.20g/kg未満と定められているフラワーペーストを菓子の製造に使用した場合、菓子における残存量の規定0.10g/kgを超えた場合の適否を定めるものである。この場合も亜硫酸塩類と同様に判断される。
 
3つ目の規定は、ソルビン酸としての使用量が規定されているソルビン酸およびソルビン酸カリウムに関するものである。味噌およびみそ漬けの漬物は、いずれも使用量の上限が1.0g/kgとなっている。上記した1および2の規定を考えると、規定の上限のソルビン酸を含む味噌を使用した場合、みそ漬けの漬物でさらにソルビン酸を使用することが可能と誤解されるおそれがあるため、この場合でも上限は1.0g/kgであることを定めているものである。
 
4番目の規定は、乳等省令と略称される「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」で、加工乳などの「乳」類、クリーム、チーズ、バター、発酵乳など、アイスクリーム類を除く「乳製品」に、原料の一つとして使われた食品の製造などに用いられた食品添加物の扱いを定めるものである。たとえば、フルーツ類を混入させたヨーグルトで、フルーツ類の加工に食品添加物を使用していた場合、乳等省令で、ヨーグルトに使用することを認める規定がない場合でも、フルーツ類からの移行を認めるものである。
 
個々の食品添加物に関する使用基準
食品添加物の使用基準の主体は、この食品添加物個々に定められる基準である。
このような使用基準は、次のような決め方がある。
 
1.対象食品を規定するもの
2.食品での使用量あるいは残存量を規定するもの
3.使用目的、使用方法を規定するもの
4.使用後の処理方法を規定するもの
5.1〜4の組み合わせで規定するもの
 
実際の使用基準では、これら4種類の単独の規定があるものの他に、1と2の組合せ、3と2の組合せなど、量に関する何らかの規定があるものが多い。
 
まず、1の対象食品を規定するもので、対象食品がもっとも少ないものは、フェロシアン化物であり、食塩だけが対象となっている。また、二酸化塩素は、小麦こ限られている。
逆に、対象食品が規定されている中で、対象食品の範囲が広いものは、硫酸アルミニウムアンモニウムと硫酸アルミニウムカリウムであり、「みそに使用してはならない」とされ、その他の食品では、幅広く製造・加工などの段階で使用することが認められている。
対象食品だけを規定している代表的な基準の例は、着色料である。
そのうち、食用赤色2号など、いわゆるタール色素類では、次のように使用できない食品の範囲が定められ、使用に制限が加えられている。
カステラ、きなこ、魚肉漬物、鯨肉漬物、こんぶ類、
しょう油、食肉、食肉漬物、スポンジケーキ、鮮魚介類(鯨肉を含む)、茶、のり類、マーマレード、豆類、
みそ、めん類(ワンタンを含む)、野菜及びわかめ類に使用してはならない。
 
一方、いわゆる天然添加物をなど、化学的合成品を除く着色料では、次のように使用できない食品の範囲が少なくなり、使用可能な食品が多くなっている。
こんぶ類、食肉、鮮魚介類(鯨肉を含む)、茶、のり類、豆類、野菜及びわかめ類に使用してはならない。ただし、のり類に金を使用する場合はこの限りでない。
 
この使用の制限は、β-カロテンや水溶性アナトーなど、天然物成分あるいは同様の化学的合成成分を主体とする指定添加物でも、同様に規定されている。
さらに、保健機能食品に限られているビオチン、保健機能食品でも、カプセル剤と錠剤とさらに制限されているステアリン酸マグネシウムなどもある。
 
3の使用目的、使用方法を規定するものでは、香料がその代表と言える。次に示す香料の例のように、目的が限られている。
アセトアルデヒド
アセトアルデヒドは、着香の目的以外に使用してはならない。
 
香料として使用される指定添加物では、溶剤として使用されることもある酢酸エチル、保存料としても使用されるプロピオン酸を除いては、この例のように、着香の目的に限られている。
 
また、エステルガム、ポリイソブチレン、ポリブテンのようにチューインガム基礎剤としての使用に限られるもの、シリコーン樹脂のように消泡の目的に限られるもの、dl-α-トコフェロールのように酸化防止の目的に限られるものなどもある。
 
4の使用後の処理に関しては、中和あるいは除去することが定められているものがある。
例えば、塩酸、硫酸、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの強酸や強アルカリの物質は、「最終食品の完成前に、中和又は除去すること」が規定されている。
イオン交換樹脂やシュウ酸では、「最終食品の完成前に分解すること」とされ、亜塩素酸ナトリウムや過酸化水素は、「最終食品の完成前に、分解又は除去すること」と規定されている。
さらに、ナトリウムメトキシドでは、「最終食品の完成前に分解し、これによって生成するメタノールを除去すること」と、分解後の除去まで規定されている。
 
2の使用量あるいは残存量での規定は、通常は、5に該当する、他の規定との組み合わせで決められており、この数値だけが規定されていることはまれである。ただ、事例は少ないが、次のような例がある。
L-グルタミン酸カルシウム
L-グルタミン酸カルシウムの使用量は、カルシウムとして食品の1.0%以下でなければならない。ただし、特別用途表示の許可又は承認を受けた場合は、この限りでない。
 
クエン酸カルシウム、乳酸カルシウムなど有機酸のカルシウム塩類は、同様に規定されているものが多い。
ただし、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウムなどは、次のように、使用目的が栄養の目的に特定される形になっており、5の組合せによる規定となっている。
グルコン酸カルシウム
グルコン酸カルシウムは、栄養の目的で使用する場合以外は食品に使用してはならない。
グルコン酸カルシウムの使用量は、カルシウムとして食品の1.0%以下でなければならない。ただし、特別用途表示の許可又は承認を受けた場合は、この限りでない。
 
この例は、3と2の組合せである。前回説明した不溶性の鉱物性物質も、チューインガムでの使用が認められているタルク以外は、食品の製造又は加工上必要不可欠な場合だけの使用が認められており、残存量の規定もあり、同様に3と2の組合せであった。
 
ところで、5に分類した組合せの使用基準では、1と2の組合せが最も多く、次のような形式で規定されている。
コンドロイチン硫酸ナトリウム
コンドロイチン硫酸ナトリウムは、魚肉ソーセージ、マヨネーズ及びドレッシング以外の食品に使用してはならない。
コンドロイチン硫酸ナトリウムの使用量は、コンドロイチン硫酸ナトリウムとして、魚肉ソーセージにあってはその1kgにつき3.0g以下、マヨネーズ及びドレッシングにあってはその1kgにつき20g以下でなければならない。
イマザリル
イマザリルは、かんきつ類(みかんを除く。)及びバナナ以外の食品に使用してはならない。
イマザリルは、イマザリルとして、かんきつ類(みかんを除く。)にあってはその1kgにつき0.0050gを、バナナにあってはその1kgにつき0.0020gを、それぞれ超えて残存しないように使用しなければならない。
 
組合せでは、次の例のように、3と4からなるものもある。
二酸化ケイ素
二酸化ケイ素(微粒二酸化ケイ素を除く。)は、ろ過助剤の目的で使用するとき以外は使用してはならない。
二酸化ケイ素(微粒二酸化ケイ素を除く。)は、最終食品の完成前に除去しなければならない。
 
3種以上の組合せの使用基準もある。
次の例では、対象食品(1)、残存量(2)とともに、使用方法(3)が定められている。
ジフェニル
ジフェニルは、グレープフルーツ、レモン及びオレンジ類の貯蔵又は運搬の用に供する容器の中に入れる紙片に浸潤させて使用する場合以外に使用してはならない。
ジフェニルは、食品の1kgにつき0.070g以上残存しないように使用しなければならない。
 
また、次の例は、対象食品、使用量および使用後の処理が規定されている。
臭素酸カリウム
臭素酸カリウムは、パン(小麦粉を原料として使用するものに限る。)以外の食品に使用してはならない。
臭素酸カリウムの使用量は、臭素酸として、小麦粉1kgにつき0.030g以下でなければならない。また、使用した臭素酸カリウムについては、最終食品の完成前に分解又は除去しなければならない。
 
さらに、複数の食品添加物を併用することが想定される場合には、併用した食品添加物を合算した使用量あるいは残存量が規定されることがある。
このようなものには、酸化防止剤のジブチルヒドロキシトルエンとブチルヒドロキシアニソール、マーガリンにおける保存料の安息香酸(安息香酸および安息香酸ナトリウム)とソルビン酸(ソルビン酸およびソルビン酸カリウム)、チーズにおける保存料のソルビン酸(ソルビン酸およびソルビン酸カリウム)とプロピオン酸(プロピオン酸、プロピオン酸カルシウムおよびプロピオン酸ナトリウム)などがある。
そのうち、プロピオン酸では次のように規定されている。なお、このプロピオン酸は、前述したように、香料として(着香の目的で)も使用されるため、さまざまな条件が規定されている珍しい品目である。
プロピオン酸
プロピオン酸は、チーズ、パン及び洋菓子以外の食品に使用してはならない。ただし、着香の目的で使用する場合はこの限りでない。
プロピオン酸の使用量は、プロピオン酸として、チーズにあってはその1kgにつき3.0g(ソルビン酸又はソルビン酸カリウムと併用する場合は、プロピオン酸としての使用量及びソルビン酸としての使用量の合計量が3.0g)以下、パン及び洋菓子にあってはその1kgにつき2.5g以下でなければならない。
 
増粘剤、安定剤などに使われる食品添加物は数も多く、併用することも多いことから、合算される食品添加物の数も多くなっている。その食品添加物は、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、メチルセルロースなどである。
 
このように、使用目的、使用方法に応じたさまざまな使用基準が設定されている。この基準を遵守し、食品添加物を有効に使用することが望まれる。
なお、多くの既存添加物、有機酸類やアミノ酸類を中心とする指定添加物の中には、使用基準が設定されていないものもある。このような食品添加物に関しても必要以上の使用は避けることが望まれる。
 
(了)


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