食品添加物基礎講座(37)
 
食品の品質の保持(1)
 
食品と品質の保持
 
2006年から2008年にかけて食品の品質に関するさまざまな問題が発生し、食品の安全あるいは安心について消費者が不安を募らせることとなった。しばらくの間、食品添加物の使用を中心に、食品の安全性を確保する手段を見直すことする。
 
問題になった食品の安全性と消費者の不安
ここ3年間に問題となったさまざまな食品の問題を大別すると、次のようになる。
 
@いわゆる食品偽装と呼ばれるもの
・食品の安全性を欠く偽装
・食品の安全性とは直接関係のない偽装
A食品の期限表示に関するもの
・安全性に疑問がある期限切れの食品
・安全性は保持されているが期限切れの食品
B食品の原材料表示に関するもの
・アレルギーに関する特定原材料等の表示のもれ
・食品での違法あるいは不適切な表示
Cその他
・食用以外の食品紛いものの使用
・食品への異物の混入
・咀嚼しにくい食品の販売
・その他
 
残念なことに、ここに挙げたように、さまざまな理由によって食品に関する問題がテレビ、新聞、週刊誌等で取り上げられ、消費者に食品への不安感を抱かせる結果になっている。
 
@の偽装では、その事例の多くは、原産国あるいは産地の表示を偽った(外国産を国産と、あるいは、国内産でも特定のブランド産地と称する)ものであり、偽装を行った業者のみならず、その関連する業界全体への不信感を募らせる結果になった。ただ、この偽装によって直ちに消費者の健康に危害を及ぼすものではない。しかし、有効成分量を多く見せかけるために、適正な成分以外の物質を添加した事例は、健康上甚大な被害を引き起こしている。中国における牛乳へのメラミンの混入は、たん白質に由来する窒素の見かけ量を増加することをねらったもので、中国国内で粉ミルクなどを与えられた乳幼児を中心に大きな健康危害を発生させ、また、そのような牛乳由来の原料を用いた乳製品を使用した多くの食品からメラミンが検出されたこともあり、中国製食品全般の安全性に危惧を抱かせる結果になっている。
また、カビの発生、基準値を超える農薬の混入が原因で食用には使えず、工業用の用途に限られて農林水産省管轄の政府機関から販売された「いわゆる汚染米」が、転売されて最終的に食品用の原材料として使用された事件が発生している。これは、転売を重ねることによって本来の使用条件から逸脱したものであるが、偽装の一つといえよう。カビの中には、アフラトキシンのような極めて微量でも発がん性を有する物質を生成する可能性があるものがあり、食用での使用は消費者を危険にさらすおそれがある。一方、農薬の混入に関しては、原料として使用された食品を摂取した程度では、直ちに健康面で危害を及ぼすものではなかったが、いずれにしても、販売時の条件を無視した業者のモラルが欠如による事件といえる。なお、この事件では、通常考えられる工業用向けの需要量を大幅に超えた量を販売していた政府機関の監督にも問題があったようである。
 
Aの期限表示に関しては、健康上の危害の発生も考えられる消費期限と、期限が切れても、直ちには、食べられなくなるわけではない賞味期限との違いに関して、厚生労働省、農林水産省及び関連諸団体から消費者などへの説明が不足していた。このため、一部の食品関連事業者を含め、報道関係者、消費者の多くが認識不足の状態であったことが、問題を大きくした一因となっている。ただ、理由のどうであれ、充分な根拠を基に、適切な期限の設定を行い、適正に表示することが求められる。この期限の設定に関しては、後でもう少し詳しく触れることにする。
 
Bの原材料の表示に関する事例では、アレルギーの発症に関わる特定原材料等に関するものが多く見られた。特定原材料等に関しては、食品衛生法に基づいて、適切に情報を提供する手段として、表示が規定もしくは奨励されているところであり、加工食品の製造者、販売者に充分な配慮が求められている。ところが、数多くの原材料を使用している加工食品にとって、中間的な加工食品の原材料で、特に特定原材料(エビ、カニ、小麦、ソバ、卵、乳、落花生)の使用または混入の把握が充分できない場合もあり、市販された後で混入が判明して、新聞広告などで回収等が知らされることも度々である。ただ、この特定原材料等の表示もれに関しては、現在のところ、回収もれ等が原因で重大な事故に至ったという情報が無いのは幸いである。
その他の原材料に関する表示に関しては、食品添加物は食品衛生法で表示とその基準が、素材食品などその他の原材料と表示の順序はJAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)で規定されている。問題とされた事例では、記載の順序の違反、記載すべき原材料の表示もれなどが指摘されている。この表示違反による衛生上、健康上の問題は発生していないが、製造者および販売者は適正な表示を行う必要がある。
 
Cのうち、異物の混入では、先に挙げたメラミン混入の事例、工業用米の食用への転用のような偽装があり、これらの他に、故意に混入されたものと考えざるを得ないほど多量の農薬が混入していたため、農薬中毒が発生した事件もあった。このように、食品製造に関わる事業者や従業員の自覚や責任感の欠如、管理体制の不備から、多くの消費者に健康上の危害を与え、不安を増大させる事件が発生している。
一方、食品加工の装置、容器包装等の不備による破損破片の混入が問題となる場合も多い。このような破片により、食べたときに、けがなどの健康被害を引き起こすこともあり、製造用の装置、容器包装よう資材などの保守管理に充分気を付ける必要がある。
さらに、コンニャクゼリーに見られるような、咀嚼しにくい食品での事故は、食べる本人と周囲の人たちの注意も大事なことと考えられるが、事故の起きないような形態や性状への改善など、より一層の研究開発が望まれる。
 
これらの事例を冷静に見たとき、中には上述したように、衛生上、健康上は危害の発生が予測されないものもある。これらは、食品の安全性とは直接的な関係がないものもある。しかし、一部のマスコミ報道を含め、消費者の中には、報道された問題全てが食品の安全性に関わるものと誤解されている向きも見受けられ、食品に対する不安感が増大する原因の一つになっている。
このような消費者の不安感を解消するためには、食品製造に関わる事業者は、より適切な製造とその管理に務めるとともに、適正な表示を行うことが求められている。特に、偽装を行うようなモラルの欠如した業者に食品を扱わせることは、厳に慎むべきこと言えよう。
さらに、近年は原料の入手、製造または加工の経費等の関係で、海外、特に中国で製造し、日本国内に輸入される食品(製品および中間製品)が、食品供給の大きな部分を占めるようになっている。この点も念頭に、輸入業者は現地の生産地、工場等において充分な管理、確認を行うことも求められている。
 
食品の期限表示と品質の保持
一連の食品の安全性に関する問題の一つに、食品の期限に関する表示の違反がある。現在、加工食品などでは、「消費期限「と「賞味期限」という2種類の表示か行われている。両者は耳で聞いた場合、音も似ており、同じような意味に取られている場合もある。しかし、それぞれ次に示すとおり説明されており、期限を過ぎた場合の扱いには違いがある。
消費期限
定められた方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限を示す年月日をいう。
賞味期限
定められた方法により保存した場合において、期待されるすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日をいう。ただし、当該期限を越えた場合であっても、これらの品質が保持されていることがあるものとする。
 
両者の説明を一見しただけで、本来は扱いが異なるにも関わらず、腐敗等で劣化が早い食品は消費期限で表示し、その他の食品は賞味期限で表示するということだけが規定されていると受け取られている傾向がある。さらに、期限という用語から表示された日付が、その食品を食べることができる最終日であるという誤解も見受けられる。
消費期限に関しては、概ね5日間以内の日持ちの場合に使用するように解釈されているが、腐敗や変敗などが考えられることから、中には期限を最終時刻まで表示していることもある。このように期限は厳守すべきものであり、食中毒の発生など、健康上の危害を防ぐ意味からも、表示された期限までに食べる必要がある。
一方、賞味期限に関しては、おいしく食べることができる目安の期限と考えるべきであり、ただし書きが付けられているように、その期限を超えた場合でも、品質は保持されていることが一般的である。従って、期限を過ぎたら直ちに廃棄しなければならないという限度を示すものではない。
206年から2007年にかけて問題が続発した当初は、二つの期限表示に意味の違いがあることを、食品を提供していた業者さえ理解しておらず、新聞の広告欄に、たとえ数日であっても、賞味期限切れの商品を販売または提供したことに対してお詫びや回収の告知広告が出されていた時期があった。冷静に考えた場合には、その必要性がなかったものが多かったことと推察される。
このような期限表示が問題になったのは、期限の設定に関して適切なデータに基づいた適正な表示が行われていなかったことが、大きな原因となっていた。
本来、期限を設定する際には、次のような手順が踏まれる。まず、該当する食品について、基礎となる日持ちに関するデータを蓄積し、このデータから品質が保持されるうち最短の期間および平均的な期間を得る。通常は最短の期間に安全率を乗じて、製造者として採用する食品の製造後の期間を定める。この期間を基に、個々の食品に適切な期限を表示する。なお、安全率は1.0以下であるのは当然であり、食品の状態(水分、加熱の有無など)により違いがあるが、通常は0.6から0.9となっている。
ところが、比較的長期間の日持ちが可能な食品における賞味期限に関しては、このような手順を踏まずに、これまで行ってきた表示を踏襲すること、類似食品の表示を参考にして期限を設定することも行われていた。さらに、購入者に新鮮さを強調する目的で必要以上に短い期限を設定していることもあった。特に、必要以上に短い期限が設定された食品では、製造者は、期限に達した後でも、充分に品質が保持されており、食べても問題ないことを知っているため、表示上の期限切れを承知の上での販売や、返品後の再出荷などが行われていた模様である。このようにさまざまな理由で、期限表示が不適切であっていたことが、表示における違反に問われた一因になっていたものもある。
食品の期限表示を決める最大の因子が、個々の食品の品質が保持される期間であることは言うまでもない。この品質は、適切な条件の下で、一般的には、出来うる限り長く保持しうることが望まれる。その期間を長くするには、次のような条件がある。
 
・清浄な原材料の使用
・清潔な食品製造作業場
・作業場で使用する機器設備の清浄と保守
・作業員の適切な衛生管理
・適切な包材の選択
・日持ちを保持する適切な食品添加物の使用
 
食品の品質の保持に寄与するこのような条件のうち、清潔な作業環境は必須の条件と言えよう。それでも、食品の特性によっては、適切な食品添加物を使用することが効果的な場合も多い。食品添加物が使用されるのは、原材料の清浄化の際と、日持ちの保持を目的とした場合が主になっている。
 
食品の品質の保持に使われる食品添加物
食品の品質保持の手段として使用される食品添加物には、さまざまな使用目的がある。その目的は、次のようなものである。
 
・原材料として使用される素材食品の洗浄
・原材料として使用される素材食品の殺菌
・貯蔵中の穀類(素材食品)の殺虫
・食品の貯蔵輸送の際に発生するカビの発生防止
・素材食品および加工食品の腐敗の防止
・素材食品および加工食品の酸化の防止
・加工食品の性状の保持(保湿・老化防止など)
 
このようにさまざまな目的で食品添加物が使用されている。食品添加物は、その使用目的に合わせた用途名や一括名が採用され、加工食品などの原材料表示に使用されている。上記の食品添加物を、表示の区分を参考にしてまとめると、次のようになる。
 
・乳化剤(洗浄目的、老化防止目的など)
・殺菌剤(殺菌目的)
・殺虫剤(表示には使わず)
・防かび剤(カビの防止目的)
・保存料(腐敗防止等の目的)
・酸化防止剤(酸化防止の目的)
・日持向上剤(短期間の腐敗防止・酸化防止)
・製造用剤(保湿の目的、柔軟性保持の目的など)
 
食品添加物をこのように分類したが、これは便宜的なものであり、亜硫酸塩類のように、殺菌、酸化防止、保存の目的とさまざまな効果を期待して使われているものもある。
今後、食品の品質を保持するために、さまざまな工程で使われる食品添加物について見直していく。


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