食品添加物基礎講座(42)
食品の品質の保持(6)
品質を保持するための補助となる日持向上剤
食品の品質を保持するために、使用される食品添加物として酸化防止剤と保存料、この両者の効果を有する亜硫酸塩類について少し詳しく説明してきた。今回は、これらの食品添加物ほどには、効果は高くないが、数時間から数日の日持ちを向上させるには有効な日持向上剤(アルコール製剤を含む)について見直しを行おう。
 
日持向上剤とは
食品の品質を保持するには、清浄な原料を使用し、適切な温度管理を行うとともに、工程に合わせる形で食品添加物を使うことが一般的である。原料の清浄化では洗浄に乳化剤や乳化剤を含む食品用洗浄剤(食品添加物としては扱われないが、主要成分が食品添加物で構成されている場合が多い)、殺菌目的で殺菌料を使用する。油脂系の食品では、酸化の防止を目的に酸化防止剤が使われる。さらに、工程の終盤では、完成された食品の品質の保持を目的として保存料が使われる。
酸化防止剤、あるいは保存料は、食品の表示に関する規定で、用途名と併記することが定められている食品添加物であり、これらの表示がある場合には、適切な保管条件を守れば、品質の保持を保証しうる効果を有するものである。
食品添加物の中には、このような酸化防止剤あるいは保存料と類似した機能を持つが、これらに比べて効果が弱いもある。このような食品添加物を使用したときに、効果のある食品添加物と同じ用途名を併記させると、消費者に安全性の高い食品であると誤解を与え、食品衛生上の予期せぬ事故の基になることも考えられる。このため、食品添加物の表示方法を検討していた際に、これらの効果の弱い食品添加物に関しては、用途名の併記は義務づけず、物質名による表示を行うことになった。
また、さまざまな食品添加物製剤の表示に関して検討された際、このような酸化防止剤あるいは保存料と類似した機能を持つ食品添加物を主剤とする製剤も検討され、日持向上剤というグループでまとめることになった。
食品添加物の業界ではこの日持向上剤の製剤を、主剤となる成分と法律などとの関係で、さらに次の2種類に分けている。
 
・日持向上剤製剤
・アルコール製剤
 
日持向上剤製剤
食品の日持ちを短期間維持する機能を有する食品添加物としては、次のものが挙げられる。
・(氷)酢酸と酢酸ナトリウム
・グリシン
・グリセリン脂肪酸エステル(中鎖に限る)
・チアミンラウリル硫酸塩
・リゾチーム
以上、主要6品目
・カンゾウ抽出物
・トウガラシ水性抽出物
・ユッカフォーム抽出物
以上、日持向上剤としての用途がある製造用剤
その他に、第3次の既存添加物名簿消除品目の候補として、現在調査中のものもある。2010年中には消除予定品目が公示される予定になっており、その結果によっては既存添加物から除外され、日持向上剤としても使用できなくなる品目も出てくるものと考えられ、新製剤を開発研究する際には注意を払う必要がある。
さらに、セイヨウワサビ抽出物、セージ抽出物、チャ抽出物、ローズマリー抽出物など酸化防止剤の機能があるとされている品目も日持向上剤の主剤として使用できるとされているが、その効果が長期間維持されるようであれば、日持向上剤製剤ではなく、酸化防止剤製剤として考えるべきものとなる。これらの点にも留意する必要がある。
このようにさまざまな品目を主剤とした日持向上剤製剤があるが、これらの効果をより発揮できるように有機酸類やリン酸の塩類などを併用することがある。これは、酸化防止剤製剤におけるシネルギスとの考え方に通じるものである。これらの食品添加物は、総量として主剤の50%以下でかつ製剤中の20%以下の場合は副剤とみなされ、食品の製造に使用された場合はキャリーオーバーとして表示の省略が認められている。
 
アルコール製剤
医薬品としてのアルコールの静菌性、殺菌・消毒用の使用は広く知られているところであり、このアルコールの静菌性を生かして、食品の日持ちの向上に使用される。
アルコールは、一般飲食物添加物として扱われているエタノールを指すものであり、使用するアルコールは、発酵法で製造し、精製されたエタノールに限られる。合成的な手段を経て製造されたエタノールは使用できない。このエタノールを主要な成分として配合された製剤が、アルコール製剤である。
ところで、エタノールは、酒税法との関連もあり、販売上の規制がある。このため、購入に際しては納入業者との打ち合わせが必要であり、事前に日持ちの効果を立証するデータを作成し、経済産業省の認可を得て、免税措置を得ることも検討に値する。
このアルコール製剤の効果をより高める目的で、上記の日持ち向上剤製剤の場合と同様に、食品添加物を配合されることが一般的である。この場合、副剤として扱われるには、日持ち向上剤の主剤となる食品添加物を加えることもある。その際には、これらの個々の配合量は、製剤中の1%以下(リゾチームは0.2%以下)とし、複数使用するときは更に合算して3%以下とするなど細かい基準も定められている。
このような規定があることを念頭に、製剤を開発する際には、技術面だけではなく、表示の面からの配慮も必要となる。
 
食品に使用した場合の表示
日持向上剤は、アルコール製剤も含めて、一括名としては採用されておりません。このために、食品に使用した場合は、主剤となる食品添加物を物質名で表示することになります。この表示に際しては、副剤と見なされる食品添加物をキャリーオーバーとみなして表示を省略できることも含め、通常の表示の原則に従うことになる。
この後、加工食品における表示の事例を見ていくことにする。
先ず、アルコール以外の事例をみよう。
名  称 食パン

原材料名

 
小麦粉、糖類、ファットスプレッド、パン酵母、食塩、マーガリン、発酵種、脱脂粉乳、植物油脂、醸造酢、乳化剤、酢酸Na、イーストフード、V.C、(原材料の一部に大豆を含む)
名 称 こし餡入り わらび餅

原材料名
 
砂糖、トレハロース、小豆、澱粉、きな粉(遺伝子組換えでない)、還元水飴、はす粉、わらび粉、グリシン (原材料の一部に大豆を含む)
 
食パンの例では酢酸ナトリウムが使われており、わらび餅の例ではグリシンが使われている。
この2品目は、日持向上剤として使われる代表的な品目である。さまざまな食品で表示されていることが確認できる。
なお、わらび餅に使われたトレハロースは、表示の位置から食品添加物(既存添加物)ではなく、素材食品として使ったものと見なされる。本来の使用目的を明確にしておくことが望まれる。また、澱粉には加工デンプンが配合されていることが考えられる。配合と加工デンプンの使用目的の明確化も求められる。
 
ついで、数品目を併用している「蒸しケーキ」の事例を見てみよう。
名称/和生菓子 原材料名/卵・砂糖・小麦粉・植物油脂・豆乳・食塩・ソルビット・乳化剤・膨脹剤・糊料(増粘多糖類)・グリシン・酢酸Na・香料・グリセリンエステル・(原材料の一部に乳成分を含む)
 
この蒸しケーキでは日持向上剤としてグリシン、酢酸ナトリウムおよびグリセリン脂肪酸エステルが使用されている。
グリセリンエステルと表示されているグリセリン脂肪酸エステルは、通常は乳化剤として使用されるが、中鎖の脂肪酸からなるグリセリン脂肪酸エステルは、静菌性を持つために日持向上剤としても使用される。
 
同様に、「みたらしだんご」の事例を見てみよう。
名称/和菓子 商品名/みたらしだんご 
原材料名/上新粉、砂糖、餅粉、醤油、トレハロース、澱粉、水飴、酵素、乳化剤、カゼインNa、グリシン、pH調整剤、グリセリンエステル、
(原材料の一部に小麦、大豆、乳を含む)
 
このみたらしだんごでは、グリシンとグリセリンエステルと表示されているグリセリン脂肪酸エステルが日持ちの向上に使われている。
また、この日持向上剤の効果をより強く発揮させるために、食品のpHを低く押さえる目的でpH調整剤が併用されている。
日持向上剤製剤に、効果を高める目的でpH調整剤の成分を配合することもあり、その配合量によっては副剤として表示の際にキャリーユーバーとして認められるが、規定の量を超えて配合された場合や、日持向上剤製剤とは別に添加使用したときは、この例のように表示が必要となる。
なお、トレハロースと澱粉に関しては、わらび餅の例と同様に確認が必要である。
 
次の事例は、エタノールを使用した例である。
名 称:そうざい (しぐれ麩生姜)
原材料名:小麦たん白、たまり醤油(大豆、小麦粉)、砂糖、米あめ、生姜、食塩、アルコール
 
エタノールは、エタノール、アルコールあるいは酒精と表示することが認められており、この例はアルコールと表示したものである。エタノールは、醤油に日持ち向上の目的で使用されることもあるが、この例では、そうざいそのものの日持ちを向上させる目的で使用したことから表示されたものである。
名  称          塩 漬

原材料名
 
ミブナ、人参、漬け原材料(たんぱく加水分解物、食塩)、調味料(アミノ酸)、酒精、
(原材料の一部に大豆を含む)
 
この塩漬の漬物では、エタノールを酒精と表示している。このように表示使う物質名は、表示スペースなども勘案して適宜選択されている。
 
日持向上剤は、酸化防止作用や保存性の向上の効果が強くないことから、必要に応じて、酸化防止剤や保存料と併用されることもある。特に、数多い素材食品を使用する場合や、弁当やサンドイッチなどの組み合わせ食品などでは、素材として使用した食品からの持ち越しなどもあり、一般的とも言えるほどよく見受けられる。
 
次にそのような事例をいくつか見ることにする。はじめは酸化防止剤を併用している事例である。
名  称 菓子パン



原材料名


 
カスタードクリーム・小麦粉・糖類・マーガリン・加工油脂・卵・乳等を主要原料とする食品・パン酵母・食塩・ショートニング・グリシン・乳化剤・増粘剤(増粘多糖類・アルギン酸エステル)・香料・酢酸Na・酸味料・イーストフード・リン酸塩(Na)・着色料(ビタミンB・カロチン)・ビタミンC・酸化防止剤(ビタミンE)・(原材料の一部に卵・小麦・乳成分・大豆を含む)
 
これはクリームパンの例であるが、日持ち向上の目的で、グリシンと酢酸ナトリウムが使われており、酸化防止剤としてビタミンEが使われている。本品には、マーガリン、加工油脂、ショートニングなど酸化による品質への影響を受ける油脂を含む素材食品が使われており、日持向上剤より効果のある酸化防止剤の使用が求められたものと考えられる。なお、ビタミンCは、酸化防止剤としても使用されるが、この菓子パンではパンの製造の際に小麦粉の改質を目的として使用されたものである。
 
続いて、保存料を併用している事例を示す。
名  称 菓子


原材料名

 
小麦粉、砂糖、全卵、動植物性マーガリン、オリゴ糖、バター、植物性油脂、レモンジュース、食塩、乳化剤、グリシン、保存料(しらこたん白)、香料、膨張剤、増粘剤(キサンタンガム)、カロチノイド色素、(原材料の一部に大豆、さけを含む)
名称:おにぎり
原材料名 チキンライス(米、ケチャップソース、玉葱、鶏肉、ブイヨン、発酵風味料、植物油脂、食塩、こしょう)、卵焼、デミグラスソース、調味料(アミノ酸等)、酢酸Na、pH調整剤、増粘剤(キサンタンガム)、保存料(核たん白)、カラメル色素、パプリカ色素、ベニコウジ色素、グリシン、リン酸塩(Na、K)、(その他小麦、牛、大豆、りんご由来原材料を含む)
 
この2種の食品は、日持向上剤であるグリシン若しくは酢酸ナトリウムとグリシンとともに、保存料のしらこたん白抽出物が使われている。
このしらこたん白抽出物は、中性領域での保存性の向上に寄与する性質を持つため、pHを低くすることができない食品で使われている。このしらこたん白抽出物は、原材料の表示に際して、多くの表示方法が認められている。その中では、「しらこたん白」、「プロタミン」などと表示されることが多いが、「核たん白」も認められた表示である。
おにぎりでは、しらこたん白抽出物の特性にも関わらず、pH調整剤が使用されている。これは、日持向上剤などの効果を高める目的で、予め製剤化されていたものと考えられる。
保存料の代表は、ソルビン酸類であり、次のように、このソルビン酸類との併用の事例もある。
 
名称/菓子パン 原材料名/小麦粉・コーヒーフラワーペースト・ミルクコーヒーフラワーペースト・でんぷん・加工油脂・糖類・卵・パン酵母・食塩・小麦たんぱく・ホエイパウダー(乳製品)・脱脂大豆粉・全粉乳・乳化剤・膨脹剤・イーストフード・ビタミンC・増粘多糖類・グリシン・酢酸Na・pH調整剤・保存料(ソルビン酸)・着色料(カカオ・カラメル)・香料・(原材料の一部にゼラチンを含む)
 
品名:弁当
原材料名:ご飯、鶏照焼、煮物(蒟蒻、筍、人参、その他)、鶏そぼろ、金平ごぼう(蒟蒻入り)、玉子そぼろ、小茄子漬、椎茸煮、植物油、酢、調味料(アミノ酸)、pH調整剤、V.B、増粘多糖類、グリシン、酸化防止剤(V.C)、リン酸塩(Na)、酢酸Na、水酸化Ca、酸味料、保存料(ソルビン酸K)、漂白剤(次亜硫酸Na)、着色料(カラメル、カロチノイド)、香料、(原材料の一部に卵、小麦、乳成分、さば、大豆を含む)
 
いずれも日持向上剤のグリシン、酢酸ナトリウムが使われており、pH調整剤も併用されている。
はじめのコーヒーフレーバーの菓子パンでは、保存料のソルビン酸が使われており、後の弁当(鳥めし)では、ソルビン酸カリウムが使われている。菓子パンや弁当そのものへのソルビン酸類の使用は認められておらず、素材食品に使用されていたものである。かしぱんでは、フラワーペーストの保存性の向上を目的としてソルビン酸が使われ、主要素材であることから、キャリーオーバーに該当しないことで表示されたものと考えられる。弁当では小茄子の漬物に保存性を付与する目的でソルビン酸カリウムが使用されたものと考えられる。
 
ここまで示してきた事例のように、消費期限や短期間の賞味期限の食品では日持向上剤も、品質を維持するために重要な役割を果たしていることが理解されよう。


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