食品添加物基礎講座 (その5)
食品を形作る食品添加物 (1)
 
この講座の第2回で食品添加物の機能的な役割を振り返っている。今回からは、本講座の主眼である、食品添加物の役割について、さらに詳しく見ていくことにする。まず、食品を形作る食品添加物から入ることにしよう。
 
食品を形作る食品添加物
食品には、さまざまな形態がある。その特有の形態と食感を形成する目的で使用される食品添加物がある。
加工食品は、さまざまな形をしており、そのうち主な形態には、次のようなものがある。
・固形状食品
・粉末状食品
・ゲル化食品(ゼリー状食品)
・乳化上食品
・液状食品
・特殊形態(顆粒、錠剤、カプセルなど)の食品
 
このようなさまざまな食品の形態を形成させ、特有の食感を付与するためには、その形態に応じた食品添加物が使用される。そのような食品添加物には、次のようなものがある。
・膨脹剤:ふくらし粉などとして製菓などで使う。
・凝固剤:豆乳に添加して豆腐を形成させる。
・増粘剤:食品の粘度を高める。
・ゲル化剤:ジャム、ゼリーなどを形成する。
・乳化剤:乳化溶液を作る。
・乳化塩:プロセスチーズ製造で、乳化させる。
・安定剤:さまざまな形態を安定させる。
・顆粒化剤:顆粒化した食品を調製する。
・固結防止剤、粘着防止剤:粉末、顆粒を安定させる。
 
これらの、食品を形成させるために使われる食品添加物に関して、順次説明を加えていく。なお、これらのうち、増粘剤、ゲル化剤、安定剤は糊料あるいは増粘安定剤の名称で一括したグループに含まれる。
 
豆腐を形作る豆腐用凝固剤
豆腐は、すりつぶした大豆の水溶液-豆乳-のたんぱく質を凝固させることによって、水を含んで固まった形態と食感を特徴とする伝統的な加工食品である。
たんぱく質は、カルシウムやマグネシウムのような金属塩と反応することによって凝固する場合と、酸の作用により凝固する場合がある。
豆腐の製造にもこの2種類の凝固方法が使われており、場合によっては、組合せて使用される場合もある。
この凝固には、主に次の食品添加物が使用される。
・塩凝固
塩化マグネシウム、粗製海水塩化マグネシウム、
塩化カルシウム、
硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム
・酸凝固
グルコノデルタラクトン
この6種類のうち、よく使用されているものは、塩化マグネシウム、粗製海水塩化マグネシウム、硫酸カルシウムおよびグルコノデルタラクトン(GDL)である。
塩化マグネシウムと粗製海水塩化マグネシウムは、いずれも「にがり」と呼ばれてきたものであり、豆腐用凝固剤の代表といえる。粗製海水塩化マグネシウムは、塩化マグネシウム含有物とも呼ばれている。
硫酸カルシウムは、第2次世界大戦中は軽合金の素材であるマグネシウム塩が使えなかったことがあり、このときに凝固剤として開発されたもので、「すましこ」とも呼ばれてきたものである。一時期、凝固剤の主体として使われたこともある。
グルコノデルタラクトンは、水に溶けてグルコン酸になって酸凝固させるもので、充填豆腐などで使われる。
これらは、加工食品での食品添加物の表示に際して、一括名で、「豆腐用凝固剤」あるいは「凝固剤」と表示することが認められている。厚生労働省の通知では、この凝固剤に関して次のように定義している。
 
大豆から調製した豆乳を豆腐様に凝固させる際に使用される添加物及びその製剤
 
実際の豆腐での表示では、多くの場合、「凝固剤」が使われている。なお、豆腐に際しては一括名で表示した上に物質名での表示が行われている場合もある。
特に、豆腐の凝固には、昔から「ニガリ」が使われてきたことが知られている。表示を検討する際に、「ニガリ」という表示も行ないたいとの強い要望があり、物質名を表示した後に、さらに注記する形で追加表示することが認められている。このニガリは、塩化マグネシウムを主体とする塩類であり、塩化マグネシウムと、粗製海水塩化マグネシウムが該当する。この物質名の表示を行なわず、「ニガリ」と単独で表示する間違いも見受けられる。このような間違いを犯さないよう留意する必要がある。
 
これらの他に、乳酸の環状二量体であるジラクチドを主体とする粉末(乳酸120%などと表示されている)も、凝固剤としての研究が進められたことがあるが、現在は使われていない。一括名の対象になっていないため、使った場合には物質名「乳酸」での表示となる。
このような豆腐を凝固させる食品添加物は、厚揚げ、がんもどき、油揚げなどの豆腐派生食品でも使われる。
 
コンニャクの凝固に使われる食品添加物
コンニャクは、豆腐と同様に水を含んで固められた食品である。豆腐がたんぱく質を主体とした凝固体であったのに対して、コンニャクはグルコマンナンを主体とする糖類の凝固体である。糖類を凝固させるのは、豆腐のような塩や酸ではなく、アルカリであることも大きな特徴である。
コンニャクの凝固には、一般的には、消石灰とも呼ばれる水酸化カルシウムが使われる。最近は、焼成カルシウムが使われることもある。ただし、この主体は生石灰と同じ酸化カルシウムであり、水に溶かし込んで使用するときには水酸化カルシウムになっていることから、全く同じものが、コンニャクの凝固用に使われていることになる。
このコンニャクの凝固に使われる食品添加物は、一括名が認められておらず、物質名で表示されている。時によると、物質名表示の後に、「コンニャク凝固用」などという説明が付け加えられていることもある。
また、コンニャクは、凝固用に使用するアルカリ剤の影響で、日本では数少ないアルカリ性を示す食品であることも、特徴的である。
 
膨脹剤
膨脹剤は、表示の際の一括名でもあり、厚生労働省の通知で次のように定義されている。
 
パン・菓子等の製造工程で添加し、ガスを発生して生地を膨脹させ、多孔性にするとともに食感を向上させる添加物およびその製剤。
 
膨脹剤の機能は、この定義で言い尽くされているとも言える。しかし、この機能を発揮するガスをどのように発生させるかで、膨脹剤がいくつかのグループに分けられる。
先ず、単独で膨脹剤として使われるか、製剤で効果を発揮するかに分けられる。
一般的には、製剤の形のものが使われるが、例外的には、炭酸水素ナトリウム単独で使用される場合もある。炭酸水素ナトリウムは、重曹と呼ばれ、「ふくらし粉」と称されて、昔から使われてきたものである。これは、炭酸水素ナトリウムが、加熱されることによって分解して炭酸ガスを発生する性質を使うものである。
一方、製剤として使われる膨脹剤には、製剤としての成分規格が定められているように、剤形によって、一剤式のものと二剤式のものがある。家庭用に販売されているベーキングパウダーは一剤式であり、業務用も一剤式のものが多くなっている。
また、発生するガスには、炭酸ガスのものとアンモニアガスのものがある。
これらの製剤は、発生ガスの元となる炭酸塩またはアンモニウム塩と、これらと反応してガスを発生させる酸性成分からなる。さらに、使用するまでは、反応が進まないようにする緩衝剤となる成分が含まれていることもある。
このように製剤で、組み合わせて使用されるため、通知では、一括名の「膨脹剤」の範囲となる食品添加物として、酸性成分までを含んだ形で示されている。
製剤化された膨脹剤に使われる食品添加物のうち、主要成分としてガスの発生に関与するものは、次のとおりである。
塩化アンモニウム、
炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、
炭酸カリウム、炭酸カルシウム、
炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム
炭酸マグネシウム
また、これらと反応してガスを発生させる目的で配合されるもののうち、主なものには、次のものがある。
アジピン酸、L-アスコルビン酸、
クエン酸、グルコノデルタラクトン、
L-酒石酸、L-酒石酸水素カリウム、
ピロリン酸二水素カルシウム、
ピロリン酸二水素二ナトリウム、
フマル酸、フマル酸一ナトリウム、
硫酸アルミニウムカリウム、
DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、
リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、
リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム
ここで示したように、酸性成分は製剤化しやすい粉末が主体の固体となっている。ところで、通知のリストには、通常は液体である乳酸も示されている。これは、豆腐用の凝固剤のところで言及したように、固状の乳酸が存在することから、膨脹剤にも使われ得るということでリストに入れられているものである。
なお、「膨脹剤(みょうばん)」と表示した食品が見受けられたことがある。この表示は、ミョウバン(硫酸アルミニウムカリウムの簡略名)を膨脹剤として使用したことを意味している。しかし、硫酸アルミニウムカリウムは膨脹剤として単独で使用することはなく、通常は炭酸塩を主剤とした製剤に配合されるものである。したがってこのような表示は、不適切といえる。
このような間違った表示を行なわないように、注意をはらう必要がある。
 
(2010年4月25日 加筆・改訂)


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