食品添加物基礎講座 (その6)
食品を形作る食品添加物 (2)
 
今回は、食品を形作る食品添加物の2回目として、糊料・増粘安定剤類を見直そう。
 
さまざまな機能を持つ糊料・増粘安定剤
前回さまざまな形態の食品を形成する目的で使用される食品添加物を概説したが、これらのうち、増粘剤、ゲル化剤、安定剤などいろいろな機能を有するものが、糊料あるいは増粘安定剤と呼ばれるものである。
かつては、糊料は化学的な合成品を指すときに使用され、増粘安定剤は天然系の食品添加物に使われていたこともあるが、現在では同じ範疇の総称として使われるようになってきている。
これは、かつて、食品添加物としての指定の対象が化学的な合成品だけに限られていた時代があり、この時、今回説明するような目的で使用した指定添加物は、食品に「合成糊料」を「使用」、「添加」などの用語とともに表示することが義務づけられていたことから、糊料は化学的合成品を指すものとみられ、一方、表示が義務づけられていない天然系の糊料類は、指定添加物と区別するための別の名称として「増粘安定剤」が使用されていたことによっている。
その後、1989年(平成元年)には、食品添加物の全面表示が実施されたために、天然系の食品添加物も表示の対象になり、1995年には、新たに開発される天然系の食品添加物も指定の対象になった。このことにより、糊料と増粘安定剤を区別して使い分ける必然性がなくなり、当たりの柔らかい増粘安定剤という用語が、糊料全般を指す名称として一般化してきたものである。
ところで、後で表示の仕方でも触れるが、「糊料」は、表示のための用途名になっている。一方、増粘安定剤は、用途名にはなってない。このため、使用した食品への表示では、増粘安定剤は用途名として使用できない。ここに大きな違いがあり、間違わないように気を付ける必要がある。
 
ゼリー状食品を形成するゲル化剤
ゲルとは、ゾルの状態のものが凝結してゼリー状に固まった状態を指すものである。そのゾルとは、微小粒子あるいは高分子が液体の中に分散していて、全体として流動性がある状態を指している。ゾルの状態からゲルに移ることをゲル化といい、このゲル化を助ける食品添加物が、ゲル化剤である。
このことを簡単に言うと、ゼリー状食品の形成に使われる食品添加物が「ゲル化剤」ということになる。
ゲル状の食品の代表としては、ジャムと菓子のゼリーがある。いずれも多くの場合、ゲル化剤(アルギン酸Na)、ゲル化剤(ペクチン)、ゲル化剤(増粘多糖類)などと、用途名と物質名を併記する形で、使用したゲル化剤が表示される。
 
食品の粘性を高める増粘剤
粘性のある食品は、ソースのような液状あるいは流動性のある食品や、菓子に使われるクリームやバッターのようなペースト状の食品など、様々である。このような粘性のある食品を形作るためや、食品の粘性を増すために使われる食品添加物が増粘剤である。
この増粘の目的で使用されたときは、増粘剤(CMC)、増粘剤(キサンタン)のように表示されるが、表示の仕方で説明するように、単に「増粘多糖類」とだけ表示される場合もある。
 
作り上げられた食品の状態を保つ安定剤
上に挙げたゲル化剤や増粘剤などを使用して形成した食品、オーバーランでソフトに盛り上がったアイスクリーム、清澄な液を含む缶詰などの食品で、その状態を安定化させる目的で使用する食品添加物が安定剤である。
このような安定化が求められる機能としては、食品のテクスチャーの保持、液に懸濁しているものの分散、食品の保湿・保水、食品の結着、乳化液・乳濁液の安定化などがある。
このような食品の形態の安定化を目的として使用した場合は、安定剤(アルギン酸Na)、安定剤(カラギナン)、安定剤(アカシアガム)などと用途名に物質名を併記する形で表示される。
 
全体を示す糊料
年輩の方々には、かつて合成糊料という表示がされた食品を手にした人も多いのではなかろうか。糊料とは、この化学的に合成された糊料と、かつて増粘安定剤と称されていた天然系の食品添加物を併せた総称であり、加工食品等での食品添加物表示に使用できる用途名の一つである。その範囲は、ゲル化剤、増粘剤および安定剤の全てを含むものである。
用途名が4種類にもなったのは、できることなら表示義務のあった合成糊料というイメージが残る名称での表示を避けたいという食品業界および食品添加物業界の強い要望があったことも事実である。この要望を実現するために、海外で広く使用されていた機能を表す用語から、Gelling agent(ゲル化剤)とStabilizer(安定剤)を採用し、さらに主要の機能である増粘剤の3種類の機能を持つものとされたのである。ところでThickening agentあるいはThickenerと言われるものは、糊料とも増粘剤とも和訳されてきたこともあり、現在も増粘に限らず糊料全体の機能を示す用語と解釈されている。糊料が残されたのは、食品添加物の原則全面表示に移行する際に、当時使用されていた用途を示す用語を継続させるという方針に従ったものでもある。
この糊料を用いた表示では、糊料(グァーガム)のようになる。
なお、錠剤などの崩壊剤として使用されているカルボキシメチルセルロースカルシウムもかつては合成糊料と表示されていたが、この崩壊剤としての機能は、現在の糊料の機能とされている3種類の使用目的には該当しないという見方もあり、糊料として表示すべきか否かは明確でない。
 
新しく指定された加工デンプン類
国際的に汎用されている食品添加物を、日本でも使用できるようにする指定に向けての検討品目として、加工デンプン類も検討されてきた。その結果、2008年10月1日に、次の11品目の加工デンプン類が新たに食品添加物として指定され、成分規格も設定された。
アセチル化アジピン酸架橋デンプン,
アセチル化酸化デンプン,
アセチル化リン酸架橋デンプン,
オクテニルコハク酸デンプンナトリウム,
酢酸デンプン,
酸化デンプン,
ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、
ヒドロキシプロピルデンプン,
リン酸架橋デンプン,
リン酸化デンプン,
リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン
これらの加工デンプンは、かつては化工デンプンとも称され、海外からの輸入に際しては、デンプンの範疇とみなされてきたが、国際的には食品添加物として評価され、使用されていることから、日本でも食品添加物に加えられたものである。11品目の中では、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムは乳化の目的で使用されることもあるが、そのほかの10品目は、糊料および製造用剤として使用される。それぞれに、糊化温度、粘性などに違いがあるため、必要に応じて使い分けされたり、組み合わせて使用される。
 
糊料等を使用した食品での表示
このような糊料類を使用した加工食品における食品添加物の表示は、前述してきたように、用途名と物質名を併記することになる。その使用目的と、用途名の関係は次のようになる。
 
・ゲル化の目的で使用:ゲル化剤または糊料
・増粘の目的での使用:増粘剤または糊料
・安定化の目的での使用:安定剤または糊料
 
ここに示したように、糊料はいずれの使用目的に対しても使用できる。このことは、一つの食品に増粘の目的で使用したものと、安定化の目的で使用したものがあるときに、それぞれの用途名と物質名を併記する代わりに糊料という用途名でまとめ、これに物質名を併記することもできることを示している。
さて、増粘剤として使用した場合に、用途名と物質名の併記ではなく、増粘多糖類とだけ表示されているものがあることに触れた。この増粘多糖類とは、既存添加物と一般飲食物添加物で、増粘安定剤として使われるもののうち、多糖類を2種類以上併用したときにまとめて表示することができる類別名である。この類別名の対象が既存添加物と一般飲食物添加物となっているため、既存添加物のアルギン酸は対象となるが、そのナトリウム塩である指定添加物のアルギン酸ナトリウムは対象にならない。この点には、特に留意する必要がある。
この増粘多糖類には、増粘のために使われるというイメージを持たせる「増粘」という文字が含まれており、用途名の「増粘剤」に関しては併記する必要性は乏しいと判断された。このために増粘剤に使用した場合には、増粘多糖類とだけ表示されるのが一般的である。他の目的で使用した場合には、ゲル化剤(増粘多糖類)、安定剤(増粘多糖類)というように、用途名と物質名である増粘多糖類を表示する必要がある。
かつては、できるだけ使用を避けたいと考えられた糊料であるが、時代の推移とともにイメージに変化があったものか、最近は用途名に「糊料」を用いる食品も増えてきている。なお、化学的な合成法によって作られたに糊料に関しては、「合成糊料」と表示する道も残されているが、実際の表示では見かけることはない。
 
ところで、一般飲食物添加物に、寒天とゼラチンも収載されている。これらは、通常は食品と見なされているが、日本酒などの製造に際して、ろ過助剤(凝集剤)として使用されることがあるために収載されたものである。しかし、素材食品としての使用ではなく、増粘剤やゲル化の目的で使用したときは、用途名との併記の対象になることにも留意する必要がある。
 
(2010年4月25日 加筆・改訂)
 


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